レーガンの税制改革から日本は何を学べるか

安倍晋三内閣が推し進めようとしている税制改革は、法人税減税を主要な内容とするものだ。これは、「レーガン税制改革に学ぶもの」と言われることがある。「レーガン改革は企業の税負担を軽減してアメリカ経済を活性化した」と理解されているためだろう。しかし、この理解は正しくない。

レーガン政権は、数次にわたる税制改革を実施したが、それらの性格はかなり異なるものだった。特に、1981年改革と1986年改革を区別することが必要だ。

81年改革では、短期的な経済刺激を目的として、大胆な減税を行なった。それによる税収減は、景気拡大による税収増で賄われることが期待されていた(これが、ラッファーなど「サプライサイダー」と言われた人びとの主張であった)。

ところが実際には、経済活動は活性化せず、財政収支赤字が拡大するだけの結果に終わった。このため、アメリカはその後、長期にわたって財政赤字に苦しめられることとなった。

この反省に基づいて、86年改革では、中長期的な経済効率の向上が意図された。ここ強調されたのは、伝統的な租税改革の目標である「公平、簡素、経済効率」であった。90年代以降のアメリカ経済の活性化に大きな役割を果たしたのは、この改革であったと評価されている。

この経緯を、今少し詳しく見よう。

減税による刺激は機能せず赤字のみが増えた

レーガン大統領は不景気の最中であった80年の選挙運動において、景気刺激策として個人と企業の税負担を軽減することを公約していた。当選直後の81年税制改革で減税を行なったのは、このためである。

81年税制改革では、次のことが行なわれた。

①個人所得税の最高税率を70%から50%へ引き下げる。②減価償却や資本に対するインセンティブを高め、企業課税を軽減する。

しかし、この改革が、サプライサイダーが主張したようなプラスの経済効果を生んだという明確な根拠はない。

はっきりしているのは、減税による税収の落ち込みが財政赤字を記録的なレベルまで拡大したことだ。この財政赤字は80年代から累積し始め、その解消には20年近くを要した。

その後、81年改革が軌道修正され、82年と84年には増税が実施された。

86年税制改革法は、19年の所得税導入以来最も重要な税制改革であると言われる。経済刺激を目的とした81年改革や、税収の増加を目的とした82年、84年改革とは異なり、86年改革は長期的に安定した税制の構築を目的とした。

個人所得及び企業所得の課税ベースを拡大する一方で、法人税率を46%から34%に引き下げ、個人所得の最高税率を50%から28%へ引き下げた。ただし、これは減税ではなく、「税制中立」というルールに従って行なわれた。

このルールの下では、税率の引き下げを行なう場合には、それによる減収見込額を、課税ベースの拡大(税制優遇措置の廃止など)を通じて補填する。したがって、純税収は増加も減少もしない。

レーガン税制改革の経験から現在の日本が教訓を学ぶことができるとすれば、それは次のことだ。

第一に、大規模減税を先行して行なえば経済活性化と財政健全が同時に達成されるとの主張があるが、その実現可能性はきわめて小さい。日本の税の自然増収は、今がたぶんピークであろう。

第二に、「税収中立」は政治的圧力を回避するために有効な手段である。税率を引き下げるのであれば、その半面で、特別措置などを整理して課税ベースを広げることが必要だ。

第三に、経済成長促進を目的とするのはよいが、それは企業の税負担軽減で実現されるものではない。90年代以降のアメリカ経済の活性化も、税制改革だけでなく、規制緩和をはじめとする各種の構造改革との複合作用によって可能となった。しかも、90年代以降のアメリカ経済の活況は、製造業の復活によってもたらされたものではない。

特に重要なのは、ITの活用によってあらゆる産業の生産性が向上したことだ。税制の枠内に限っても、税制の簡素化や公平性の維持こそが重要だ。

日本の法人税を考えるとき特に重要な点として、税率だけが法人の税負担を決めるわけではないことを強調したい。課税ベースに何が入っているかが重要だ。益金、損金の範囲は国によってかなり異なるので、法人税の税率だけでは法人の税負担を比較できない。

さまざまな特別措置によって課税ベースが侵食されていることがある。あるいは、法人税法の枠内でも、引当金や準備金によって課税ベースから脱落している所得がある。日本の法人税率が見かけ上高くとも、脱落している所得が多ければ、法人の実質的な負担は軽いことになる。

現在の日本の法人税には、貸倒引当金、返品調整引当金がある。賞与引当金や退職給与引当金は、現在では廃止されたが、かつては認められており、特に大企業の課税ベースをかなり縮小させた。また、青色申告法人や連結法人に対して、租税特別措置法に規定された一定の準備金の積立額に関し、その損金算入を認めている。

日本の場合、特に重要なのは所得税との関係だ。給与所得に対して手厚い給与所得控除が認められるため、同族企業において、事業主本人や家族に対して多額の給与を支払い、その結果、法人の所得を減少させている場合が多い(なお、特殊支配同族会社に該当する法人が業務主宰役員に対して支給する給与の額のうち、給与所得控除額に相当する部分の金額は、来年度から損金に算入されないこととなっている)。

生産活動のアジア移転は税でなく賃金格差のため

税率をアジア諸国と同じ水準まで引き下げるべきだとする議論があるが、これは暴論としか言いようがない。日本の製造業がアジア諸国に生産拠点を移しているのは事実だが、それはアジア諸国の法人税率が低いからではない。最大の理由は、アジア諸国における賃金水準が低いことだ。

10倍以上の賃金格差がある場合、賃金の安い地域に生産拠点を移すのは、企業の合理的選択の結果として当然のことである。むしろ、日本は諸外国に比べて海外生産の比率が低い。

それに、法人税率の低い国に工場を移したところで、企業の法人税負担が減るわけではない。国際課税には「居住地原則」が適用され、日本の法人が海外の工場で生んだ収益に対しても、日本の法人税が適用されるからである。だから、法人税率の差は、生産拠点の海外移転の原因ではない。

公的負担の差を問題にするなら、社会保険料の雇用主負担のほうがずっと大きい。それに、社会保険料は、従業員を雇用する限り、利益の有無とは無関係にかかってくる。企業の公的負担を軽減するのなら、社会保障制度の見直しで保険料を下げることが先決だ。

税負担の軽減が望ましいのは事実だが、他方において、歳出が不可避的に増えるという事実がある。特に重要なのは、社会保障関係の支出だ。歳出削減といっても、可能な額には限度がある。事実、基礎年金の国庫負担率引き上げはすでに決まっていることで、財源手当てが早急に求められている。こうした問題を放棄して減税に走るのでは、財政運営の責任放棄としか言いようがない。

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