100万人雇用創出事業を発動せよ

リーマンショックから1年がたった。しかし、日本経済の基本的条件は、改善していない。GDP成長率や企業収益は急降下から脱したとはいえ、本格的に回復したわけではない。先行指数である工作機械受注は減少を続けている。また、失業率は上昇を続けている。

こうした状況を見ると、秋から冬にかけて、状況が深刻化する可能性がある。これに対処することは、民主党にとって、緊急の課題である。その主眼は、雇用の確保だ。増加し続ける失業者に対処するため、百万人単位の雇用創出を行なう必要がある。

失業率が上昇し続けるのは、製造業を中心として企業が膨大な過剰雇用を抱えているからだ。現在では、これを雇用調整助成金で企業内に抑え込んでいる。また、エコカーへの買い換え補助などの需要喚起策を通じて、企業の需要を増やそうとしている。しかし、これらの政策が効果を発揮しているとは考えられない。少なくとも、失業率を改善していないのは、明らかである。エコカー補助は、自動車産業の雇用減を食い止めていない。

また、仮にこれらの政策に効果があるとしても、それは、一時しのぎにすぎない。施策が終われば、状況は元に戻る。カンフル注射を続けているようなものだから、体力が回復することにはならないのだ。

民主党は、こうした一時しのぎの経済対策からは脱却し、強力な雇用創出プログラムを開始する必要がある。それは、単に短期的観点から必要であるばかりでなく、今後の日本経済が内需主導経済に転換する突破口をつくるためにも必要だ。

介護や保育を中心とした雇用創出プログラム

大規模な雇用創出は、原理的には可能である。たとえば、次のようなことが考えられる。

失業者あるいは失業予備群を臨時の公務員として採用し、要介護者がいる家庭に派遣するのである。現在、こうしたサービスの供給は介護保険の枠内で行なわれているが、さまざまの制約があるため、実際に供給されているサービスは、必要とされる水準を下回っている。したがって、ここで述べたような新しい介護プログラムを開始すれば、雇用創出に寄与するだけでなく、介護に苦しむ家計にも大きな朗報となる。

介護だけでなく、働く女性のための保育サービスでもよい。これは、民主党がマニフェストで提案した子ども手当より、遙かに有益なはずである。

これら以外にも、社会的に有意義な仕事で人手不足の分野は数多くある。そうした分野に対して、政府が賃金を支払ってサービスの供給を行なうのである。

ケインズは、国債を発行して資金を調達し、「銀行券を埋めて、また掘り返すような」事業にそれを使ってもよいと言った。同時に、「もしもっとまともなことができるなら、そのほうがよい」とも言った。ここで述べたことは、「もっともっと、まともなこと」である。

仮に100万人の失業者を対象として、年収300万円を支払うプログラムとすれば、必要な費用は3兆円だ。これは決して簡単にできることではないが、不可能でもない。

先般の追加経済対策において、雇用調整助成金の拡充のために6012億円、一般会計における「雇用対策」として1兆2698億円の予算措置がなされた。これらは、実質的には賃金であるものを政府が面倒を見るという意味で、ここで述べたものと同じものだ。しかし対象者は休業者として企業内にとどまっており、社会的に有意義な仕事を行なってはいない。これを廃止し、現在充てられている予算を回せば、2兆円近くの財源が確保できる。

また、民主党が主張しているように、予算のムダを排除して工面することもできる。また、当面の財源としてなら、いわゆる埋蔵金を充てることも許されるだろう。それでも不足なら、国債を増発して財源を調達すればよい。幸い、これまでのところ、増発された国債の消化に支障は生じておらず、長期金利も安定的だ。これは、現在の日本のマクロ的状態には、国債増発の余地があることを示している。民主党は、国債発行額に上限を加えるとは言わないほうがよい。

内需主導という花見酒経済の勧め

落語に「花見酒経済」というのがある。2人の男が、花見の客に酒を売りに出かけた。しかし、酒は売れない。そこで兄貴分が懐から銭を取り出し、弟分に渡しして酒を買い、飲んだ。弟分は、もらった銭を兄貴分に渡して酒を買い、飲んだ。これを繰り返しているうちに、酒樽は空になってしまった。2人は酒が全部売れたと喜んだが、元銭が残っているだけで、カネは増えていない。

