CO2 25%削減はもう達成されている

鳩山政権が掲げる温暖化ガス削減の中期目標「2020年までに1990年比25%減」に関連して、産業界から強い反対が怒った。「こうした過大な目標を押しつけられると、生産を無理やり減少させなければなず、大きな問題が生じる」という主張である。

これに対して、この連載の第428回で、「経済危機によって生産活動は大幅に低下しているから、温暖化ガスの排出はすでにかなり減少しているはずだ」と述べた。

実際にそのとおりのことが起こっているようである。

10月16日付の「日本経済新聞」朝刊によると、08年度における国内生産部門のCO2排出量は、90年度比で、鉄鋼大手4社は11.9%減少、自動車大手5社は39.3%減少した。

07年度との比較で見ると、各産業とも、生産量の減少率と排出量の減少率がほぼ同じ値になっている。したがって、減産によって排出が減少したものと見られる。

ところで、現在の生産量は、08年年度平均よりさらに1割以上下落している。したがって、排出量はさらに減少していると考えられる。仮に生産量に比例して排出量が減少するとすれば、09年8月の90年度比の減少率は次のようになる(最初の2つの数字は、それぞれ08年度、09年度8月の季調前生産指数。最後の数字は、排出量の90年度比減少率の推計値)。

鉄鋼業:91.1、81.6、27.5
乗用車:98.9、85.9、47.9

製造業全体ではどうであろうか。09年8月の製造業全体の季調前生産指数は、07年度に比べると、22.4%の減である。他方、「温室効果ガスインベントリ」(国立環境研究所)のデータによると、産業部門の07年のCO2排出量は、09年比で0.8%の減になっている。

生産指数に比例してこれが現在まで減少したとすれば、「90年比25%減」という目標は、産業部門ではすでにほぼ達成されていることになる(「ケガの功名」的な側面もあるが)。

ここで注意すべきは、現在の生産活動が低水準なのは、一時的な現象ではないことだ。日本の輸出は過去のピーク時より2~3割低い値を今後も続けると考えられるので、生産も低水準で推移するだろう。さらに今後は、新興国向けの製品生産のため、生産拠点の海外移転が進むだろう。したがって、国内の生産活動による温暖化ガス排出は、現在よりさらに減る可能性がある。

07年度の国内CO2排出量のうち製造業は3割強を占めるから、以上で見たことは、大きな意味を持っている。

自動車から鉄道への移行が重要

今後の国内CO2排出量削減のためには、国全体の排出量の約2割を占める運輸部門での排出量削減が重要な課題だ。このために、ハイブリッド車や電気自動車など、ここの技術が重要であることは言うまでもない。ただし、交通体系をどう構築するかも重要な意味を持っている。

CO2排出量は、鉄道を1とすると、乗用車は9.2、タクシーは20.0となっている。一方、ガソリン車をハイブリッド車にしても、せいぜい半分に減るだけだ。だから、排出量削減のためには、自動車から鉄道への移行を促進するほうが、はるかに重要である。

それにもかかわらず、現在の日本での旅客シェアは、自動車が約6割を占め、鉄道は3割弱でしかない。したがって、運輸での排出の大部分は、自動車によるものだ。鉄道は運輸部門の2.9%にすぎず、国全体の排出量の中では0.59%しか占めていない。だから、鉄道ネットワークを整備・強化し、鉄道を中心とした運輸体系をつくってゆくことが必要だ。日本は、諸外国との比較で言えば鉄道大国だが、これをさらに進めることが必要である。

しかも、交通体系は、政策で動かせる部分が大きい。したがって、現在の体系を所与とするのでなく積極的に変化させることができる。

それにもかかわらず、民主党は、高速道路を無料化し、ガソリン税暫定税率を廃止しようとしている。国土交通省の試算によると、高速道路無料化によって、自動車利用者数が57.5%増える一方で、鉄道利用者は10.6%減、航空は4.2%減となる。自動車・鉄道・航空を合わせたCO2排出量は、33%増加する。このように環境対策に逆行する政策は、早急にストップすることが必要だ。

環境技術が使われる経済条件が必要

環境技術について論じられるとき、補助金などの政府の補助策が必要だと言われることが多い。しかし、重要なのは、こうした技術が実際に使われることである。そのためにはエネルギー価格、特に原油価格の動向が大きな影響を与える。アメリカでハイブリッドカーが注目されたのは、ガソリン価格が高騰してからである。高騰前には、ハイブリッドカーはあまり普及しなかった。その原因は、ガソリンが安かったことだ。

原油価格は、70年代末の第2次石油ショックで1バレルあたり40ドル程度まで上昇したあと、80年代には20ドル程度に低下し、90年代を通じてこの水準で安定的に推移していた。このため、エネルギー問題や環境問題に対する関心は薄れた。ハイブリッドカーだけでなく、太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギー投資も、全滅してしまった。

ところが、原油価格は04年頃から上昇を始め、08年の7月には140ドルを超えた。現在は70~80ドル程度であり、ピーク時に比べれば低いが、80~90年代に比べればかなり高い。環境問題に対する関心が高まったのは、地球温暖化現象が無視できぬようになったためだが、それだけでなく、エネルギー価格が上昇したからである。

自動車の場合、ガソリン税もきわめて重要だ。アメリカでは、自動車メーカーや石油メジャーの政治力が強く、ガソリン税率はきわめて低い。ガソリンに対する税(ガソリン税などの個別間接税と消費背や付加価値税の合計)の負担率(07年)は、日本44.6%であり、ヨーロッパでは60%台の国が多い(ドイツでは63.9%)。これに対してアメリカは、12.7%だ。このため、アメリカのガソリン価格は、ヨーロッパの2分の1~3分の1程度にすぎない。

こうして、アメリカは、自動車がないと生活が成り立たない社会になってしまった。かつては都市内にも鉄道が存在したのだが、それらは廃止された。長距離輸送でも鉄道の立ち遅れは明白だ。アメリカのCO2排出量で運輸部門が多くなっているのは、自動車の使用が異常に多いことが原因である。日本でも路面電車の撤去などはおなわれたが、アメリカほどの自動車依存社会にはなっていない。だから、この状態は最低限、維持する必要がある。

今後は、新興国による需要の増大が見込まれるので、原油価格がかつてのような低水準に戻ることはなく、長期的には上昇を続けるだろう。しかし、短期的な変動はありうる。原油価格が低下すると、環境技術は大きな打撃を受ける。

買い替えに対する政府の補助は、いつまでも続かない。それに加えて暫定税率を廃止すれば、ハイブリッド車などは吹き飛んでしまうだろう。

技術開発は、もちろん重要だ。しかし、それが求められる経済条件を整備することも、同じように重要なのだ。

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