制御不能に陥った日本の国債発行

日本の財政は、空前の危機に陥っている。2009年度当初予算では約46兆円の税収を見込んでいたが、経済危機で企業利益が激減したため、税収も激減した。8月末現在の税収実績は、前年同月比で73%の水準にしかなっていない。このまま推移すれば、今年度の税収は40兆円を下回る。これは、1985年頃の水準だ。つまり、日本の税収は、25年ほど前の状態に逆戻りしてしまったことになる。他方で、歳出がこの25年間に増加したことは言うまでもない。

このため、国債発行額は50兆円を超し、国債発行が税収を上回るという異常事態に陥った。税収に対する利払い費の比率は、2割を超える。利払い費に償還分も合わせた国債費全体では20兆円を超え、社会保障費の25兆円に迫る。

10年度予算がどのようなかたちになるかは、考えるだけで恐ろしい。概算要求は、マニフェスト実現のためにふくれ上がり、一般会計の総額は95兆円を超える。09年度の当初予算総額88兆5480億円に比べて、大幅な増額になる。他方で税収の減少は避けられず、40兆円を下回る可能性が強い。すると、国債発行額は55兆円をも上回る水準になる可能性が強い。

もっとも、以上で述べたことが、ただちに問題であるわけではない。経済危機によって税収が急減したのは、不可抗力によるものだ。しかも、需要が急収縮したときに、増税して財政バランスを回復しようとせず、赤字拡大を放置することは、マクロ経済的には望まれることである(これは、「自動安定化機能」と呼ばれるものである)。

そのうえ、これまでの日本においては、大量の国債増発にもかかわらず、市場消化は順調に進んできた。長期金利は、10月以降上昇傾向にあるものの、まだ低い。こうなるのは、企業に投資意欲がないため、民間の資金需要がないからである。企業収益が低迷し、デフレ傾向が続く環境下では、国債は最も有利な投資対象だ。郵便貯金・簡易保険の資金も、国債に回さざるをえない。「官から民へ」と言うが、民に投資対象がない以上、「民へ」と言うこと自体がナンセンスになっているのである。

つまり、短期的な観点からすれば、赤字拡大と国債増発はマクロ経済的に必要とされることであり、しかも、大量の国債発行は大きな問題を引き起こすことなく推移している。

利子率と成長率の不都合な関係

ただし、危機対応のための国債大量増発が許容される前提条件は、経済が危機的状況から脱却して財政による刺激が必要なくなったとき、財政バランスを取り戻せることだ。

この観点から見ると、日本の財政は、きわめて深刻な問題を抱えている。それは、以下に見るように、日本経済の現在の条件を考慮すると、国債残高の対GDP比が際限もなく上昇してしまう危険があるからだ。

「いま国債を消化できること」と「今後、残高が累増してゆくこと」は、別の問題なのである。

国債残高の対GDP比がどのように推移するかについては、「ドーマーの条件」というものが知られている。今、税収の伸びと普通歳出(国債費を除く歳出)の伸びは、経済成長率と同じであるとしよう。この場合に、国債残高の対GDP比の動向を決めるのは、経済成長率と利子率の大小関係である。

成長経済において予算規模が一定率で増加するなら、毎年度総予算の一定率の国債を発行し続けたとしても、残高の増加率は予算の増加率に収束してゆく。したがって、予算規模に対する国債残高の比率も一定値に収束してゆく。そして、経済成長率が利子率より高ければ、この比率が一定の値に収束することが証明できる。しかし、仮に経済成長率が利子率より低ければ、国債残高の予算規模に対する比率は年々上昇してゆく。つまり、財政破綻が生じてしまうわけだ。

90年代以降低成長に陥った日本では、国債残高のGDPに対する比率は、急上昇した。02年以降に景気回復が実現したため、07年度まで税収の伸び率が回復して、国債残高の対GDP比の上昇は収まった。しかし、今後の日本の状況では、経済成長率は利子率より低くなる可能性が強い。実際、長期金利は徐々に上昇しつつあり、現在は1.4%程度だ。今後これだけの経済成長を継続できる見込みは低い。したがって、上記の「破綻ケース」に陥ることになる。これは構造的な問題だ。これまでも財政危機は深刻だったが、それが新しい段階に入ったのである。

こうした状況から脱却するには、政治が予算を柔軟にコントロールできることが必要だ。

しかし、政治は、こうした状態をコントロールする力を持っていない。自民党はそうした力を持っていなかったが、民主党も財政支出を削減できないことがわかった。

事実、10年度概算要求の中には、次のように「ムダ」としか考えられない新規施策が含まれている。子ども手当 約2.3兆円、高校無償化 4600億円、高速道路無料化 6000億円、農家戸別所得保障 5600億円。さらに、ガソリン税暫定税率廃止で2.5兆円の減収が生じる。これらを合計すれば、6兆円だ。これらは、不要なばかりでなく、有害でもある。たとえば、高速道路無料化や暫定税率廃止は、環境対策に逆行する。農家戸別所得保障は、経済力を弱める。つまり、経済的に必要だから削減できないのではなく、政治的な事情によって削減できないのである。

国債を消化できなくなるとき

歳出が膨張し続け、他方で、税収の増加を期待することができないとすれば、国債発行額を減少させるには、増税するしかない。しかし、それも歳出削減と同じように、困難だ。

民主党も自民党も、頭にあるのは次の選挙であって、財政の将来ではない。したがって、増税に取り組もうとはしない。民主党は、消費税率の引上げは4年間実施しないと、マニフェストに明記している。予算編成の財源手当で議論されるのは、無利子国債とか政府紙幣という「奇策」ばかりである(これらが奇策にすぎないことは、本連載で述べた)。

すると、大量の国債発行は、長期間にわたって続くと考えざるをえない。日本の市場は、これまでは、大量の国債を支障なく消化してきたとはいえ、それがいつまで続くかはわからない。

今年7月に公表されたIMFのカントリーレポートは、日本国債の問題について、20年頃には、国内の貯蓄では国債を消化できなくなる可能性があると予測している。そうしたことが現実になったとき、何が起こるだろうか?

10月21日の「ニューヨークタイムズ」の記事「増加する国債は日本経済への脅威」(Rising Debt a Threat to Japanese Economy)は、日本の貯蓄率が低下して経常収支が赤字に転じ、円安とインフレが将来される危険を指摘している。

海外で日本の大量の国債発行に危惧がもたれているなかで、日本人は、この問題をあまり真剣に考えていない。しかし、円が急落し、それによって激しいインフレが生じれば、国民生活は大混乱に陥る。そうした事態に対して、どのように自衛したらよいのだろうか? 日本国民は、この問題をもっと真剣に考える必要があるのかもしれない。

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