内部統制も重要だが市場からの監視も重要

日興コーディアルグループが連結決算で利益を不正に水増ししていた問題に関して、特別調査委員会の調査結果が公表された。それによると、一連の不正経理は、会社ぐるみの意図的な操作であったという。また、総会屋への不正な利益供与事件で有罪判決を受けた元常務に報酬を渡していた事実も発覚した。

今、世の中では、内部統制の重要性が強調されている。また「貯蓄から投資へ」というスローガンも叫ばれている。そうしたなかで、資本市場の主要な担い手になるべき企業における不正問題は、重大だ。

不正経理といえば、西武鉄道とカネボウの事件が記憶に新しい。10年前には、日本長期信用銀行や山一證券で、含み損の「飛ばし」が発覚した。また、野村證券や第一勧業銀行を舞台とした総会屋への利益供与事件もあった。これらを思い出して、デジャビュ感覚に襲われる。そのときの教訓がなにも生かされておらず、10年前とほとんど同じことが行なわれていたことを知ると、驚くほかはない。

金融危機当時に行なわれたことは、「会社を延命させるためのやむをえない措置だった」と言えなくもない。ところが、今回の利益操作では、役員の業績連動報酬との関係も示唆されている。もしそうなら、きわめて大きな問題だ。

情報の非対称性のために防止が難しい不正経理

大組織の内部は複雑で、外からうかがい知れないことが多い。したがって、取引相手とのあいだで、情報のアンバランスが発生する。「供給者が質の悪いものを提供しても消費者にはわからない」という、「情報の非対称性」の問題だ。日本の最近の例では、不二家事件や、耐震強度の偽装問題などがこれに当たる。

日興の問題も、情報の非対称性から生じた問題だ。ただし、不正経理の問題は「企業対消費者」にとどまらない。組織規模が巨大化し、情報システムが高度化し、さらにファイナンスの手法が高度化すると、組織の内部にいても、またトップにいても、一個人にはシステムの全容を把握できない、という事態が発生するのである。

山一證券の最後の社長になった野沢正平氏は、不正経理問題の存在を知らなかった。就任後に担当者から説明を聞き、「腰が抜けて立ち上がれなかった」そうである。内部統制の強化が意識されるきっかけとなったエンロン事件では、支配下にある特別目的会社(SPC)を連結対象からはずしたり、デリバティブの価格付けで不正を行なうなど、高度なファイナンス手法が使われた。この場合も、ケネス・レイ元会長が実態をどの程度正確に把握していたかは疑問だ。今回の事件でも、SPCや他社株転換債などの手法が用いられている。不正経理の防止は、昔に比べて、ますます難しくなっている。

さて、こうした事件が発覚すると、規制の強化が必要との意見が強まる。今回も、事件を受けて、金融庁は監督対象を証券グループの持株会社まで拡大することを検討している。また、先頃制定された金融商品取引法でも、内部統制の強化がうたわれている。

これらは、確かに必要なことだろう。特に日本の組織では、メンバー間の連絡が文書でなく口頭で行なわれることが多いので、内部統制の強化でそれを明示化するのは重要だ。しかし、体制だけ整えても、機能するかどうかの保証はない。実際、今回の場合にも、旧中央青山(現みすず)監査法人は、以前の決算を「適性」としていた。

ここでは、規制や内部統制の強化と並んで、市場からの監視が重要なことを指摘したい。

市場は、本来、組織内部の問題を見抜く力を持っている。以前この欄で紹介したスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故の際にアメリカの株式市場が示した反応が、その目覚ましい例だ。

事故直後に、事故の原因であった固形燃料ブースターの製造担当者であったモートン・サイオコール社の株価だけが値下がりしたのである。どのようなメカニズムでこれが可能であったのかは、いまだにはっきりとはわからない。しかし、多数の市場参加者の厳しい目が、事故原因を、ほぼ瞬時に、的確に判定したのは事実である。

同様のチェックは、不正経理などに関しても働きうる。「特別利益の上がる事業をやっていないのに、会社全体の利益が多額になるのは、不正が行なわれているからに違いない」という類いの判断を市場がなしうるからだ。

しかし、日本の場合には、ライブドアの場合に見るように、内実のない企業がもてはやされた。日本の資本市場は、適切な判断能力を持っていないと言わざるをえないのである。それは、株式持ち合いなどのために株主の厳しい判断がなされないことも1つの原因だ。

こうした状況を改善し、市場の質を高めてゆくことは、内部統制の強化や規制の強化と並んで、重要な課題である。直接金融を進めるには不可解の課題だ。それなしに、「貯蓄から投資へ」と家計をあおるのは、無責任極まりない。

また、小さな企業の重要性も指摘したい。なぜなら、大組織に比べて透明度が高く、外から評価しやすいからだ。しかし、日本の場合、ベンチャー企業を育成すべき新興市場が、適切に機能しているとは思えない。これも、大きな問題である。

市場経済を「品格のないカネ儲け主義」と非難する人は、社会主義経済がもっと大きな問題を抱えていることを無視している。なぜなら、社会主義経済は、組織大規模化の極限だからである。「市場がカネ儲け主義」はそのとおりだが、それはオープンなかたちで行なわれている。社会主義経済では、同じことが目に見えないところで行なわれた。市場経済は決して理想的なシステムなどではなく、「より問題が少ない」システムなのである。

政府のやらせや談合も企業の不正経理と同じ問題

なお、以上で述べたことは、そっくりそのままのかたちで、政府についても言える。最近の例で言えば、タウンミーティングのやらせ問題や談合がそれである。これらは、基本的には企業の不正経理と同じ性質の問題である。

個別の案件について、事後的な摘発や処罰はなされている。しかし、将来に向かって問題の発生を防ぐ方法は提案されていない。公務員接待の反省から「国家公務員倫理法」なるものが規定されたが、それが機能しているとは思えない。

企業の場合になぞらえれば、規制(しかも形式的な規制)の強化が図られるのみで、市場に相当するもの(政府について言えば、最終的には選挙である)がうまく機能していないのだ。

小組織が重要と述べたが、政府の場合に当てはめれば、地方自治の促進だ。しかし、「三位一体改革」には、こうした視点がまったく見られない。

市場経済が完全なシステムでない以上、さまざまな手段でそれを補強する必要がある。規制、司法、内部統制などの「正規の」システムが重要なことは言うまでもないが、それだけでなく、報道や内部告発も重要だ。エンロン事件のきっかけは、これであった。乱用が生じない適切な告発のシステムをどうつくるか、などが考えられなければなるまい。

問題はきわめて複雑なのだから、1つの手段だけで完全に対処するのは難しい。二重、三重のチェック機構が必要である。

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