G20が求める内需主導型経済

9月末の主要20カ国地域(G20)首脳会議(金融サミット)は、「世界経済不均衡の是正を目指す」との首脳宣言を採択した。この合意は重要な意味を持っている。なぜなら、今回の金融・経済危機の大きな原因として、世界的なマクロ不均衡があったとの認識が共有されたからだ。

経済危機の最大の原因が、アメリカの金融機関の無謀な投資にあったことは、疑いもない事実である。しかし、金融機関の行動だけで世界的なバブルが引き起こされたわけではない。

マクロ経済的に見れば、問題は、アメリカの過剰消費と経常赤字の拡大であった。アメリカが経常収支で赤字を記録し、中国、日本、産油国などが黒字を記録するという構造自体が田立に問題であるわけではないが、アメリカの赤字は、2006年~07年頃には、持続可能なレベルを超えてふくれ上がってしまった。それを支えたのは、黒字国からの資金環流である。

また、円や人民元の過小評価が異常なレベルにまで達したことも、日本や中国の貿易黒字拡大の大きな原因となった。そして、こうした事態がもたらされた背景には、日本や中国のマクロ経済政策の歪みがあった。その意味で、黒字国も経済危機の原因をつくったことになる。今回のG20宣言は、それをあらためて確認したという点で大きな意味がある。

宣言は、そのような経済構造を変えるべきことを求めている。日本、中国にとっては、経済構造を、これまでの外需依存型のものから内需主導型に転換してゆくことが必要になる。

中国は、政府支出を拡大して、輸出が減少する中で経済成長を実現した。その意味では内需が経済を回復させていることになるが、膨大な政府支出をいつまで継続できるかは疑問だ。内需項目として最も重要な消費は、中国ではGDPの。30.8%(08年、家計調査ベース)を占めるにすぎない。したがって、持続可能な内需主導型経済を実現しているとは言いがたい。

日本は、4~6月期にGDP成長率がプラスに転じたが、それは主として外需の増加による。したがって、内需主導型経済を実現しているとは言えない。経済政策の面でも、エコカーやエコ家電の買い換え補助は、国内の需要を対象としているとはいえ、その実態は、輸出産業に対する補助策である。したがって、経済政策も内需主導型のものに転換しているわけではない。日本にとっても中国にとっても、G20合意の実現は、これからの課題である。

産業構造とマクロ政策の転換が必要

「内需主導」という言葉は、すでに広く使われている。民主党は選挙のマニフェストで「内需主導型経済を実現する」と公約した。また、政権獲得後も、さまざまな機会に「内需主導型経済を実現する」としている。

しかし、言葉だけがひとり歩きして、具体像がはっきりしない面がある。鳩山由紀夫首相は「子ども手当やガソリン税暫定税率の廃止、高速道路料金の無料化」などをそのための政策手段として挙げているが、このような細切れの手段で実現できないことは明らかである。経済構造を内需主導型に転換するには、経済政策の全体を整合的に切り替える必要がある。とりわけ重要なのは、産業構造とマクロ経済政策の転換だ。

まず、製造業の比重低下が必要である。現在の日本経済は、製造業の比率がアメリカやイギリスなどに比べてかなり高い。製造業の多くは、輸出指向型のものである。その典型は自動車産業であり、07年度には国内生産の57.4%が外需となっている。内需主導型の経済を目指すのであれば、サービス産業の比率が高まらなければならない。

マクロ政策では、円高の容認が必要である。01年以降の景気回復の背景には、アメリカの消費が増えたことだけではなく、異常な円安が進んだこともある。そして、これをもたらしたものは、金融緩和・緊縮財政の組み合わせと、為替介入だ。こうした政策とは決別しなければならない。

円高になれば海外から買うものの価格が安くなるから、日本人は豊かになる。したがって内需主導型の経済には円高が不可欠だ。しかし、外需依存型経済では逆になる。輸出産業の利益が減少するからだ。したがって、これまで日本では、円高になると株価が下がるということを繰り返してきた。今回の円高局面に置いても、それが見られる。

藤井裕久財務大臣は「為替介入をしない」旨の発言を繰り返していたが、1ドル80円台突入以降、発言に微妙な変化が生じた。民主党政権は、内需主導型経済を本機で実現する気があるのかどうかのテストにさらされている。

「内需主導型経済」の具体像をGDPの需要項目で表現すれば、消費支出が増える経済である。ここ10年程度の日本経済は、これとは対照的な姿であった。01年以降にもっとも顕著な伸びを示したのは、外需(GDP統計でいう「純輸出」)であった。そして、それに牽引された設備投資だった。

その半面で、消費支出は停滞した。それは、1990年代の末から賃金が低下したためだ。賃金低下は、国際市場で低賃金国の製品と競合したためだ。こうした事態になると、国内の賃金が低下する(これは、経済学で「要素価格均等化定理」として知られていることである)。つまり、外需依存型経済であるためには賃金が低下して消費が伸び悩み、その結果さらに外需依存が必要になった面がある。

外需依存の経済成長はもはやできない

「内需主導型への転換」は、G20で要請されたために、日本が無理やりに、あるいはいやいやながら、取り組むべき課題ではない。ここ1~2年の世界経済情勢を見れば、外需依存が不可能になっていることに注意しなければならない。少なくとも、07年頃までのように輸出を増やすことは、アメリカ経済の消費バブルが崩壊した今となっては、不可能なことだ。

また、欧米諸国が利下げをした結果、かつてのような異常な円安は、もはや不可能だ。現在生じているドル安は、アメリカが当面は金利を引上げないと見た投機筋によるドルキャリー取引の結果である可能性もある。ガイトナー米財務長官は、アメリカが過剰に消費し、日本や中国など形状黒字国が輸出依存を続ける構図は持続不可能との考えを示した。

したがって、内需主導型を妨げるような経済政策を行なわなければ、自然に内需主導型に移行せざるをえなくなる。ただし、その過程では、損失を被る経済主体が出る。外需依存のビジネスモデルを継続したい企業の側から強い反対が生じるのは不可避だ。

この摩擦過程を以下に切り抜けるかが政治の問題だが、緊急に必要なのは、積極的な雇用創出を行なって、国民の支持を取り付けることだ。現在行なわれている雇用調整助成金と買い換え補助の政策体系を捨てて、これに切り替える作業は、本来は来年度予算(または今年度補正予算)編成の最大の課題とすべきものだ。

そうした取り組みを行なわなければ、内需主導型経済をリードする産業も生まれず、他方でこれまでの外需依存企業が弱体化し、すべてが中途半端になることがありうる。その過程で失業率は増加し、また税収も減少する。社会的不安が増大し、政治的な不安程度が高まる。そうした事態を回避できるかどうかが重要だ。日本の経済も社会も、今重要な岐路に立たされている。

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