実質的な失業率は9%を超えている

6月30日に発表された5月の完全失業率(季節調節値)は5.2%となり、4月から0.2ポイント悪化した。また、5月の有効求人倍率(同)は0.44倍となり、4月から0.02ポイント低下して過去最低値となった。

失業率は遅行指数なので、今後さらに上昇するのは不可避である。では、どこまで上がるか?

生産活動が底から回復しつつあるのは事実である。5月の鉱工業生産指数は前月比プラス5.9%と4月に並んで過去2番目の上昇率となった。しかし、水準で見ると、ピーク時の7割から8割の水準にとどまっている。

また、今後の伸びは鈍化するものと考えられる。従って、生産水準は、よくてもピーク時の8割程度までしか回復しないだろう。これに対応するため、製造業では、雇用を2割程度削減する必要がある。

本連載の第461回で述べたように、法人企業統計のデータで分析しても、製造業は2割程度の過剰な生産能力を抱えている。それは、設備と人員の双方について言える。この調整はこれから本格化する。失業率が過去最悪の5.5%を更新することは不可避だ。そしてさらに悪化するだろう。

大ざっぱに見通しても、次のことが言える。製造業の就業者は、全体の17.9%である。それが2割縮小すれば、失業率は3.6ポイント上がって9%に近くなる。過剰雇用は製造業だけのことだけではないから、全体の失業率はもっと高くなる。日本経済の基本構造が大きく変わらない限り、この状態が継続せざるをえない。これは、景気循環による一時的な失業率の高まりではない。日本経済の構造的問題の表れなのである。

雇用調整助成金が失業顕在化を抑えている

現時点では、失業の顕在化が「雇用調整助成金」によって抑えられている。これは、企業が従業員に支払った休業手当を助成する制度だ(正確には、大企業に対して「雇用調整助成金」、中小企業には「中小企業緊急雇用安定助成金」)。

厚生労働省が6月30日発表した5月の雇用調整助成金の利用申請状況によると、対象労働者数はじつに約234万人に上る。これは完全失業者347万人の7割近くに相当する。このほとんどすべては、2009年1~3月に発生したものだ。

対象者が増えたのは、言うまでもなく、輸出を中心とする需要の落ち込みによって急激な生産調整を行う必要が生じたからだ。それに対応するため、雇用調整助成金の助成要件が緩和された。このため、08年2月には提出事業数64、対象所数1543人であったものが、09年2月には提出事業所数2万9137、対象者数が190万人近くと急増した。この増加ぶりは、「異常」と言ってよいだろう。そして、先般の補正予算において、雇用調整助成金に約6000億円(「再就職支援、能力開発対策」7000億円と合わせると1.3兆円)もの予算措置がなされた。

雇用調整助成金の対象者は、事実上は「企業内失業者」と見るべきものだ。仮に彼らが失業すれば、失業率は8.7%となる。先に述べた製造業の過剰雇用等を考慮すれば、実態的には日本の失業率はすでに9%を超えていると考えるべきだ。つまり、右で述べたことは、今後の見通しではなく、すでに現実化していると言えるのである。

地域別に見ると、中部・東海地方など、自動車関連産業や製造業が集中している地域の申請が多い。日本の自動車関連産業の就業者は、現在、納税者の負担に支えられて、やっと息をついているのである。

アメリカのGMとクライスラーは実質国有化されたが、日本の自動車産業も、過剰人員を政府によって支えられている。だから、実態に大きな差はない。違いは、アメリカのようにはっきりとわかるかたちになっていないだけである。GMやクライスラーの場合には、今後の再建過程のなかで雇用調整が強行される。しかし、日本の場合には、見えにくいかたちで支援が行なわれているため、雇用調整が進まない危険がある。その意味では、日本の方が危険が大きいとも言える。

しかし、企業の過剰雇用を国がいつまでも支えるわけにはゆかない。これは、緊急避難以外の何者でもないのである。

ところが、5月の申請者数は、3月の238万人とほとんど変わらない。4~5月の生産の回復は記録的なものだったにもかかわらず、雇用調整助成金の申請にはほとんど影響を与えていないのである。この事実は重い。なぜなら、企業がこれに依存する体質が恒常化してしまう危険があるからだ。この措置は、企業も労働者も望んでいる。政治家は言うまでもなく歓迎だ。そして、その負担を納税者が負うことになる。

雇用構造を大変革しないと雇用が生まれない

日本の経営者には、今後の需要を新興国に期待すると言う人が多い。そうするなら、工場は海外立地しかありえない。だから、長期的に見て、製造業の生産が回復しても、国内の雇用を増やすことにはならない。

そもそも、高賃金国が低賃金国に輸出できる製造業の製品は、中間財や資本財に限られる。これが、これまでの日本の対中国輸出のパターンだ。最終生産物は輸出できない。なぜなら、一部の富裕層は別として、大部分の国民は所得が低いため低価格製品しか輸入できないからだ。

そのうえ、日本では社会保障の負担が加わる。現在の日本で、雇用する企業にとっての最大の負担は、社会保険料の雇用主負担である。これは、法人税の負担より遙かに重い。企業は、これをなんとか免れたいと考えている。産業界が公的年金の保険料を税方式にしたいと求めているのは、このためである。臨時雇用や派遣などは、以上を考えれば、不可避な方法だった。しかし、今回民主党などが提出した労働者派遣法の改正案では、製造業への派遣や登録型派遣を事実上禁止する内容になっている。国内における雇用にこうした制約が加われば、企業は生産拠点の海外移転を加速化せざるをえまい。

経済産業省「ものづくり白書」によると、07年の海外生産比率は製造業全体で19.1%(輸送機械では42.0%)だが、諸外国に比べて高いとは言えない。また、これまでは先進国の工場も多かったが、新興国向けの生産なら、賃金率の低いアジア諸国への展開が拡大するだろう。

したがって、国内での雇用機会を確保するために、雇用構造に大きな変化が生じる必要がある。それは、製造業からサービス産業への移行でしかありえない。製造業の雇用が5%程度縮小して、全体の13%程度になる必要がある。

これは、日本経済構造の大変化を意味する。単に雇用が変わるだけでなく、所得の流れが変わる。若年層は、税や社会保障負担を負うが、それは、所得となって戻ってくる。これこそが、高齢化が進展した社会の基本的な経済構造だ。日本はこれまで、そうした構造になっていなかったのである。

雇用を増やすべき重要な分野は、介護、医療、教育、保育なとである。これまで介護は中国など外国人労働力に依存せざるをえないと思っていたが、このような雇用の大転換が起これば国内で可能になる。こうした大規模な雇用の移動は、労働市場を通じて行なうしかない。そのためにどうしても必要なのは、政府介入の排除である。

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