日本の自動車産業は生き残れるのか?

ドイツ、日本、中国、アメリカなど、主要な自動車生産国において、今年になって次々に自動車購入支援策が取られた。

ドイツは、新車購入支援補助金を年初に導入し、約200万台分を支給した。アメリカでは、低燃費車に買替える消費者に最大4500ドルを補助する制度を7月下旬に導入した。日本では、エコカー減税や新車購入補助金を実施した。中国では農村部での小型車への買替えに対する補助金の支給や、小型車購入で自動車取得税を半減する自動車普及プロジェクトを実施した。

こうした支援策によって、自動車産業は息をついた。アメリカでは、8月の新車販売台数は前年同月比1.0%増の126万台と、1年10カ月ぶりに急回復を示した。これは、日本車にも恩恵をもたらした。販売台数でトヨタ自動車か2位となり、車種別でもトップ10のうち日本車が7車種を占めた。日本国内でも、エコカー減税や新車購入補助金の効果で、7月の新車販売(軽自動車を除く)は前年同月比4.2%減となり、減少幅が10カ月ぶりに1ケタに縮小した。

しかし、秋に入って、これらの支援策の多くが終了した。それによって、需要が急激に落ち込んだ。アメリカでは、申請金額の合計が予算の30億ドルに届く見通しになったため、開始から約1カ月で打ち切りとなった。このため、9月の米新車販売台数が前年同月比22.7%減と、2カ月ぶりに大幅に減少した。8月と比べると41%も減少した。ドイツでは、新車購入支援策が9月初めに終了した。1~8月は販売契約件数が前年比で25%伸びていたものの、急減。販売台数は8月に比べて半分に減少したと言われる。

支援策の打ち切りで需要が急減したことは、自動車産業が構造的な問題を抱えていることを明白に示している。政府の補助なしでは、先進国の消費者は自動車購入に踏み切らない。将来の所得がはっきりしない状況で、これは当然のことだ。つまり、先進国の自動車需要は、自然なかたちではピーク時の水準には回復しない。

中国市場は自動車産業の救世主か?

以上の傾向の例外が、中国だ。今の世界で、自動車販売の持続的な成長が期待できるのは中国だけだと言われる。

実際、過去10年、中国の自動車生産・販売は、GDPの2倍近くの率で成長してきた。こうした高成長の原因は、言うまでもなく、中国の後進性だ。建国当時、物流の大半は人力・家畜・帆船で行なわれていたものが、経済成長によって、自動車に移行。貨物運輸量は1949年からの60年間で161倍に成長した。

自動車普及率もまだ低い。中国の1000人あたりの保有台数は、アメリカの25分の1程度だ。中国の自動車販売量は、2015年まで毎年約1100万台を超えると予想されている。

実際、08年の自動車販売台数は前年比で32%も増加し、乗用車保有台数は2438万台に達した。09年上半期の自動車販売台数は前年同期比17.7%増の610万台に達し、アメリカの481万台を超えて世界一になった。通年では1200万台に達し、過去最高となる見通しだ。この活況は前述の優遇策によるところも多く、それは来年にはなくなるが、先進国とは違って、需要増加が今後も続くだろう。このため、世界の自動車メーカーは中国市場でのシェア拡大に必死になっている。

では、中国は、日本の自動車産業にとっての救世主になるだろうか?

現在、中国の完成車メーカーは80社程度存在する。外資合弁と民族資本があり、生産・販売のシェアは、日系自動車メーカーが33%程度、民族系が23%程度、ドイツ系が21%程度、アメリカ系が12%程度となっている。

中国で販売される自動車のほとんどは、中国国内で生産されている(09年1~7月では、販売量が718万台で、生産は710万台)。日本からの自動車輸出は、日本の対中国輸出の2%程度にすぎない。だから、中国における需要の増加は、日本の自動車メーカーの利益には貢献するかもしれないが、日本国内での自動車生産や雇用には、ほとんど関係がない。

また、日本車がアメリカで売れた大きな原因は、ドルに対して円が安かったからだ。欧州車は、ユーロ高のために、こうしたメリットを享受できなかった。中国国内の生産に当たって、こうしたメリットを日本車は享受できない。だから、中国での競争は、熾烈なものになるだろう。以上を考えると、中国市場が日本の自動車産業にとっての救世主になるとは、考えられない。少なくとも、日本国内における自動車生産に寄与することにはならない。

国内の過剰雇用と設備が問題となる

ここで、日本の自動車産業の状況を概観しておこう。経済危機の前、日本国内の四輪車生産台数は年1100万台を超え、輸出は650万台程度に達していた。09年8月の日本の自動車産業の状況を見ると、次のとおりだ。四輪車生産台数は約57万台で、前年同月比25.9%の減。乗用車は約49万台で、24.6%の減(うち普通車は約26万台で、32.6%の減)。四輪車国内需要は約31万台で、前年同月比0.5%の減。乗用車は約26万台で、3.2%の増。四輪車輸出は約28万台で、前年同月比44.6%の減。乗用車は約24万台で43.3%の減。

このように、輸出は前年比4割を超える大幅な減少になっている。輸出激減の最大の理由は、主要なマーケットであったアメリカでの新車販売台数の激減だ(06年の1700万台から08年には1000万台と、2年間で40%も急落)。アメリカの消費バブルで自動車購入がふくらみ、それが崩壊したからであり、今後回復する見込みはない。これに加えて、日本からの輸出に対しては、円高の圧力が働く。だから、日本の自動車の輸出は回復しないだろう。

他方で、購入支援策の影響で日本国内の需要があまり減少していないので、生産台数は25%程度の減にとどまっていた。しかし、購入支援策は、時限的制度だ。アメリカやドイツの場合と同じく、日本でも、支援策が終了すれば需要は減少するだろう。また、長期的に見れば、国内需要は継続的に減少している。今後所得が大幅に増えるとは思えないので、減少傾向は続くだろう。

今後かなりの長期にわたって、輸出はピーク比4割減少の300万~400万台程度となり、国内生産は25~30%減少の700~800万台程度にとどまるだろう。

他方で、海外生産は増加するだろう。日本の自動車メーカーの09年1~3月における海外生産は約200万台であり、うちアジアが約100万台となっている。中国国内の生産量と日系メーカーのシェアから見ると、このほとんどは中国での生産と見られる。今後も中国での自動車需要の増加に伴い生産が増加するだろうから、日本の自動車産業は、中国における合弁企業の生産を中心としたものに移行してゆくだろう。

問題は、日本国内に過剰雇用と過剰設備が残ることだ。上で見た数字から推測すれば、3割程度が過剰である。ピーク時の需要に対応して拡張した雇用を整理し、工場を縮小・破棄してゆくことが必要だ。それは、きわめて大きな摩擦を伴うプロセスとなるだろう。

[ad]

Comments

comments

Powered by Facebook Comments

日本の自動車産業は生き残れるのか?” への1件のコメント

  1. この論文の通りと思います。
    この論文はトヨタのリコール発覚前であり現在はもっと悲観的。
    自動車に限らず家電製品にも言えるが従来型のモノつくりは日本にふさわしくない。日本のオーバースペックな製品はグローバルでは受け入れられない。経営者も理解していながらリストラでの摩擦を恐れ先送り。いつかはパンクする。

コメントは受け付けていません。