自動車産業が生き残る道は減税特需か

日本の産業の中核である自動車産業は、きわめて困難な状況に直面している。需要の見通しが生産能力を大きく下回っているからだ。

日本国内の自動車販売台数は、長期的な停滞状態にある。1990年代の中頃までは年間600万台を超えていたが、最近では400万台近くまで減っており、約4割の減少だ。これは、日本国内で賃金が伸びず、個人所得が増加しなかったことの影響も大きいと考えられる。日本自動車工業会は、3月24日、2009年度の自動車の国内販売台数が429万8000台になるとの見通しを発表した。これは、77年度以来32年ぶりの水準だ(なお、08年度の販売台数見込みは467万台)。

このため、日本の自動車メーカーは、輸出に活路を見出す戦略を採った。たまたまアメリカで住宅価格のバブルが発生し、消費者ローンによってアメリカの消費者が消費を増やしたため、自動車購入が大きく増加した。それに加えて、実質為替レートでの歴史的な円安が進行したため、日本車が価格競争上きわめて有利な立場に立った。こうして、日本からアメリカへの自動車の輸出が目覚ましい伸びを示した。07年10~12月の対米輸出は、95年同期の2.65倍にもなっている。04年同期と比べても5割増しだ。対世界輸出も、07年と04年の比較で4割増になるほどの増加を示した。

重要なのは、これが2つのバブル(住宅価格バブルと円安バブル)に乗ったものだったことである(この詳細については、拙著『世界経済危機 日本の罪と罰』ダイヤモンド社、第3章を参照)。しかし、金融危機によって消費者ローンか急収縮し、自動車輸入も激減した。これが日本の輸出を減らし、日本経済に大打撃を与えている。

では、自動車生産の今後は、どのように見通せるだろうか。対世界輸出がバブル前の水準である年間480万台程度になると考えるのは、自然な見通しと言えるだろう。他方で、国内販売が最近の水準である400万台となれば、合計で年間需要は880万台ということになる。

ところが、最近時点の生産台数は年間1000万~1200万台で推移してきた。したがって、12~17%程度の生産能力が過剰ということになる。不況の影響で国内販売がさらに落ち込めば、より多くの生産調整が必要になるだろう。過剰設備によるコスト負担に耐えられるかどうかが、現在の日本のメーカーが直面する基本的な問題である。

新興国需要への対応が将来の方向か?

日本の自動車産業が進む方向として、次の2つが言われている。

第1は、新たな市場である新興国を開拓するという方向だ。

確かに、新興国に新しい需要は発生するだろう。しかし、新興国は所得が低い国だ(07年の1人当たりGDPを見ると、中国は日本の1/14、インドは1/35である)。一部の富裕層を除く大部分の国民は、日本が作っているような自動車は買えない。量的に見て新興国需要の中心は1台数十万円の低価格車であり、日本のメーカーがそれに対応するのは難しいだろう。これは、低賃金労働力を使える中国やインドのメーカーの守備範囲だ。

日本がモノ作りを捨てられないのはやむをえないとしても、従来タイプの生産方式を維持したままで需要を求めるのではなく、さまざまな条件変化に対応して適切な国際分業を実現することが重要だ。

80年代以降、中国の工業化により、世界的分業の条件は大きく変わった。しかし、日本はそうした条件変化に適切に対応することができず、従来タイプの製造業に固執し、その延命のために円安、金融緩和政策に頼ってきた。それが破綻した今、生産能力を所与としたビジネスモデルの改革は不可欠である。

新興国向けの自動車は、「コモディティ」だ。コモディティとは、差別化特性がなく、価格競争しか生き残る道がない製品だ。典型は、家電製品(薄型テレビなど)だが、低価格車もそうだ。中国が工業化し、安い労働力で製品を作れる今、コモディティの分野で競争しても、勝ち目はない。

日本の電機産業は、コモディティ産業から抜け出せないために没落した。IBMが「パソコン(PC)はコモディティになった」と言ってノートPC事業をレノボに売却したのと対照的だ。自動車が新興国に将来を見出そうとすれば、日本の製造業はますます没落するだろう。

将来の方向として目指すべきは、高付加価値化(コモディティ生産からの脱却)とITとの連携である。要は、「1ドル70円でも収益が上がる生産活動を実現すること」「中国ができない生産活動に特化すること」である。

新技術は必要だが、それだけで問題は解決しない

高付加価値化の1つの方策は、高い技術力の活用だ。特に、ハイブリッド車や電気自動車には将来性があると言われる。

こうした方向が重要であることは間違いない。しかし、(新しいメーカーがハイブリッド車だけを作るのならなしは別だが)それが現在の自動車メーカーの生き残りを助けることにはならない。ハイブリッド車や電気自動車で成功しても、現在抱えているか常設問題に対する答にはならない。

自動車メーカーが未来の産業となるためには、技術だけではなく、生産方式の抜本的な変更が必要だ。特に、系列方式から脱却し、水平分業へ転換することが必要だ。新興国需要に対応する場合にも、たとえばエンジンだけを担当するというような分業が考えられる。

調達先が広範囲になれば、同一の部品などをより安価に製造できる相手を見出すことができる。従来はそうした相手を見出すのが容易でなかったために水平分業が進展しなかったが、ITによってその条件が基本的に変わった。

PC生産はすでに水平分業に移行している。自動車が水平分業に移行できないのは、1つは部品等の標準化が進んでいないため、第2には、自動車メーカーが古い体質の企業であるために水平分業を嫌うからだ。

最後に、環境対応車への補助策について述べておきたい。08年度補正予算での対策で、優遇税制が4月から行なわれることになった。しかし、これにはさまざまな問題がある。

第1に、環境対応車が環境条件を向上させるかどうかは、明らかでない。自動車が直接に排出するガスが減少することは明らかだが、ハイブリッド車の製造と運行に必要なすべての条件を考慮した場合に環境条件を相対的に向上させているかどうかは明らかでない。また、環境対策が目的なら、課税強化でもできる。すなわち、環境非対応車に対して高率の課税を行なっても、同じ効果が実現できる。

第2に、特定の産業のみを補助すれば、資源配分が撹乱される。相対価格を変える政策は、総需要喚起政策とは言えず、産業対策と見なすべきだ(以上のことは、環境対応車に限らず、いわゆるグリーン特需について一般的に言える)。

そして、特定産業のための補助策は、自由な国際貿易の妨げになる。保護貿易に反対するなら、こうした政策には反対すべきである。「国内の雇用を守るためにこうした補助が必要」との議論があるかもしれないが、海外生産が国内生産より多くなっている自動車産業の場合、そうした効果は期待できないだろう。

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