危機後の世界経済の骨格が見えてきた

経済危機後の世界経済の構造が、ようやく見えてきたように思われる。

アメリカの貿易サービス収支赤字は、2009年3月に285億ドル、4月に292億ドルとなった。これは、ピーク時(07年の年間では約7000億ドル。月額では600億ドル弱)のほぼ半分の水準である。この水準は、たぶん新しい均衡値として継続するだろう。それが、世界経済の新しい骨格を決めることになる。具体的には、次のとおりだ。

09年4月のアメリカの財輸入は1191億ドルであるが、そのうち日本からの輸入は70億ドル、中国からの輸入が220億ドル程度だ。08年4月の数字は、この順で1821億ドル、130億ドル、259億ドルだから、減少率は、この順で35%、46%、15%となる。

日本からの輸入の方が落ち込みが大きいのは、自動車という高価格の耐久消費財が中心だからだ。中国の輸出は価格の安い非耐久消費財なので、自動車ほどは落ち込まなかった。中国の主要な輸出先は、アメリカとEUである。両者はほぼ同じ動きを示すので、中国の輸出総額は前年比で15%程度落ち込んだ水準になるだろう。

日本の対中国輸出は、中国の輸出産業に対する部品や資本財の供給が中心であり、中国の輸出動向とリンクしている。したがって、日本の対中国輸出も前年比で15%程度の減となるだろう。日本の総輸出額のうちアメリカと中国の比率は、08年でほぼ同じであったから、日本の総輸出は前年比で3割減程度の水準になるだろう。

以上のことを、日本の貿易統計から見るとどうなっているだろうか。日本の輸出総額、対米輸出、対中国輸出のおのおのについて、1年前と比べた09年4月の減少率は、39%、46%、26%となっている。これらのうち、輸出総額と対中国輸出の減少率は、右で推計した値より高い。たぶん、中国に対する輸出が今後さらに回復し、輸出総額も回復することになるのだろう。

その結果、日本の輸出の国別内訳において、アメリカの比率が低下して中国の比率が上昇する。世界経済全体の中でも、中国、インドなどの新興国のウエイトが増す。ただし、これは、通常言われるように、「新興国が今後の世界経済成長を牽引する」ことを意味するのではない。

世界経済の基本を決めるのは、依然としてアメリカの経済動向である。中国、インドがアメリカに依存した経済構造であることに変わりはない。中国やインドは、国内の内在的要因だけで成長が続けられる構造にはなっていないのである。中国が日本より高い成長率を続けられるのは、中国の内需拡大策の影響ではない。それは、(成長の初期段階にあるためもともと成長率が高いことに加え)、すでに述べたように、中国の輸出が最終消費財であるため、落ち込みが比較的軽微だったことによる。このことは、日本から中国への輸出財の構成に大きな変化が見られないことからも確かめられる(仮に中国の経済構造が内需主導型に転換したのであれば、日本からの輸出の財構造も変化するはずだ)。

雇用・設備が2割過剰の日本経済

以上の世界経済構造の中で、日本経済はどうなるだろうか? 輸出総額が3~4割程度の減となるので、製造業の生産水準もピーク時の水準には回復しない。よくても、ピーク比2割減程度の水準にとどまらざるをえないだろう。

したがって、雇用と生産設備が2割程度過剰となる。雇用の過剰は、失業率の上昇をもたらさざるをえない。前回述べたように、現在は雇用調整助成金によって過剰雇用を「企業内失業」のかたちで抱えている。

しかし、この状態をいつまでも続けるわけにはゆかないから、いずれは現実の失業率が9%程度の水準まで上昇せざるをえない。これは、日本経済がかつて経験したことのないレベルであり、社会不安の増大が憂慮される。

生産設備の過剰の処理も難しい問題だ。必要なのは設備廃棄と転用(たとえば、ショッピングセンターへの転用)などだが、短期間にスムーズに行なわれるかどうかは疑問だ。過剰設備が存続すれば、減価償却の負担が継続する。そのうえ売上げが回復しないので、企業の収益は依然として低レベルにとどまらざるをえない。製造業が赤字から脱却できるのがいつになるか、見通しは難しい。

本来は、雇用調整助成金による失業率顕在化抑制政策を捨て、労働力の流動化を積極的に進めるべきである。雇用を吸収できる部門は、サービス産業しかありえない。製造業が2割縮小し、そのぶんだけサービス産業が拡大する方向だ。

このためには、新しいサービス産業が生まれる必要がある。経済政策は、そうした方向をバックアップすべきだ。

しかし、実際には、製造業の過剰雇用を支えるための政策が続けられるだろう。政治的バイアスは、現在存在しているものを助ける反面で、これから登場するものには正当な支援を与えないからだ。こうしたバイアスは、自民党だけが持っているものではない。民主党も同じであり、ある意味ではもっと強い。したがって、日本が経済問題を克服できるかどうかは、きわめて不確定と考えざるをえない。

円高の進行と財政赤字の拡大

今後の日本経済について確実に予測されるのは、財政状況の悪化である。すでに法人税が激減しており、企業収益が回復しないために、この状態が継続する。国の一般会計ではすでに税収が国債発行額を下回る事態になっている。10年度予算は、当初からそのような構造にならざるをえない。地方財政においても、危機的な税収不足が続く。

他方で、雇用情勢や企業収益が好転しないため、財政に対する支援要求はますます増大する。民主党政権になった場合には、その傾向が加速する可能性がある。したがって、財政赤字は破滅的なレベルまで拡大する危険がある。財政状況の悪化を阻止する方策は、残念ながら見当たらない。

財政赤字の拡大は、長期金利を高め、日本への資金流入を促進する。また、欧米諸国が金融緩和策を取ったため、日本と諸外国の短期金利での金利差は、07年頃に比べれば著しく縮小している。したがって、かつての円キャリー取引とは逆方向の投機資金の流れが発生する可能性がある。つまり、アメリカから日本への移動だ。これは、日本への資金流入をもたらし、円高をもたらす。少なくとも、円ドルレートが07年夏頃までのような水準に戻ることはないだろう。

本来であれば円高を活用した新しい経済活動が生まれるべきだが、前述のように産業構造の転換は容易に進まないので、円高が企業収益を圧迫する状況が続かざるをえない。

日本に流入した資金は、どこに向かうだろうか。流入資金の中には、ファンドによる投資もかなり含まれており、ファンドは解約の要求に直面しているので、高利回りを求めざるをえない。したがって、日本国際のような安全資産には向かわず、株式市場などでの当期利益を求めて、株価上昇をあおるだろう。

09年3月以降の株価上昇は、こうした動きによってもたらされた可能性がある。ただし、前述のように企業業績の低迷は続くので、高株価は実体経済の状況と矛盾する。したがって、株式市場は不安定な動きを続けるだろう。

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