日本の経済構造は半年で一変した

前々回(459回)「急降下はじき終わる」と書いた。これまでの半年は、まさに急降下だった。変化があまりに激しかったため、それに対応するのに精一杯で、その先の経済構造を考える余裕はなかった。出口が見えてきた今、それを改めて考える必要がある。

この半年間に日本経済は大きく変わった。これは非常に大きな変化である。普通なら数十年かけて起こる構造変化が、わずか半年のあいだに起きた。

そして、新しい事態に対しては、なんら対応がなされていない。比喩的に言えば、大津波が引いたあと、瓦礫の山が積み上がっているような状態だ。

内容を論じる前に注意すべきは、下落が終わったからといって、自動的に反転するわけではないことだ。この数年間の景気回復を支えていたのは輸出であるが、それが2007年頃までのレベルに戻るとは考えられない。なぜなら、それは、世界的なバブルに支えられたものであったからだ。バブルが崩壊すれば、バブル前の状態(02年頃の状態)に戻るだけのことである。基本的な条件が変化しなければ、そこから新たな成長が始まるわけではない。

もちろん、08年10月頃からの下落過程には、オーバーシューティングと考えられる部分もある。事態が正常化すれば、そうした行き過ぎは是正される。しかし、変化の多くはそうしたものではない。

したがって、以下で述べることは、一時的な変化ではなく永続的なものである。まず3つの構造変化を指摘し、次にそれが含意することについて考えることとしたい。

日本経済の3つの構造変化

変化の第1は、対外的な経済関係である。日本の輸出は、07年頃に比べてほぼ半分の水準まで減少した。貿易収支は赤字になり、所得収支の黒字でそれを補うかたちになった。経常収支は、ほぼゼロ近くまで減少した。

1970年代以降の日本は、貿易収支の黒字拡大によって国際経済のなかでのプレゼンスを高めていった。特に80年代においては、日本の存在は非常に大きくなった。その後日本のウエイトは徐々に低下したとはいえ、重要な資本供給国であり続けたことは事実だ。しかし、今回の変化によって、世界経済における日本の位置は質的に変化した。

第2は、国内の生産活動における変化である。特に、製造業で大きな変化が生じた。鉱工業生産指数で見る生産のレベルは、08年までと比べてほぼ7割弱の水準にまで縮小した。

ただし、これには在庫を減らすために生産を一挙に縮小したことの影響もあったと考えられるので、在庫が減少すれば、生産レベルはある程度回復するだろう。しかし、輸出が大きく減少しているので、元のレベルには戻らない。特に、自動車産業について、そのことが言える。

永続的な変化の第3は、財政だ。企業収益の悪化を背景に、税収は法人税を中心に激減した。企業所得が簡単には回復しないことを考えると、税収減は構造的なものだ。

法人企業統計によれば、08年10月~12月期の企業利益は、前年比で64.1%も減少した。製造業では、じつに94.3%の減少である。法人税収は、08年度第2次補正予算で、すでにほぼ10兆円のレベルにまで落ち込んでいる。企業利益の動向を考えると、今後もこのレベルから大きく回復することは期待でき着ない。

他方で経済対策が行なわれたため、09年度の国債発行は43兆円を超える。約46兆円の税収が落ち込めば、国債発行が税収を上回ることもありえなくない(むしろ、そうなる可能性が強い)。

雇用と為替レートへの含意

以上で述べたことが、企業利益、雇用、為替レートにどのような意味を持つかを考えよう。

第1は、企業利益に関するものだ。製造業の生産レベルが低下するため、過剰設備がすでに発生している。減税特需で一部の製品が売れても、それは需要のシフトにほかならず、全体的な生産増をもたらさない。したがって、過剰設備は解消できない。設備の過剰からくるコスト負担があるので、企業収益は容易には回復しないだろう。

第2は、雇用への含意だ。日本の全就業者中で、製造業は約18%のシェアを持つ。その生産が3割減少するなら、日本全体の雇用は5%強減少するだろう。つまり、失業率が現在の4%程度から9~10%程度にまで上昇する可能性がある。

これは、企業内のワークシェアリングではとても対応できない規模だ。また、環境対応車やエコ家電などに補助策を講じて特需を作り出しても吸収できない。

製造業は新興国に新たな需要を求めればよいという意見が強いが、低価格商品は日本の製造業の得意分野ではない。そうした方向を志向すれば、価格引下げ競争に巻き込まれる。そして、要素価格均等化定理が直接に作用し、日本の賃金水準は新興国レベルにまで低下するだろう。

このように考えれば、製造業から放出される雇用を吸収するために、日本の産業構造を大きく変化させる必要があることがわかる。このための施策は、内需の拡大しかない。それは、介護に典型的に見られるように、財政が重要な役割を果たす分野だ。したがって、財源手当てが必要だ。

ところが、実際の財政はほぼ半分を借金に頼るという破綻状態に陥っており、後述のように国内貯蓄が減少するので、利子上昇圧力が働く。したがって、財源確保は焦眉の急である。現実には、消費税の税率引上げしか方法がないと思われるが、それに至る道筋は、まったく見えない。それどころか、この1年間、埋蔵金とか政府紙幣という無責任極まりない議論に振り回された。

今回の追加対策も、さしたるビジョンなしに思いつき政策をかき集めて業界の保護要求に対応しただけであり、日本の構造変化との関連はまったく考慮されていない。

第3は為替レートへの影響だ。貿易収支が為替レートを決めていた時代には、経常収支黒字の減少は円安を意味した。しかし、自由な資本移動が為替レートに大きな影響を与える現代の世界では、そうはならない。国民経済計算の恒等式によって、経常収支黒字は国内の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)に等しいから、黒字の減少=国内貯蓄過剰の減少は、海外投資の減少を意味し、したがって円高を意味する。

実際、02年から07年にかけては、企業収益の増加、財政赤字の減少により国内貯蓄が増加し、経常収支の黒字が拡大した。他方で、実質円レートは円安になった。

07年夏以降、この傾向が逆転し、企業収益の減少、財政赤字の拡大により国内貯蓄が減少し、経常収支の黒字が減少した。他方で、実質円レートが円高になった。この過程は今後も継続すると考えられる。これからすると、2月下旬以降の円安への動きは、不可解と考えざるをえない。

これに対する1つの解釈は、アメリカが経済対策によって財政赤字が拡大し、経常収支赤字が再び増加するというものだ。そのような変化はまだ現実化していないが、市場がそれを予測したことはありうる。しかし、家計貯蓄の増加を打ち消すほどの財政赤字拡大が実際に生じるかどうかは疑問である。

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