急降下はじき終わる 問題はその先の戦略

2009年2月の貿易統計によると、輸出は前年同月比49.4%減で約3.5兆円となった。2月の鉱工業生産指数は68.7で、1月より低下した。わずか半年のあいだに、日本の輸出はほぼ半減し、国内の鉱工業生産はほぼ4割減少した。これほど激しい経済変動は、少なくとも平時では、これまでまったくなかった。変化の激しさは、「人類の歴史で初めて」と言っても、誇張ではない。たとえてみれば、日本列島を巨大な津波が襲ったようなものだ。

しかし、未曾有の激変が底を打つ自棄が、やっと見えてきた。変化率自体はマイナスだが、その変化率が絶対値で縮小しているのである。データを図示してみると、曲線の傾きが滑らかになりつつあることで、これが直感的に把握できる。

これを確かめるため、3月上旬の輸出を見ると、1.14兆円である。その3倍は3.4兆円であり、2月の値とほぼ同じだ。また、この値は前年同期の49%減だが、3月全体でも同率で減少すると、3.8兆円となる。これは、2月の値より大きい。輸出額は、毎年1月は他の月に比べて小さく、3月は大きくなる傾向があることにも注意して将来を見通せば、09年の中頃にはほぼ横ばいになる可能性がある。

これは、アメリカの状況とも整合的だ。アメリカの経常収支赤字は、08年秋に急縮小し、あと数カ月でピーク時の半分程度に縮小すると予測されるのである。

鉱工業生産指数においても、変化のスピードは鈍っている。また、製品在庫率も上昇はしているものの、その度合いが鈍ってきた。これから将来を見通すと、09年の中頃には、生産指数が70程度の水準になって落ち着く可能性がある。

つまり、経済活動が急落下する過程は、終了しつつあるのだ。この過程を通じて、日本の実質国内総生産は10%ほど下落し、景気回復前(02年頃)の状態に後戻りするだろう。

80年代への逆行という悪夢

この半年間に生じたのは、世界的バブルの崩壊だった。そのため変化が急だったのだ。通常の景気変動ではこのようなことにはならない。

また、これは通常の景気循環ではないから、落ち込みが終わっても基本的な条件が変化しなければ、そこから這い上がることはできず、低水準の活動が続くだけである。つまり、これで問題が終わったわけではない。

実際、これから徐々に顕在化してくる深刻な病がある。第1に、自動車産業や鉄鋼産業を中心として、過剰な生産能力の負担が企業収益を圧迫するだろう。第2は、対策の後始末だ。異例の安定化政策でさまざまの問題資産を購入したため、日本銀行の資産が痛んでいる。また税収の激減で財政赤字も拡大している。第3に、金融機関の不良債権と資本不足がこれから顕在化する。つまり、津波が引いたあとに瓦礫の山だけが残るような事態が起こるのだ。これらは、日本経済を徐々に蝕んでゆく。

このことは、国際機関の見通しにも表れている。国際通貨基金(IMF)は、3月19日に最新の世界経済見通しを公表した。それによると、日本の09年の実質成長率は、-5.8%だ。日本は、他国に比べてより深くより長いマイナス成長に直面すると見られている。アメリカが09年には2.6%の下落にとどまり、10年には回復すると見られているのと対照的だ。輸出国日本が輸入国アメリカと大きく異なる問題に直面していることが、ここにはっきりと示されている。IMFの上の見通しでは、08、09、10年を通じると、日本の実質GDPが6.7%ほど下落する。

3月31日には、世界銀行とOECD(経済協力開発機構)が見通しを発表した。09年の日本の実質成長率見通しは、世銀が-5.3%、OECDが-6.6%だ。アメリカの見通しは、世銀が-2.4%、OECDが-4.0%である。

こうしたことを考えると、日本経済の落ち込みは、景気回復前に戻るだけで住む保証はない。さらに悪化する可能性もある。事実、いくつかの経済指標は、すでに1980年代のレベルまで逆戻りしている。

落ち込んだあとの日本の輸出額の水準は毎月2.5兆~3兆円と考えられるので、年間では30兆~36兆円程度だ。これは、02年の値(52.1兆円)よりはかなり低く、80年代の値だ(80年が29.4兆円。その後継続的に増加して89年に37.8兆円)。鉱工業生産指数が70程度というのも、02年頃の値(90程度)より低く、83年頃の水準である。企業利益も80年代の水準まで戻っている。鉄鋼生産に至っては、60年代の水準だ(09年2月の粗鋼生産は547.5万トンで、68年6月の545.6万トン以来の低水準)。

輸出も生産も、急減過程でオーバーシュートしており、落ちすぎているという可能性もある。しかし、これまで拡張した過剰設備の負担などを考えれば、将来について楽観はできない。日本が再現もなく後退してゆく危険は、決して否定できないのだ。

経済構造の基本的な改革が必要

この状況を変えるには、日本経済の経済構造と産業構造の基本的な改革が不可欠だ。したがって、短期的な有効需要の落ち込みに対処するだけでなく、日本経済の基本を改革しなければならない。つまり、落ち込みが終わった後に何をするかが、われわれの未来を決める。

「危機をチャンスに」と多くの人が言い出した。日本人は優秀だから、必ず新しい可能性を見出せるだろう。ただし、座して待つだけでは、なにもやって来ない。

落ち込みから這い上がるには、ビジネスモデルを新しいものにすることが必要だ。外需に期待するビジネスモデルは、もはや機能しないことを認識する必要がある。なぜなら、ここ数年の外需の増加は、バブルに乗ったものだったからだ。したがって、仮にアメリカ経済の縮小が停まったとしても、輸出がかつてのように増えるわけではない。さらに重要なことに、かつてのような異常な円安を再現することはできないから、価格競争力も落ちている。

このことは、自動車産業について前回述べた。それにもかかわらず、日本の経営者は他力本願だ。アメリカの景気回復に期待するとか、新興国の需要に期待すると言う人は多いが、ビジネスモデルを基本から見直そうとする人は少ない。外需が落ち込んだ今でも、日本の産業界は今までのビジネスモデルに執着しているように見える。

景気拡大策の根拠付けに使われる「潜在成長力」という考えも同じである。これは、「現在の生産能力をフルに活動させたらどれだけの生産が実現できるか」というものだ。しかし、「現在の生産能力を支えるだけの需要は期待できない」となれば、無意味なものだ。

産業構造の改革は、中国工業化の影響が顕在化した90年代から、継続して必要とされたことである。中国が安価で豊富な労働力を使って工業製品を作れるようになったことは、日本の高度成長期型産業構造の基本を揺るがすものであったのだ。日本はそれに対して、産業構造を基本から変革する必要があった。

しかし、日本はその課題に取り組むことなく、金融緩和と円安政策で外需に依存する道を選んだ。そして、02年からの見せかけの景気回復によって、問題が覆い隠されてしまった。輸出立国戦略の破綻が明白になった今、日本は基本的な方向転換を迫られている。

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