企業の利益回復には生産能力縮小が必要

今年の3月以降、株価の上昇が続いており、日経平均株価は6月12日に1万円を超えた。経済が底打ちし、今後は景気回復すると期待されるからだという。

このような期待は正当化できるだろうか? この連載で何度も述べているように、昨年10月以降の経済の急降下が終わったことは事実である。しかし、そのことと、近い将来の景気回復とは別だ。落ち込みのオーバーシュートが調整されることはあるにしても、今後の経済活動は、基本的には落ち込んだ水準で横ばいになるしかないと思われる。

日本企業がきわめて困難な事態に直面していることは、6月4日に発表された法人企業統計に明確に表れている。2009年1~3月期の企業経常利益は、対前年比で約3割の水準まで落ち込んでしまった。製造業は、全体として赤字になった。

製造業の赤字化は、これまで一度もなかった事態である。そのことの意味はきわめて大きい。なぜなら、製造業の存在そのものが、日本経済にとってマイナスの影響を与えているからだ。

現状では、製造業に資源を投入すれば、価値が減少する。だから、言葉は悪いが、製造業は日本経済に対して「有害物」となってしまっているのである(ソ連の末期にも、製造業の収益率がマイナスになったことがある)。

製造業に投資すればマイナスの収益になるので、利益を求めるなら国債や海外資産に投資するしかない状態になっている。株価が企業収益を正しく反映しているのであれば、製造業の平均値に関する限り、株式投資をする余地はありえない。つまり、株式市場という経済の基本装置が機能しえなくなっている。これは、きわめて異常な事態である。

この状況は簡単には回復しない。新光総合研究所の集計によると、東証一部上場企業1207社の10年3月期決算において、経常利益が5.0%減少する。これは、各企業の予想の集計であるが、経済全体のマクロ的な条件からしても、日本企業の収益が急速に回復する条件は見当たらない。

もちろん、株価は必ずしも企業収益の予測どおりに動くわけではない。何らかの理由によって多くの市場参加者が株価が上昇すると予測すれば、短期的な売買で利益を得ることは可能である。それは、ケインズの「美人投票」の説明を引くまでもなく、明らかだ。実際、現在の日本の株式市場は、株価が企業収益と無関係に動くことを前提にした上での投機の場になってしまっている。

しかし、株価が現実の企業収益とかけ離れた水準を長期に継続できないことも明らかである。株価は長期的には、企業収益で正当化できる水準に近づかざるをえない。われわれは、日本経済の実情をもっと冷静に観察する必要がある。

輸出増が隠した製造業の過剰設備

企業利益の回復が期待できない半面で、今後の企業収益を圧迫し続ける要因は、明らかに存在する。それは、過剰生産設備である。

それを示すのが、総資本利益率(ROA)の状況だ。法人企業統計によると、産業全体の総資本営業利益率は、09年1~3月期に0.8%にまで落ち込んでいる。これは、長期国債の利回りより低い。製造業はマイナスだ。

ここで日本の製造業の総資本営業利益率の長期的な推移を振り返ると、次のとおりだ。高度成長期(1970年代初めまで)は、大部分の期間で8%以上であり、2ケタのときも多かった。80年代には6%を中心に推移していた。

それが90年代に低下し、01年には2%台にまでなっていた。その後景気回復によって上昇し、06~07年には5%台にまでなった。それが08年の秋から急低下し、10~12月期には0.7%、09年1~3月期には-3.4%まで落ち込んだのである。

高度成長期から80年代にかけての低下は、賃金が上昇して日本が低賃金国ではなくなったことの影響だ。また為替レートが円高になったことの影響も大きい。

80年代以降の変化は、中国の工業化による影響が大きい。本来は、90年代において、これへの対応がなされるべきだった。

ところが、日本は、低金利政策でこれを切り抜けようとした。中国工業化というリアルな構造変化に対して金融政策で対処できるはずはないのだが、02年以降の輸出ブームのなかで、問題が隠されてしまった。今生じている問題は、02年頃に深刻化していた問題が、再び顕在化しただけのことだ。

それだけではない。日本の製造業は、過去数年の景気回復期にかなり積極的な設備投資を行なって生産能力を増強した。自動車産業では、この傾向が特に顕著だ。国内販売額の傾向的な低下にもかかわらず、輸出増が問題を覆い隠したのである。

経済政策で設備廃棄を支援する必要がある

生産能力と需要のギャップを埋めるためには、2つの方法がある。すなわち、生産能力を所与として需要を求めるか、あるいは、需要を所与として生産能力を縮小させるかだ。

日本の企業経営者は、前者を望んでいる。しかし、それは成功しそうにない。仮に新興国の需要を求めるとしても、そのための生産は、国内工場ではなく、海外工場で安価な労働力を用いて行なうしかないだろう。だから、国内の生産能力は、縮小させるしかない。

したがって、現在の経済政策として緊急に必要なのは、エコカーやエコポイントではなく、設備廃棄を支援することだ。それによって産業構造を内需主導型の物に変えるのである。必要なのは雇用であって、国内生産額そのものや、外貨ではない。

アメリカの自動車産業は、これまで工場を廃棄してきた。たとえば、「かつて自動車工場だったが、今はショッピングセンター」というところが、カリフォルニアには多い。今回のGM、クライスラー対策は、アメリカにおける自動車産業の比率をさらに引下げるための方策である。日本でも同様のことが必要とされる。

廃棄された工場跡地は、日産村山工場のように、他用途に転換できる場合もある。都市部や高速道路沿線では、商業施設への転換が可能だろう。介護施設をつくることも考えられる。

地方部の工場跡地の再利用はそれほど簡単ではないだろうが、介護施設は可能だろう(今でも、山奥に介護施設がある)。農業用地への転換も考えられる。また、自然に返してしまうことも考えられる(ドイツは、日本と同じように製造業への依存が大きいが、工場は工業地帯に集結しており、国土には森林が多い。シュバルツバルトやチューリンガーバルトは、日本が手本とすべき対象だ)。

他用途に転換するにしても、売却企業は不動産としての価値しか回収できないから、設備廃棄を行なう企業に損失が発生する場合が多いだろう。しかし、これは、長期にわたって続く赤字を一気に発生させるための方法と割り切るべきだ(このため、日本の製造業の利益は、今後長期にわたって低迷せざるを得ない)。また、購入者に対する融資も必要かもしれない。経済政策による公的な関与は、再生の見込みがない企業に資本注入して延命させるのではなく、こうしたことを目的として行なうべきだ。

利益が生じる水準まで設備が縮小したときに初めて、日本経済が回復する条件が整うことになる。

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