現状より逆行した道路特定財源問題

道路特定財源の一般財源化問題が、一応の決着を見た。それによると、①税収全額を道路整備に充てる仕組みを改め、2008年の通常国会において、所要の法改正を行なう、②暫定税率は維持する、③道路歳出を上回る税収は一般財源とする、④必要な道路整備は計画的に進める、などとなっている。

この問題の焦点であった揮発油税の一般財源化については、具体案は何も明記されていない。

これでは、現状から少しも前進したことにならない。「余ったぶんを道路以外に回す」のなら、誰でもできることだ。

むしろ、現状より逆行と言わざるをえない内容も含まれている。たとえば、「真に必要な道路整備」について、来年中に具体的な中期計画を作成することとされており、地方に配慮して基幹道路やバイパス整備を「適切に措置する」と明記されている。また、高速道路料金の引き下げのために、08年の通常国会に法案を提出する方針が盛り込まれている。

簡単に言えば、道路族をはじめとする既得権集団の壁を、少しも崩すことができなかったということだ。むしろ、彼らの権益を強めた面もある。与党内には「将来の道路予算が確保できた」という声が広がっているという。

道路特定財源は日本社会の岩盤

「真に必要な道路」という文言があるが、これは「語るに落ちた」と言わざるをえない表現だ。それでは、「これまでは財源が確保されていたから、真に必要でない道路も造っていたのか」と混ぜ返したくなる。

また、高速道路は、本来は税財源を投入しないはずのものだ。料金引き下げのために税を投入するのは、本来の趣旨に反する。道路公団を民営化したのは何のためだったのか、わからなくなる。

あらためて言うまでもないが、道路特定財源制度は、1953年に、当時の田中角栄衆議院議員が中心となって議員立法としてつくった制度だ。53年に「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」がつくられ、58年に「道路整備緊急措置法」となった。

それ以来、道路整備の財源は確保されたので、自民党に道路族と言われる議員集団が形成され、道路建設予算の配分に強い影響力を行使してきた。

制度発足当時、日本の道路整備状況はきわめて劣悪であったため、こうした措置が一般の理解を得られた。しかし、それから半世紀が過ぎ、日本の道路整備は当時とは比較にならないほど進んだ。道路整備事業は、道路を整備することよりも、地方の土建業者に対する補助金となってしまっている面が強い。

したがって、見直すのは当然の課題だが、これは道路族の神聖不可侵な領域であるため、きわめて困難な課題だ。小泉純一郎内閣も、発足直後の01年に一般財源化の方向を掲げながら、結局は手がつけられず、先送りにしてきた。

これは、現代日本の社会を構成する「岩盤」の1つと言ってよいだろう。きわめて多数の人びとの生活がかかわる問題であるため、いかんとも動かせない。しかし、日本社会を改革しようとすれば、どうしても避けて通れない課題だ。

この連載で「道路特定財源の一般財源化は、改革が本物かどうかを試すリトマス試験紙だ」と何度も言ってきた。口先だけ「改革」と言っているのか、それとも本当に日本社会を改革しようとする意気込みに燃えているのか。一般財源化問題に対する対処の仕方を観察していれば、それが判別できる。

01年に小泉内閣がこの問題を標榜したとき、私は「ひょっとすると、小泉内閣の改革姿勢は本物かもしれない」と期待をかけた。しかし、小泉内閣は結局のところ、このテストに合格することはできなかった。

日本社会には、このような「岩盤」がいくつもある。これらのいずれも、もし本気で取り組もうとすれば、内閣の1つや2つは吹き飛ぶほどの覚悟で取り組むべき課題だ。道路特定財源の問題は、そうした難問の1つなのである。関係する人間が多く、個々の人にとってみれば、生活に直結する。したがって、一般財源化は、道路公団民営化のような問題とはまったくレベルの異なる問題である。

私が、今回の経緯を見ていて危惧するのは、この問題がきわめて困難だという認識さえなかったのではないかと思われることだ。信じられないことではあるが、そうとしか思えない場面が何度かあった。

安倍晋三首相は、9月の所信表明演説で「一般財源化を前提に見直しを行ない、年内に具体策をとりまとめる」と強調した。

さらに、11月30日の経済財政諮問会議において、「揮発油税も含め、道路特定財源全体を見直し対象とする」と明言した。一国の首相が公的な場で数回にわたって強調した方針が、かくも完全に覆ってしまうとは、驚くしかない。

復党問題で世論の離反が起こり、それを挽回するための手段とされたのではないかとする報道もある。一般財源化問題が、1週間や2週間の折衝で決着がつく問題だと考えていたのなら、あまりに見通しが甘いと言わざるをえない。十分な時間をかけ、十分な準備の末に初めて決意すべき問題だ。「当たって砕けろ」「とにかくやってみよう」程度の準備でやっているのだとすれば、政権の政策遂行能力に関する信頼性は、著しく傷つく。

官邸主導にしたいなら世論の支持は不可欠

さらに問題なのは、国民に説明する努力が払われたとは思えないことだ。利害関係者集団や既得権益はきわめて強力であるから、その厚い壁を壊すには、世論を味方につけるしか方法はない。首相をはじめ政府高官は、発言すれば報道してもらえるという、きわめて恵まれた立場にいる。他の人びとには決して望むことができない特権だ。それをなぜ十分に利用しなかったのだろうか。これは、まったく理解に苦しむことだ。

実際、道路特定財源制度に関する誤解は、かなり広範に存在する。「揮発油税は道路整備のために創設された目的税」と誤解している人が多数いるのだ。

私は、ある報道機関から、「道路を造るために創設した税を他の目的に使うことについてどう考えるか」という質問を受け、「その認識は間違っている」と何度も説明したが、理解してもらえなかった。

揮発油税は、戦前から存在していた税であり、今でも目的税ではない。「道路特定財源制度」とは、「道路整備費を揮発油税などの収入以上にする」という制度であり、道路予算の側で予算規模を規定する制度なのである。道路だけを特別扱いせず、他の経費と同じように扱うというのが、一般財源化だ。それは、予算の一般原則からして、当然のことなのである。

政府は、道路特定財源の一般財源化について、国民への説明をこうした基礎的なことから始めるべきであった。このような質問が報道機関から出てくるということを見ても、政府の説明不足は明白である。

「官邸主導の政策形成」と言われる。それは、官僚集団や自民党族議員と対決し、それらの頭越しに改革を進めるということだろう。その姿勢は評価できる。しかし、それを実現しようとするなら、国民世論のバックアップは不可欠だ。「官邸主導」とは、決して一部の集団が政策決定を独占することではないはずである。

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