政府紙幣や無利子債は天下の偽策

大規模な経済対策の財源として、政府紙幣や無利子国債の発行が提案されている。これらは、一般に「奇策」と受け止められてきたので、まともに議論する必要はないと考えていた。しかし、政治家のなかには、最近これらに興味を示す向きが出てきた。それを考えると、放置するのは危険かもしれない。そこで、これらが重大な問題を持つことを以下に指摘しよう。

政府紙幣の問題は、本質的である。特に、①政府紙幣は売りオペレーションの対象にできないため、将来の金融政策に重大な障害となること、②財政民主主義に背くため、憲法違反の疑いがあること、の2点が重要だ。

無利子国債には、①さほど巨額の財源とはならないこと、②政府の財政状況は有利子国債の場合より早く悪化すること、という問題がある。政府紙幣や無利子国債は、これらに関する一般の理解不足に乗じようとするものであり、「偽策」と言うべきものだ。

最初に政府紙幣を検討しよう。「通貨法」(「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」)第5条で、1万円までの政府紙幣なら記念通貨として発行できる。しかし、日本銀行券と異なるデザインの紙幣を発行しても自動販売機などが受け付けないので、市中には流通しない。そこで、政府は紙幣を日銀に預金し、得た日銀券で財政支出の支払いをするという方法を取るだろう(もともと市中で流通しないのだから、額面数十兆円の紙幣を1枚発行すればよい。そこで、通貨法を改正して額面限度を引上げることが目論まれるだろう)。

市場に影響を与えず政府が巨額の財源を獲得できる点で、これは日銀引受けの国債発行と同じである。しかし、大きな違いは、国債には市場性があるのに対して、政府紙幣にはないことだ。したがって、日銀は政府紙幣を保有し続けざるをえず、日銀資産に根雪となって残ってしまう。

これは、将来の日銀の金融政策に重大な支障を与える。保有資産のうち国債等については、金融引締めの必要が生じたとき、売りオペで売却し、市中に流通する日銀券を回収できる。しかし、政府紙幣についてはこれができない。したがって、日銀券発行額をその残高以下には引下げられないことになる。

財政支出増は臨時異例の措置であるから、増加した日銀券はいずれ回収する必要が生じる。しかし、政府紙幣残高が数十兆円という規模になれば、日銀は身動きが取れなくなる。これが政府紙幣の致命的な問題だ。したがって、仮に政府紙幣が日銀の政府預金に持ち込まれたとしても、日銀は、自らの存在意義を守るため、その受け入れを断固拒否しなければならない。

政府紙幣での財源調達は財政民主主義の否定

日銀引受け国債も政府紙幣も、基本的な機能は、貨幣を財源として財政支出を行なうことだ。だから、ことさら政府紙幣という奇策を持ち出す必要はなく、日銀引受け国債で措置すればよい。

紙幣には利子支払いがなく、政府の償還義務もない(つまり、経済的な意味では、政府紙幣は資産ではないのだ)。一見すると、そのぶんだけ政府に有利に見える。しかし、日銀の収入が減り日銀の国庫納付金が減るため、政府の負担が減ったことにはならない。

なお、日銀引受け国債が「財政法」第5条で禁止されているのは、それがインフレを引起こす危険があるからだ。この点は、政府紙幣も同じである。ただし、有効需要が大きく落ち込んでいる現状では、貨幣を財源とした財政支出を行なっても、ただちにインフレが招来されることはないだろう。

この点を考慮して、私は、巨額の財政支出を行なう財源は日銀引受け国債しかないと考えている(財政法を改正しなくとも、第5条の但し書きにより、国会で議決すればよい。財政法の制定以来初めて、この但し書きに言う「特別の事由がある場合」が到来した)。

以上は経済的な観点からの議論だが、政府紙幣は、財政民主主義の観点から重大な問題を持つことに注意が必要だ。

2009年度予算においては、財政投融資特別会計の剰余金が、いわゆる埋蔵金として使われた。これに関する問題点は、この連載で述べた。繰り返せば、第1に、せいぜい1~2年間の臨時財源にしかならない。第2に、剰余金の範囲内とはいえ、国会の議決を要せず、政府の判断で取り崩せる。これは、国会の責務放棄である。財政民主主義の観点からは、これが最大の問題だ。

同じ問題が、政府紙幣にもある。現在の通貨法では、発行額は政令で定めることとされている。発行額を法律で規定しなければ、憲法第84条の規定(租税法定主義)に背く。これは、政府による恣意的な財源調達を禁止する規定であり、財政民主主義の基本だ。したがって、巨額の政府紙幣は、それを受けて制定された財政法の精神にも反する。

無利子国債で巨額の財源調達はできない

「相続税免除の無利子国債」という案も提案されている。無利子で市中で消化させればディスカウントされてしまうので、それを避けるため、相続税非課税の資産として富裕階層に購入させることが目論まれている。

では、それに対する購入需要は必要な財政支出を賄えるだけあるだろうか?

相続税を支払う必要がある人は、じつはそれほど多くない(住居用資産の特例など、さまざまの措置が講じられているからである)。

現在相続税の税収は年間約1.5兆円ほどでしかない。近い将来に相続税を支払うと現在の資産保有者によって予想されている額は、せいぜいこの崇拝であろう。だから、さほどの額の財源を調達することはできない。

問題は、それだけではない。無利子国債を発行して財源を調達しても、招来の相続税収入は減る。したがって、現在価値で見れば、政府の負担は、有利子国債の場合より減るとは言えない。それだけではない。次に述べる理由で相続税減収までの期間は短いと考えられるため、有利子国債の場合よりも早く、政府の財政状況は悪化する。

この国債の購入者が市場で売却しようとすれば、利子支払いがないぶんだけディスカウントされる。その損失を相続税免除で補っているわけだから、購入者は、相続時点まで保有し続けるだろう。つまり、購入者は死亡時まで凍結された資産を保有することになるわけだ(この国債を担保にしても、額面どおりに貸出す金融機関はないだろう)。

だから、死亡が遠い将来のことと考えている資産家は、購入しないだろう。これを購入するのは、死亡が近い将来に予想される資産家だけである。したがって、相続税の減収も近い将来に発生する。

また、免除される相続税が利子分を上回る額になる場合もありうる。その場合には、政府にとっては有利子国債より不利なわけだ。

なお、相続者は、相続税免税という利益をすでに受けているので、ディスカウントを受けても市場で売却するかもしれない。しかし、その場合には、相続税免除の利益は打ち消されるわけだ。したがって、相続者と非相続者を一体として考えれば、格別の利益を受けたことにはならない。ディスカウントを避けるには、償還まで持ち続けるしかない。つまり償還までの期間凍結される資産を保有することになるわけで、それが一般に理解されれば、購入需要はさらに減るだろう。

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