環境ビジネスは日本経済の救世主か?

環境ビジネスが日本経済の救世主になるとの意見がある。ガソリンエンジン車からハイブリッド車への移行や、火力発電から太陽光発電への転換によって、新しいビジネスチャンスが生まれるという考えだ。

環境ビジネスの成長が日本経済の活性化に寄与するためには、次の2つの条件が満たされる必要がある(なお、以下では便宜上、ハイブリッド車や太陽光発電のためのパネルなど環境配慮財を「クリーン財」、ガソリン車や火力発電など従来材を「ダーティー財」と呼ぶことにしよう)。第1は、ダーティー財からクリーン財への移行が現実に生じること。第2は、クリーン財への移行によって経済全体の需要が増えることである。

まず第2の問題から検討しよう。多くの場合において、クリーン財に対する需要の増加は、ダーティー財に対する需要を減少させる。たとえば、ハイブリッド車への移行が起これば、ガソリン車に対する需要が減る。したがって、自動車全体に対する需要を増やすことにはならない。だから、自動車産業を助けることにはならないだろう。

また、太陽光発電が増えれば、電力会社からの電力購入が減る。そして、長期的には火力発電所建設の設備投資も減るだろう。したがって、太陽光発電パネルの生産は増えるが、エネルギー産業を全体として助けることにはならない。

他のクリーン財についても、同様の問題がある。したがって、クリーン財への移行は、需要の入れ替えをもたらすだけで、需要全体を純増させることにはならない。

クリーン財の生産を行なう企業の生産や雇用が増え、その会社の株価が上昇するということはあるかもしれない。しかし、経済全体の活性化にはつながらない。環境対応によって経済全体の雇用を増大させることは、残念ながら実現できないのだ。全体としての需要の増加は、所得の上昇がないと難しい。この点は、あまり明確に理解されていないので、注意を要する。

クリーン財への転換は自動的には起こらない

では、外国でクリーン財に対する需要が増加し、この供給を日本企業が行なう場合はどうか。この場合も、クリーン財の輸出が増える半面で、ダーティー財の輸出が減る可能性が高い。したがって、日本の輸出が全体として増えることにはならないだろう。

また、外国の供給者との競争もある。日本企業の環境技術は高いと言われるが、国際競争力には、技術だけでなく生産コストも重要な要因だ。日本の労働コストは高いので、技術力だけで国際競争を勝ち抜けるとは限らない。

第1の問題は、ダーティー財からクリーン財への移行が実際に生じるかどうかだ。ここで注意すべきは、ハイブリッド車はガソリン車より割高であり、太陽光発電は電力会社の電気より割高であることだ。一般に、ダーティー財は、環境対策に費用をかけていないぶんだけクリーン財よりは割安になっているのである(そのため、放置すれば環境破壊が進行する。経済学では、このことを「外部不経済効果」という概念で説明している)。

したがって、環境問題に対する関心が高まったとしても、ダーティー財からクリーン財への転換は、自動的には起こらない。これが生じるのは、次の場合だ。

第1は、原油など化石燃料の価格の上昇によって、ダーティー財のコストが上昇する場合だ。ここ数年のハイブリッド車や太陽光発電に対する需要の増加は、原油価格の上昇によってもたらされた面が強い。しかし、原油価格が低位で安定すると、需要が減退してしまう可能性がある。

じつは、「クリーン財の技術開発が成功しかかったところで原油価格が下落し、その結果こうした技術が淘汰された」というのがこれまでの歴史だった。過去の環境ビジネスは、原油価格の変動によって大きな影響を受けてきたのである。今後、原油価格が低位で安定してしまえば、過去の歴史が繰り返される危険がある。「環境バブル」に浮かれて甘い見通しでコミットすれば、損失を被るだろう。

環境対策技術の発展を促し、クリーン財への移行を促すため、化石燃料価格を政策的に高く維持することも考えられる。そのための最も有効で現実的な政策は、ガソリン税の税率を高くすることだ。より一般的には、「炭素税」の導入である。これが、クリーン財への移行を促す第2の方策である。ハイブリッド車がアメリカで普及しなかった最大の原因は、アメリカのガソリン税率が世界標準から見て著しく低位だったことにある。

オバマ政権は「グリーン・ニューディール政策」を掲げているが、ガソリン税率の引上げは、政策アジェンダには入っていない。最も重要な環境政策が考えられていないことを見ても、オバマ政権の環境に対する取り組みの「本気度」には大きな疑問がある。

なお、日本で行なわれている高速道路料金の引き下げも、鉄道などに比べた自動車の使用を有利にするという意味で、環境対策には逆行するものだ。

環境対策は経済全体の負担を増やす

クリーン財への移行を促す第3の方策は、補助である。ハイブリッド車については、買い換えの補助がなされた。太陽光発電については、電力会社の購入義務が導入された。前者は、予算を通じて納税者の負担になるし、後者は電力料金の引上げを通じて消費者の負担になる。いずれにしても、補助に必要な財源は誰かが負担することになる。外部不経済をもたらさない財に対する補助は、いずれ誰かの負担になるのだ。公平の観点から見れば、外部不経済を排出する財に課税をすることのほうが望ましい。

第4の方策は、温暖化ガスの排出などに対する規制である。しかし、この実施は、現実には決して容易ではない。それは、経済的な負担になるからだ。2020年時点での温暖化ガス排出量を05年比15%減(1990年比8%減)にするという政府目標の達成には、家計負担が年間7万円超になると試算されている。この負担を誰がどれだけ負うかは、実際の政策の内容によって異なる。クリーン財への移行を政府補助で行なうのであれば納税者の負担が増すだろうし、生産コストの上昇がもたらされる場合には、企業や消費者の負担になる。

どのようなかたちになるにせよ、経済全体が負担を負い、経済成長率が低下することは、不可避である。これまで「外部不経済」というかたちで応分の負担を負わないでいた排出物を減少させようというのが「環境対策」であり、そのためには余分のコストが必要になるからである。環境対策は、経済成長を促進するのではなく、抑制することに注意が必要だ。

良好な環境は、タダでは手に入らない。環境問題の本質は、「食べるものや着るものを犠牲にして、生存のために空気をきれいにしよう」と言うことである。このことを忘れて、環境ブームをはやし、「それがすべてを解決する」とするなら、大きな誤解だ。

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