内需主導型経済なら高い環境目標は可能

「2020年までの温暖化ガス排出量を、1990年比で25%削減(05年比30%減)する」という鳩山由紀夫首相・民主党代表の発言が波紋を呼んでいる。麻生太郎前首相が6月に決めた中期目標は、05年比で15%減(90年比では8%減)だったが、これに対しては海外から批判的な声が上がっていた。したがって、鳩山発言は、大きな前進だ(もっとも、国連の気候変動に関する政府間パネルIPCCの指摘では、温暖化に伴う干ばつや洪水の被害を避けるには、先進国は20年までに90年比25~40%の削減が必要としているから、これでも十分とは言えない)。

鳩山発言に対しては、「とうてい実現できない」とか「産業界に大きな負担増になる」などの意見が聞かれる。中期目標の検討は、首相官邸、地球温暖化問題に関する懇談会、中期目標検討委員会に置いて行なわれたが、3月27日の委員会に日本エネルギー経済研究所が提出した報告は、「90年比13%削減は、厳しい負担から、国民の合意を得られるかどうか疑問。23%削減は不可能」と結論づけていた。15%減の中期目標は、こうした分析を基として決められたものだ。

ただし、この分析は、今回の経済危機以前の経済構造を前提としたものである。昨年秋以降の経済危機によって、日本の経済構造は一変した。したがって、温暖化ガスに関する条件も一変したのである。具体的には、次のとおりだ。

温暖化ガスの排出量は、産業部門が約4割、運輸部門が2割強、家庭部門は1割強である。産業の中では、鉄鋼とセメントの比率が高い。そして、温暖化ガスの排出量は、生産水準と密接な関係を持っている。02年以降の景気回復の中で重厚長大産業が息を吹き返したため、排出量は増大を続けた。その結果、日本の排出量は、京都議定書で設定された90年比6%減を達成するどころか、逆に11%の増加となった。

右で述べたエネルギー研の報告は、07年頃までの生産活動の拡大が今後も続くと仮定したものだ。具体的には、粗鋼生産が20年で約1.2億トンになることを前提としている。

ところが、現実の鉄鋼生産は、リーマンショック以降、急減した。最近時点での年間国内粗鋼生産量は9000万トン程度であり、エネルギー研想定の75%程度にしかなっていない。そして、これがかつてのレベルに回復する可能性は、きわめて低い。

したがって、「05年比で15%減」という現在の中期目標の前提は、もはや非現実的になったと考えるべきだ。だから、新しい経済情勢の下で、新しい目標を再検討する必要がある。現在の経済情勢を考えれば、鳩山首相の言う25%削減は、簡単に実現できるものではないとはいえ、決して実現不可能な目的とは考えられない。

民主党がマニフェストに掲げている内需主導型経済を志向し、脱工業化・脱外需依存を促進すれば、重厚長大産業の比率はさらに低下し、クリーンな経済を実現できるだろう。

このような方向に経済政策の全般を切り替えることによって、高い環境目標も同時に達成できる。民主党は、ぜひともこの方向を目指すべきである。

輸送面でも整合的な政策を追求すべきだ

「エネルギー白書」によると、06年における日本のエネルギー期限に酸化炭素排出量の全世界比は、4%である。他方で、日本のGDPの対世界比は08年で8.1%だ。つまり、日本の排出量は、GDP比の半分程度でしかない。日本は間違いなく環境面での優等生なのである。

しかし、このことは、「日本はすでに限界まで努力しているから、これ以上はできない」という、いわゆる「乾いたぞうきん」論の正しさを意味しない。日本の排出量が相対的に少ないのは、輸送における鉄道の比率が高いことにもよるのだ(アメリカは、排出量での世界比が20%であり、GDP比が23.5%だ。アメリカの産業構造では製造業のウエイトが低いにもかかわらず排出寮費が低くならないのは、輸送における自動車の比率が高いことによると考えられる)。

したがって、今後ともこのような輸送構造を維持することが必要である。そのためには、民主党がマニフェストに掲げた「高速道路無料化」と「ガソリン税暫定税率廃止」は見直す必要がある。

民主党は、高速道路を無料化すれば、一般道がすくし、移動速度も上がるから、排ガスが削減されるとしている。しかし、これは、鉄道やバスから乗用車への切り替えを無視した考えだ。実際にはこうした切り替えが生じ、ガソリン使用量が増大する。しかも、「1000円乗り放題」で明らかになったように、渋滞が発生し、排ガスの排出量は増大すると考えられる。したがって、この公約を取り下げることが必要だ。ガソリン税の暫定税率引き下げも、ガソリン使用量の増加をもたらす。これも、08年4月に暫定税率が一時廃止されたときの経験から、明らかである。

民主党は炭素税の導入を考えているようだ。確かに、炭素税のほうが課税対象が広いし、ガソリン税は道路特定財源とされているので使途に制限があるという問題もある。したがって、ガソリン税暫定税率よりは炭素税のほうが望ましい。

しかし、負担が数兆円に上る税を新たに導入するのは、政治的には大変困難なことだ。したがって、問題はあるにしてもガソリン税を炭素税の代替物として考えることは、現実的な方法である。暫定税率を引下げるなら、少なくとも炭素税の導入を条件とすべきだ。

そもそも、高速道路無料化や暫定税率廃止は、何を目的とした政策なのかがはっきりしない施策だ。こうしたばらまき的な要素が強い個別政策の列挙からはできるだけ早く脱却し、明確な政策目標の下に整合的な経済政策の体系を確立する必要がある。

新興国を取り込むため高い目標を掲げる必要

中国の二酸化炭素排出量は世界の20%であり、GDPにおける世界比7.3%の約3倍になっている。中国が排出量を抑制すべきことは明らかだ。現在は先進国と発展途上国の排出量はほぼ半々だが、50年には途上国が60%以上になると予測されている。

「日本の環境技術を中国に売ることで、あるいは環境技術の提供によって中国から排出権を手に入れることで、日本の発展が期待できる」との考えがある。こうしたことが可能なら望ましいことは明らかだが、その前提条件として、中国が真剣に環境問題に取り組むように仕向ける必要がある。

現行の京都議定書が、世界を途上国と先進国に分け、先進国にだけ削減義務を課している。しかし、これでは全世界的な取り組みは進展しない。そこで、中国やインドなど新興国を他の途上国から切り離し、13年以降のポスト京都議定書の枠組みで新たに削減目標を貸す方向での検討が始まっている。また、京都議定書を離脱したアメリカは、新興国が排出削減を進めない限りポスト議定書にも参加しないとの立場を取っている。したがって、新興国への削減義務づけは、ポスト議定書交渉の最大課題だ。

09年12月にはコペンハーゲンで国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が開催される。こうした国際的な場における日本の発言力を高めるためにも、日本は率先して高い目標を掲げるべきだ。

[ad]

Comments

comments

Powered by Facebook Comments

内需主導型経済なら高い環境目標は可能” への1件のコメント

  1. 国が高い目標を掲げてそれを追求することは素晴らしいことです。それを実現するための仕掛けを同時に掲げるべきです。残念ながら鳩山首相にはそれはなく(彼の発言は裏付けのないものが多いが)これから具体策を考えることになっている。それでも高い目標を掲げその方向に産業界をひっぱてゆくことに意義がある。反対しているのは既得権を主張する業界である。

コメントは受け付けていません。