財政の支えでやっと立っている日本企業

日本企業の収益は、1~3月期に比べれば、改善への傾向が見られる。日本経済新聞社の集計(8月2日)によると、全産業の連結経常損益は、1~3月期には赤字であったが、4~6月期には黒字に転換した。ただし、前年同期比で見ると、全産業の連結経常利益は、78%減となっている。また、製造業は、依然として2552億円の赤字になっている。

日興コーディアル証券の集計(8月3日)では、東証一部上場企業の純損益合計は4~6月期には黒字に転換した。ただし、前年同期との比較では、売上高合計が24.8%減、純利益の合計は74.2%減となっている。また、電機、自動車などの10業種は、依然として赤字を続けている。

上場企業が全体として赤字に陥った1~3月期は、きわめて異常な事態であった。4~6月期決算が示しているのは、そうした事態からはやっと脱却できたということだ。しかし、それは非製造業の黒字が拡大したことによるものであり、製造業は全体としていまだに赤字を続けていることに注意しなければならない。製造業に限ってみれば、上場企業が全体として赤字であるというきわめて異常な事態は、いまだに続いているのだ。

非製造業を加えた全体で見ても、利益総額は、前年同期に比べて約4分の1という低水準だ。仮に長期的な配当が収益に比例して減少するなら、株価が4分の1に下落しない限り、日本企業の株式は正常な投資の対象とはなりえない。経済指標の急降下が終わったことから将来に対する楽観的な見通しが広がっているが、日本企業が危機的な状態から脱却していないことには、なんの変わりもない。日本企業と日本経済の実態は、依然としてきわめて厳しいのである。

補正予算の措置が企業収益をかさ上げしている

4~6月期の収益が1~3月期に比べて改善した理由として、一般に挙げられているのは、人員の削減である。確かに、企業は過剰人員の整理を進め、その結果、失業率は急上昇した。企業はこれによって人件費の負担を軽減させ、それによって収益を増加させたわけである。

しかし、補正予算で取られた対策が、企業の収益を見かけ上かさ上げしていることにも注意しなければならない。特に重要なのは、雇用調整助成金である。これは、企業の休業手当の9割を国が助成する制度だ。休業手当は、企業にとってみれば生産に寄与しないコストだから、それが補助されることは、利益が増えることを意味する。したがって、決算に表れた企業収益は、それだけかさ上げされていることになる。

日本経済新聞社の推計によれば、全産業の連結損益は、1~3月期の1兆4952億円の赤字から、4~6月期には9783億円の黒字へと2兆4735億円増加した(対象企業は、利益ベースで全体の56%)。他方で、補正予算における雇用対策費は企業全体の収益増に対してかなりの大きさになる。だから、日本企業の収益増加のかなりの部分は、補正予算で行なわれた措置によっていると考えることもできる。

つまり、企業が自己努力によってコストを削減したために収益が改善したというよりは、財政援助によって収益が回復したように見えている部分がかなりあるということになる。もちろん、政策の恩恵を受けるのは上場企業だけではないし、収益はこれら以外の要因にも影響される。ただ、結果として両者がほぼ同程度の額になっていることは、偶然の一致ではない。少なくとも、雇用調整助成金のような措置がなかったとしたら、多くの企業はいまだに大幅な赤字を続けているということもできる。

補正予算における措置は、雇用対策だけではない。自動車買い換えのための補助措置もなされている。自動車販売高は回復しているが、これは、買い換え措置の影響が大きいといわれている。この面でも、財政支援が企業収益を支えているわけだ。

こうして見ると、現在の日本企業は、財政の支えによってやっと存立していることがわかる。その支えがはずされてしまえば、多くの企業が赤字になって倒れてしまうのだ。

この点に関して、一般の認識はまったく甘いと言わざるをえない。株式市場の認識は、特にそうだ。あたかも、経済危機が収束したかのような錯覚に陥り、財政支出の助けを受けてもまだ赤字から脱却できない企業の株価が、上昇しているのは、奇怪な現象と言わざるをえない。われわれは、現実の深刻さをもっと冷静に見つめなければならない。

新分野への積極的な拡大を図るべきだ

言うまでもないことであるが、本来、民間企業は、利益を上げ、その一部を税として国などに納めるべき主体である。それが現在ではまったく逆になってしまっており、財政から補助を受けている。これは決して正常な状態ではない。財政措置による企業支援は、いつまでも続けられるものではないからである。それは、あくまでも緊急避難的対処だ。本格的な対策が早急に取られなければならない。では、企業の収益増加のために、何がなされるべきだろうか?

しばしば言われるのは、新興国需要への期待である。「平成21年通商白書」は、年間50万円から350万円の家計可処分所得の人員がアジア新興国に8.8億人存在するとし、今後の大きな潜在需要だと指摘している。

しかし、新興国消費者の所得水準は、かなり低い。実際、前記8.8億人のうち7.5億人は、年所得が150万円以下である。彼らの需要の大部分は、廉価品に対するものにならざるをえない。だから、それに対応するには、低賃金労働が不可欠だ。仮に国内生産で対応すれば、日本の賃金は中国並みの水準に低下するだろう。このような「低賃金国に対するサヤ寄せ現象」は、決して引き起こしてはならないものだ。

それを回避するには、海外生産で新興国需要に対応せざるをえない。国内生産の「空洞化」現象は、しばらく前に問題視されたが、2002年以降の景気回復によって国内生産が増加したため、あまり議論されなくなった。しかし、仮に新興国需要への対応が日本の製造業の中心業務になれば、著しいスピードで進展し、国内雇用に深刻な影響を与えざるをえない。

売り上げが従来の4分の3の水準に減少したという事態が今後も続くと考え、それに対処する必要がある。このような大幅な売り上げの減少は、構造的な変化である。従来からの連続的な調整では対処できない。それに対応するには、企業や産業のビジネスモデルを構造的に変化させる必要がある。最低限必要なのは、過剰な人員と設備を早急に整理することだ。

従来型の生産活動を縮小させる半面で、積極的な対応によって新しい分野での活動を拡大することも必要である。特に、クラウドコンピューティングに代表されるコンピュータ利用技術の新しい展開に注目すべきだ。こうした新しい技術を積極的に活用することによって、企業は単に情報システムのコストを引き下げるだけでなく、これまでは不可能であった新しいビジネスモデルを展開することもできる。

従来の生産システムを救うために需要を追い求めるのではなく、まったく新しい可能性を積極的に追求することこそ重要である。

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