三角合併の解禁は日本を活性化させる

日本経済団体連合会は、2006年12月に、三角合併の成立要件厳格化などを柱とする買収防衛策強化提言をまとめ、発表した。「三角合併」とは、会社を合併する際、消滅会社の株主に対して、親会社の株式を交付する方式である。新会社法で可能となったが、施行は07年5月からとされていた。

日本経団連の提言では、議決権を持つ過半数の株主が出席して、3分の2以上の賛成が必要な「特別決議」にすべきとしている。その理由として、日本企業の子会社化によって技術が外国へ流出する恐れなどを挙げている。

提言ではまた、国家安全保障に関わる技術流出防止の観点から、特定業種で外資の投資を規制している外国為替法を、対象範囲を拡大する方向で見直すべきとしている。このほか、証券取引所の上場規制見直しによる多様な「種類株」の発行や防衛策の容認を求めている。

しかし、こうした考えは後ろ向きであり、日本経済の活性化に逆行するものと言わざるをえない。

信じられぬほど低い日本企業の開放度

日本経団連が三角合併を恐れるのは、欧米の有力企業の株式時価総額は日本の企業に比べて大きいため、親会社の株式を対価とする外国企業による三角合併が日本で解禁されれば、日本企業は次々に買い占められてしまうと考えているからだ。三角合併の解禁が新会社法の施行後1年遅らされたのも、このような懸念が経済界で強いことによる。

税制もこの問題に絡んでいる。現行の税制では、買収される日本企業と外国企業の子会社が合併した段階で、買収先の資産を譲り受ける子会社も、外国企業の株を株式交換で受け取る日本企業の株主も、譲渡益に対して課税される。したがって、買収される企業の株主は株式を交換しただけで課税される可能性があり、これが三角合併の障害になるとされている。

そこで、いくつかの条件を満たすものに限り課税繰り延べを認め、株主が外国株を受け取った時点では課税しないようにすることが検討されてきた。ところが、日本経団連の提言は、課税繰り延べを認めないことを要求している。これも、三角合併を進めにくくするための提言であり、後ろ向きと考えざるをえない。

なお、06年12月14日に発表された与党の税制改正大綱では、課税を猶予するとされている。これは評価できる方向だ。

三角合併を認めるべきだとする考えは、日本経済の開放化が必要との認識による。日本は、外国に物を売ることには熱心だが、外国の投資を受け入れることにはきわめて消極的だ。

実際、対内投資の状況を見ると、日本の水準は、諸外国に比べて著しく低い。GDPに対する対内直接投資(フロー)の比率は、2000年において、日本は0.2%にすぎない。イギリス8.5%、ドイツ10.0%、カナダ8.9%、アメリカ2.9%などと比べて比較にならないほど低く、「鎖国」としか言えない状態だ。UNCTAD(国連貿易開発会議)による対内投資の指数を見ると、140カ国中で日本はじつに131位である。

これは、日本の企業の多くが株式の持ち合いなどによって閉鎖的な株主構造になっており、外国の投資家が取得しにくくなっていることの結果である。

企業による株式保有は、戦後まもない1946年の財閥解体のときに放出された株式を、銀行や企業が購入したときに進んだ。また、60年代半ばの証券危機も、結果的には「安定株主」づくりに絶好の材料を提供した。証券危機に対処するため設立された日本共同証券や日本証券保有組合が株式を買い上げたのだが、これらの機関が放出した株式を、銀行や企業が買い上げたのである。この結果、49年に69.1%であった個人の持ち株比率は、60年に46.3%、75年に33.5%と低下した。

この当時も、外国企業による買い占めへの恐怖は強かった。当時のトヨタ自動車の幹部は、「GMやフォードが日本に工場を造っても、なんとか対抗できる。しかし、彼らに買い占められてしまうと、どうしようもない」と語っていた。その当時に比べて、日本企業の実力は比較にならないほど高まった。それにもかかわらず、日本の経営者の「外人恐怖症」にはなんの変化もないようだ。

日本の大企業では、内部昇進者が経営者になる場合がほとんどである。このため、企業は外の世界に対して閉鎖的になりやすい。安定株主工作によって浮動株が減少したため、この傾向に拍車がかかった。

日本の株式会社は、株主を意識しない組織になっている。本来は企業の所有者である株主を、「ステイクホルダー」(利害関係者)と見なしている企業経営者が多いことが、それを明確に物語っている。

日本企業の利益率が外国の企業に比べて低い水準にあるのは、株主を意識しなくてもよい点に基本的な原因がある。利益率が高くなくとも、とにかく存在し続けられさえすれば、企業の経営者は、株式市場から退出を要求されることはないのだ。

日本の経営者の姿勢が後ろ向きであることは、敵対的買収への防衛策として「ポイズンピル」(毒薬)や「黄金株」などの後ろ向きの手法が検討されていることにも表れている。本来であれば、こうした安易な(そして株式会社制度の本誌に反する)手法に依存せず、会社の価値を高めることに専念すべきだ。

優秀な従業員の能力を活用できない日本の経営者

では、従業員の立場から見ればどうか。外国企業によって買い占められることは、雇用の安定化から言って問題と考えている人はかなり多い。だから、買収されることを防ぐべきだとする考えが強い。

しかし、イギリスの金融業を見ると、「ウィンブルドン現象」と言われるように、外国の金融機関が中心で、イギリスに古くからあったマーチャントバンクは、ビッグバンによって淘汰されてしまった。それにもかかわらず、イギリス経済は金融を中心として成長し、金融業が多数の雇用を創出した。そして、1人当たりGDPでいまや日本を抜くまでになっている。この経験を見ても、外国企業が日本企業を取得することは、むしろ日本にとって望ましい場合のほうが多いはずだ。

実際、日本の企業は、優秀な人材を数多く抱えているにもかかわらず、経営が適切でないために、彼らの潜在能力を十分に活用できないでいる。日本企業の時価総額が低いのは、従業員の質が低いためではなく、従業員の能力を十分発揮させる経営を行なっていないからだ。つまり、経営者に責任がある場合が多い。

そうした企業は、外国企業に取得されるほうが、従業員の立場からすれば望ましいと言える。外国企業による買い占めを恐れるのは、現在の地位を脅かされたくない経営者の保身願望であると考えざるをえない。

さらに、外国企業によるTOBが活発化すれば、それに対処するため、経営者は会社経営の効率化を目指し、時価総額を大きくしようと努力するだろう。それは、日本の株式市場を健全なものにする。

こう考えれば、日本の企業を世界に向かって開くことによってこそ、日本経済が活性化する可能性が大きい。いたずらに「外資の脅威」を叫ぶのではなく、これを日本経済活性化の契機にすることが必要だ。

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