ところで、以上で述べたのは、ある意味で、花見酒経済だ。しかし、それでもよいのである。これに関する誤解はかなり一般的なので、以下に説明しよう。

自分たちで飲んでしまっては、酒を造る原料を買うことができない。しかし、貯金の利子収入があるなら、それで買えばよい。だから、酒を他人に売らず、自分たちで飲んでしまってもよいのだ。ここで提案したプログラムでは、介護サービスを供給した人は、それで所得を得て消費する。消費財生産のために、経済活動が活発化する。内需主導型経済とは、このようなものなのである。

「日本は資源に乏しいので、海外から輸入しなければならない。その購入資金として外貨を稼ぐ必要があり、そのためには輸出をしなければならない」と多くの人が考えている。しかし、これは、高度成長時代の考えである。

現在の日本は225兆円という巨額の対外純資産(2008年末)を保有しており、それからの収入である「所得収支」が巨額になっている。09年7月では、1兆2468億円の黒字で、これは自動車輸出額のほぼ2倍だ。海外から資源その他を購入するための資金は、これによって賄うことができるのである。

もし所得収支の黒字で不足するなら、対外資産を取り崩せばよい。輸出がさらに減って貿易収支が年2兆円の赤字になっても、あと100年はもつ。

内需主導型経済は、ここで述べたものに限らず、花見酒経済なのだ。高度成長期の初め、笠信太郎は、「高度成長は花見酒経済のようなもの」と批判した。じつは、高度成長は花見酒経済ではなかった。このプロセスは、既存のものを食いつぶしたのでなく、生産能力を増強したのである。しかし、ここで提案したことは、高度成長期の経済成長モデルとは異なり、生産能力を増強しない。その意味で花見酒に近い。だが、現在の日本には、それが許される客観的状況があるのだ。

1980年代に内需主導型経済が提唱されたが、それは実現しなかったと前回述べた。その最大の理由は、自民党政権が輸出産業に不利な政策を行なえなかったことだが、いま1つの理由は、当時の日本の対外資産蓄積は内需主導型への転換を正当化するほど多くなかったことである。当時の状況では「外貨を稼ぐ」必要性は依然として高かったのだ。この点で、日本は変わったのである。

自民党の追加経済対策は、これまでの産業構造を温存するためのものだ。
ここで述べたのは、それを変革するものである。政権交代によって、日本でも経済構造を大きく変えることが可能になった。このチャンスを生かせるかどうかが、今後の日本の命運を決める。

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100万人雇用創出事業を発動せよ” への2件のコメント

  1. 産業構造の変革はMUSTと思いますが
    介護等の分野はそのすそ野があまり大きくないように思います。
    もちろん住宅あるいは自動車のようなすそ野が広くその分野への経済対策が大きく波及する産業は多くありませんが 都市の整備のようなインフラの構築のほうが乗数効果がはるかに大きいと思います。

  2. お邪魔します。
     かつてホッブスは「富は有限のものである(例えば土地)。であるから
    『椅子取りゲーム』状態となって、富を奪い合う争いは無くすことができな
    い」といった事を言っていたと聞いています。一方ジョン・ロックは「富は
    労働によって増やせる(だから富を奪い合う争いは無くすことが可能)。」
    と主張し、これを前提の一つにして近代資本主義が成立したとも聞いていま
    す。

     「雇用創出」の前提には「富は労働によって増やせるか否か」という問題
    があるのではないでしょうか。もし増やせないのであれば「雇用創出」は
    「食い潰す人間を増やすだけ」になってしまうかも知れません。「地球は
    有限、自然環境も(地下等)資源も有限(人間の営みに対して十分に大きい
    とは言えなくなった)」昨今では「人間の作れる物は地下資源といった人間
    の作れない物に比べて価値が低く、最も価値の無い物は人間それ自身」に
    なりつつあるように思えます(原油や穀物の高騰等を見て)。地球環境問題
    に関しては先進国と途上国の「富の奪い合い」が顕著となり、そのうち「土
    地も無く資源も無く人ばかりが多い」日本は「世界の敵」とされるので
    しょう(最終的には中国が巨大なブラックホールと化して世界は崩壊?)。

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