回復しつつある世界 取り残される日本

10月1日に発表されたIMF(国際通貨基金)の経済見通しにおいて、世界経済の2010年の実質成長率は、7月の見通しから0.6%引上げられて、3.1%とされた。これは、アメリカを中心として金融危機克服のメドがついてきたことを反映したものである。アメリカの成長率は、0.7%引上げられて、1.5%とされた。FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は、9月15日と21日に、「景気後退が終わった可能性がひじょうに高い」と述べた。

金融危機に解決のメドがついたことは、9月30日にIMFが発表した金融機関の損失見通しでも見て取れる。アメリカの銀行部門が07~10年に被る損失の総額は約1兆ドルと見積もられるが、このうちすでに約6割が償却ずみである。残り4000億ドルは、金融機関の留保利益だけで償却することはできず、資本調達しなければ自己資本が減少すると見られるが、それでも中核的自己資本(資本金や法定準備金)だけで、総資産額に対する自己資本比率6%は維持できるとされる。つまり、金融危機は克服できると見られる。IMFの報告は「今後には不確実性がある」としているものの、アメリカ経済が重要なターニングポイントに達したことは、たぶん間違いないであろう。

もちろん、これまでの損失処理は、金融機関の自己努力だけで達成できたわけではない。金融安定化法で用意した7000億ドルのうち2500億ドルは資本注入に充てられたと考えられるので、損失処理に大きな意味を持っていたことは事実である。しかし、これは、議会における民主的プロセスを通じて決定されたものだ。しかも、今後はそうした措置を行なう必要が、たぶんない。もちろん、個別の金融機関に問題が生じることはありうるだろうが、金融機関全体としては、今後は自力で損失が処理できることがわかった。以上の点は大変重要である(中国の景気回復プログラムは民主的な政治プロセスを経て決定されたものではない。また、政府支出の支えをはずしてしまうと、経済が失速してしまう恐れもある。したがって、中国経済の将来には、いまだに不確実性が大きい)。

破綻したのはアメリカ経済でなく日本だった

ところで、前記IMFの見通しにおいて、日本の成長率は1.7%のまま据え置かれた。「世界経済が回復するにもかかわらず、日本経済はその恩恵を受けない」と見なされたことになる。それは、為替レートにおいて円安が進まず、むしろ円高になり、日本の輸出が伸びないことを想定されているからだろう。

なお、10年の数字だけを見ると、日本の成長率はアメリカの成長率より高い。しかし、これは、日本の回復がアメリカより速いことを意味するものではなく、これまでの日本の落ち込みが大きかったことの反動にすぎない。事実、07年から10年までの累積の成長率を計算してみると、世界が10.5%、アメリカ1.2%であるのに対して、日本は-2.3%である(ちなみに中国は45.7%、インドは31.6%になる)。

つまり、10年にはアメリカは危機発生時を超える水準に回復するにもかかわらず、日本はそれより低い水準に落ち込んだままだ。つまり、今回の世界経済危機によって最も大きな影響を受けたのは、主要国の中では日本だったのである。

日本ではこれまで「アメリカ型資本主義の破綻」とか「貪欲金融資本主義の崩壊」ということが盛んに言われた。「アメリカの貪欲な金融機関がカネに目がくらんだ投資を行なったが、それに対して、モノづくりに地道に励んでいる日本は、影響を受けなかった」という考えだ。しかし、実際には、逆の結果になってしまっているのである。それはなぜであろうか。

その答えは、日米の産業構造の違いにある。アメリカの金融機関が無謀な投資を行ない、それが大きな問題を引き起こしたことは間違いない事実だ。しかし、金融取引における損失の大部分は、経済全体で見ればリアルな損失ではない。金融機関に損失が発生する半面で、その取引相手は利益を得ているから、経済全体で見れば損益は帳消しになるのである。つまり、金融は、基本的にはゼロサムゲームである。自然災害や戦争によって富が滅失したのとは違う。金融機関が損失を処理する段階で雇用整理を行ない、経済活動は混乱する。しかし、それは、新しい均衡に至るまでの摩擦現象にすぎない。

今回の金融危機について言えば、アメリカで作られた証券化商品に対してヨーロッパの金融機関が投資をしたケースが多かった。こうしたケースについて言えば、アメリカは損失をヨーロッパに押しつけて、その半面で利益を得たことになるわけだ。

ところが、製造業は、これとは違う事情に直面する。アメリカで自動車を中心としてバブル的な消費需要がふくれ上がった。それに対して日本の自動車産業は、生産能力拡大のために投資を行なった。しかし、需要が急減すると、それは過剰設備になってしまう。つまり、(後になって考えれば)、無駄な対象に投資を行なったことになるわけである。それは経済全体にとってのリアルな損失であり、負担である。

したがって、アメリカが回復するにもかかわらず日本が回復できないのは、アメリカは製造業の比率が低い輸入国であり、日本は製造業の比率が高い輸出国であるためだ。

「金融は地に足が着かない虚業であり、モノづくりは誠実な経済活動だ」という議論は、感情には訴えやすい。しかし、経済活動は、感情論だけでは評価できないのである。

内需主導の経済構造を実現できるか

日本にとって必要なのは、産業構造を、製造業中心のものから内需主導型のものに転換してゆくことである。しかし、日本は、それを実現していない。

4~6月期のGDP成長率はプラスに転じたが、それは外需の回復によるものであって、内需はきわめて弱い(なお、中国も、消費を中心とした内需が経済成長を牽引するような経済にはなっていない)

民主党は内需主導型経済を実現するとしている。民主党が円高を容認して内需主導を求めるか否かに変わりなく、これまでのような異常な円安に依存した外需依存の経済成長は、もはや不可能である。最大の理由は、欧米諸国が金利を大幅に下げてしまったことだ。したがって、自動車においてさえ、かつてのように日本が世界市場を制覇することはできないだろう。内需主導型経済への転換は、必然である。

長期的に見ても、日本の輸出産業の技術的優位性がいつまで続くかは、疑問である。たとえば、自動車の場合、ハイブリッド車で日本が技術的に優位にあることは間違いないが、電気自動車の時代になったときに、日本の技術が世界最先端であるかは疑問だ。

問題は、自民党がこれまでなしえなかった本当の構造変化を、民主党が実現できるかどうかだ。国民は固唾をのんで見守っている。

最初のステップは、来年度予算の編成において、内需主導型経済を裏付ける政策プログラムを打ち出せるか否かである。特に緊急なのは、雇用創出プログラムである。このために残された時間は、後1~2カ月しかない。

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