産業構造の改革抜きに経済問題は解決しない

国会論戦における経済問題に関しての対立は、格差是正vs成長ということになりそうだ。これに関して、本稿は次の点を指摘したい。それは、「従来型の産業構造が続く限り、格差是正策によっても、成長促進策によっても、問題は解決できない」ということだ。

さて、代表質問などを聞くと、民主党は、小泉改革による弱者切り捨て、地方切り捨て路線によって、格差が拡大したとしている。「小泉純一郎内閣の6年間に、日本は世界で最も格差のある社会になった」という小沢一郎代表の言葉が、それを代表している。

それから演繹されるのは、低生産性部門保護策の拡充とばらまき福祉の復活だ。これは民主党だけでなく、自民党の大多数の人びとの考えでもある。

これに対して、政府は、問題の根源は成長率の低下にあり、成長率を底上げすることによってさまざまな問題が解決できるとしている。つまり、「成長がすべて」路線だ。

この立場は、次のように言う。企業業績が向上すれば、いずれ賃上げに反映されるだろう。そして、経済成長で税収が増加すれば、格別の増税を行なわなくても財政収支は改善し、財政再建が実現できるだろう。だから、金融緩和を継続し、円安を維持する。そして、法人税率を軽減すべきだ。日本経済団体連合会に代表される大企業グループは、賃上げへの反映には否定的だが、成長促進策は支持している。

どちらにも共通している基本姿勢は、従来の産業構造を変えようとしないことだ。そのうえ、成長率かさ上げで対処するか、それとも従来型の格差是正策で対処するか、の違いがあるだけである。どちらも、手術を伴う構造改革ではなく、痛み止めの対症療法ですまそうとしている。では、これによって問題は解決されるのだろうか?

コモディティ化した製品の拡大では利益は上がらない

まず、「格差是正型政策」を取り上げよう。これは、「弱者切り捨て、優勝劣敗主義、市場優先主義が格差を広げているので、それを是正しよう」という立場だ。しかし、弱者切り捨てや地方切り捨て、あるいは市場主義を是正したところで、問題の本質的な解決にならないことは、個別の事例を見れば明らかだ。

たとえば、公共事業を増やし、ムダな道路を地方に造れば、それで問題は解決するだろうか? 参院選には有効かもしれない。しかし、政府依存を強めるだけのことだろう。しかし、政府依存を強めるだけのことだろう。短期的には不平は静まるかもしれないが、問題そのものはますます悪化する。それに、財政赤字が拡大するから、こうしたことはいつまでも続けられない。現在の日本には、高度成長期のように、ばらまき財政を継続する財政的な余裕はないのだ。

ワーキングプアが増えているのは事実だが、最低賃金引き上げで対処できるだろうか? 雇用が減るだけの結果に終わるだろう。それによって、底辺労働者の状況はますます悪化する。

郊外での大規模店舗を規制すれば、駅前商店街の窮状は救えるだろうか? これまでの商売を続けるだけでは、客離れをとどめることはできず、衰退の速度が緩慢になるだけだろう。

民主党は、歳出削減で財源を生み出して年金財政を賄うと言う。しかし、今後増大を続ける年金支出を賄えるほどの歳出削減ができるはずはない。むしろ、歳出削減の最大の眼目は、年金そのものなのである。

企業に賃上げを期待しても、実現しそうにない。無理やり行なえば、企業は国際競争に落後し、労使共に沈没するだけだろう。

「実現可能性が低く、効果がない」という点では、「上げ潮政策」も同じだ。まず、最大の問題は、成長率を引き上げるのは、きわめて難しいことだ。それに、仮に成長率がかさ上げされたところで、問題は解決しない。

コモディティ化した製品で量的な成長だけを実現しても利益が上がらないことは、薄型テレビの最近の状況を見れば明白である。生産量は拡大したものの、猛烈な値下げ競争が生じて、各社は体力を消耗している。

同じことは、PCの生産で、しばらく前から生じている。誰でも組み立てられるから、いくら生産を増やしても利益は上がらない。PCの生産で言えば、OSやMPUのようにコモディティ化していない製品で優位性を獲得しない限り、利益は確保できない。

日本の産業が陥っている問題は、個人の能力に起因するものではない。たとえば、日立製作所とグーグルを比較してみよう。1人当たりの企業価値には約500倍の差があるが、それは、グーグルの従業員が500倍優秀だからではない。日立やソニーには優秀な技術者が多数いるにもかかわらず、その能力が生かされていないのだ。

他方で、グーグルに働く普通の能力の従業員は、IPO(新規株式公開)によって億万長者になった。この差をもたらしたのは、日立とグーグルのビジネスモデルの差だ。このような状況下で、いかに「再チャレンジ」の条件が整備されたところで問題は解決しない。

原因への理解が間違っていれば、対策も間違ったものになる。現在の日本が抱える問題は、格差是正策を推進しても、成長率をかさ上げしても、解決できないものである。なぜなら、世界経済の構造変化が背後にあるからだ。

小泉経済政策の本質は古い産業構造の温存だった

従来の産業構造を維持したままでは、要素価格均等化定理から逃れられない。簡単に言えば、「中国人、インド人並みの賃金になる」ということだ。これから逃れる唯一の方法は、中国やインドにはない産業に転換することだ。問題の根は深く、即効性のある政策はありえないことを認識しなければならない。

格差問題の基本的な原因も、ここにある。経営者の所得は増え、配当所得も増える。資本の報酬は、全世界的に上昇する。そして、労働の報酬が落ちる。

前々回(2月10日号)に指摘したように、こうした変化は、産業構造と深い関係がある。

構造が大きく変化したとき、対症療法では対処できないのである。しかし、政治の世界では、負担の増加や痛みを伴う政策は封印される。少なくとも、参院選の前には、問題にされない。そして、対症療法か気休めの弥縫策が提案される。

日本経済の状況は、たとえて言うならば次のようなのだ。

部屋の温度が急に下がったので、持病が悪化した。手術しないと直らない。しかし、「手術をする」と宣言はしたものの、痛み止めを与え続けてきた。そのうち部屋の温度が元に戻ったので、痛みは止まった。したがって、今後も手術が行なわれることはないだろう。

「出術」というのは産業構造の改革で、「痛み止め」が金融緩和と円安だ。手術をしないで痛み止めだけを与え続け、古い産業構造を温存したのが、小泉経済政策の本質である。上げ潮政策は、それを継承しようとしている。その本質は、金融緩和と円安政策だ。(法人税減税が本当に効果を発揮すると期待しているわけではあるまい)。

だから、利上げに対して政府が強硬に抵抗したのは、当然のことなのである。海外(特にヨーロッパ)から、円安に対する批判が上がってきた。日本の経済政策に対する批判は、これまで国内からでなく、国外から生じた。今回も同じことが繰り返されるだろう。

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