拡大する企業損失に何をなすべきか

2009年3月期決算は、日本企業が尋常ならざる事態に直面していることを示している。日本経済新聞社の一時集計(5月2日)によると、金融を除く上場企業全体で、第4四半期(09年1~3月)には連結経常損益が赤字に転落した。これによって、09年3月期通期の経常利益は、前期比で52%減った。

特に深刻な状態にあるのが、製造業、なかでも自動車産業と電機産業だ。08年3月期には2兆2703億円の黒字だったトヨタ自動車の営業損益は、09年3月期には4610億円の赤字となった。10年3月期には8500億円の赤字になると予想されている。大手自動車10社の合計では、前期4兆7000億円の黒字から、3200億円の赤字になった。10年3月期には約1兆円の赤字になる見通しだ。

国民経済計算における民間非金融法人企業所得が06年度で約36兆円であることや、法人税収の総額が07年度で約15兆円であったことを考えれば、以上で示される利益の減がいかに大きいかがわかる。

総合電機5社の最終損益は、1兆5276億円の赤字になった(営業損益は792億円の黒字)。日立製作所の09年3月気の連結最終損益は、7873億円の赤字となった(営業損益は、1271億円の黒字)。

10年3月期決算についても厳しい状態が予想されているのは、現在の事態が容易には解決できないことを示している。自然に回復するような一時的な不況ではなく、ビジネスの基幹が問題とされているのだ。

日本企業の生産性は、高いと言われてきた。しかし、そのかなりの部分は、円安でかさ上げされた見かけ上のものにすぎなかったのだ。基本的には、円安によって日本人労働力が安く評価されていたわけだ。円安バブルやアメリカの過剰消費バブルが崩壊し、日本企業の実態が表面化しているにすぎない。

一時しのぎの緊急避難しか行なわれていない

以上のような事態に対して、何がなされるべきか?

現在行われていることは、「一時しのぎ」の緊急避難である。09年度の補正予算で行なわれた追加経済対策は、その典型だ。6000億円が計上された雇用調整助成金は、休業手当の大部分を国が支払う仕組みだから、積極的に状況を改善する効果はない企業救済だ。また、エコカーへの買い換え補助や家電のエコポイントなどは、特定産業を対象とした、あからさまな企業救済措置である(今回の施策は、需要の入れ替えだけで、企業救済にもなっていない。ただし、今後さらに救済策が講じられることが考えられる)。

さらに、改正産業活力再生法が成立し、公的資金による企業救済も行なわれることとなった。しかし、これは大きな問題を含んでいる。銀行に対する公的資金注入は、信用危機を回避するためにやむをえない側面がある。しかし、一般企業に対して資金繰り支援ならともかく、そして、産業再生機構のように経営責任を問うならともかく、公的資金を無原則につぎ込むのは、いかなる理由によっても正当化できない。それがもたらすのは、際限ないモラルハザードだ。

こうした政策の前提となっている「一時をしのげば復活する」という見方は、きわめて疑問だ。その理由は次のとおりである。

第一に、国内と先進国の需要は復活しない。それは、この連載で繰り返し述べてきたように、ここ数年の売り上げの増加がバブルに支えられたものだったからである。

そこで、「インドや中国などの新興国需要に期待すればよい」という意見が現れる。しかし、日本の製造業がこれに頼って復活できるとは、とうてい考えられない。その理由は、新興国の最終需要の大部分は低価格製品であり、中間財や部品とは基本的に性格が異なるからである。日本の対中国輸出は近年急増したが、それは最終財ではなく、輸出産業のための中間財や部品だ。これらの輸出は、基本的には先進国への輸出に支えられている。

新興国でも、ごく一部のカネ持ちは先進国と同じような需要を持つ。しかし、新興国の大部分の国民の所得は低い。彼らが求めるものは、低価格製品である。この点は、日本の高度成長期とは、基本的に異なる。日本では所得分配が平等だったから、誰もが家庭電化製品を求めたのだ。新興国の低価格製品に日本のメーカーが対応できるとは思えない。仮に対応できたとしても、価格引下げ競争に巻き込まれて、損失がさらに拡大するだろう(それだけでなく、日本の賃金水準が、新興国並みに低下する)。

あるいは、「日本の製造業は高水準の技術を持っているから、それを活用すればよい」とも言われる。確かに日本企業が新しい技術をリードしている分野は多い。今後の製造業は自動車を含めて水平分業に展開していくと考えられるので、その中で特定分野の技術優位を活用するのは、日本の製造業が生き延びる道だ。しかし、そのためには、垂直統合的な日本企業の生産方式が大きく変化する必要がある。それは、日本企業の構造が根本から変わらなければ実現できないだろう。

また、技術優位も、必ずしも永続するものではない。たとえば、ハイブリッド車で日本が先行しているのは事実だ。しかし、電気自動車の時代にも日本が優位性を維持できるかどうかはわからない。

日本全体としての損失が発生している

現在の産業構造を温存すれば、日本経済は際限もなく衰退するだろう。その理由は次のとおりだ。

金融取引における損失の大部分は、経済の他の部分で、誰かの利益になっている(たとえば、金融機関で貸し倒れ損失が発生する一方で借入者は債務を返済しない利益を得ている)。だから、国全体を合計すれば、損益はゼロになる。

しかし、製造業の赤字は、これとは性格が異なる。それは国全体の資源配分が非効率になっていることを意味するのだ。減価償却費の負担が大きいということは、過剰設備が存在することを意味する。だから、日本が全体として資源を浪費していることになる。つまり、国全体としての損失が発生しているのだ。

救済を続ければ、非効率な状態がずるずると続いてしまう。公的資金による無原則な救済を行なえば、確実にそうなる。その結果、日本経済が疲弊し、ますます多くの資源が浪費される。

すでに金融機関には、その影響が表れている。大手銀行6グループの連結最終損益は、合計で1兆1970億円の赤字となった。前期が1兆8662億円の黒字だったから、約3兆円ほど利益が減少したことになる。上場地方銀行合計の最終損益は、前期の約6500億円の黒字から、4000億円超の赤字となる見通しだ。これは、企業が悪化すれば金融機関が悪化することを示している。こうした影響を受けるのは、金融機関だけではない。日本経済全体がマイナスの影響を受ける。

現在の経済政策の基本的な発想は、現存する生産能力を所与とし、それに見合うだけの需要を見出そうとすることだ。しかし、そうした発想から脱却する必要がある。輸出が半減し、生産が3割程度減少した状態が今後引き続くと考え、その状況に対応するために、日本の産業構造を基本から転換させる必要がある。

それなくして、日本経済に未来はない。

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