IMF、世銀が予測する中国の不安定化

中国の農村から都市部への出稼ぎ労働者「農民工」のうち、約2000万人が工場閉鎖などで失業し、帰郷したと報道されている。2月2日に、中国共産党中央農村工作指導グループの陳錫文主任が述べた。

約1億3000万人の農民工のうち15.3%が失業しており、毎年600万~700万人が新たに出稼ぎに出るため、今年は約2500万人の就業圧力がかかるという。農民工の失業が増加しているとの報道はこれまでもあったが、これは共産党幹部の発言であるだけに注目される。

IMFが1月28日に公表した「改訂世界経済見通し」(World Economic Outlook Update)では、中国の実質成長率は、2009年6.7%、10年8.0%だ。世界銀行の「東南アジア展望」(East Asia & Pasific Update — Navigating the Perfect Storm, December 2008)は、09年の実質成長率を7.5%としている。いずれも、中国の09年の経済成長率が8%に及ばないとしているのである。

これは一見したところ、簡単な数字の情報だ。しかし、重要なことを意味している。なぜなら、「中国社会の安定を維持するには8%の成長が必要」と、中国政府が認めているからだ。

だから、IMF、世銀という公的な国際機関が、「中国社会の安定は保証できない」と予測していることになるのである(08年第4四半期のGDP伸び率が前年同期比6.8%となったことは、すでに中国国家統計局から発表されている)。

株価の状況も、惨憺たるありさまだ。世銀による株価インデックスは、07年代4四半期に5262であったが、08年10月には1729にまで低下している。SSEC上海総合指数は、ピークであった07年10月の6092から、08年10月末の1728まで低下した(ただし、その後上昇し、最近では2000を超えている)。

倒産が相次ぐ中国輸出関連企業

中国経済の貿易既存度は、大変高い。07年における中国の輸出額1兆2177億ドルは、中国のGDP(国内総生産)3兆2800億ドルの37%を占める。日本の約15%に比べると、その高さがわかる。中国の輸出は、これまで対前年比25%を超える伸びを続けてきた。07年には25.7%であった。ところが、世銀の「東南アジア展望」によれば、それが急減し、08年に20%となり、09年には9.1%に落ち込む。冒頭で述べた失業の増大は、その影響がすでに顕在化していることを示す。

中国経済の特異性は、貿易依存度が高く、成長率がこれまで高かったことだけではない。輸出関連企業の約60%が外資系企業によって閉められるという高い外資依存度も特異だ。しかも、生産物の多くは国内経済向けではない。この点も、日本との大きな違いだ(日本の輸出関連企業のほぼすべてが国内企業であり、産出物は国内向けのものと基本的に同一だ)。

失業の急増に対応するため、中国政府は10年までの2年間にわたって4兆元(約55兆円)の投資を行なうとしている。しかし、この数字がかなりの水増しだとの指摘は多い(08年12月24日付NewsWeek誌は、4兆元のうち新規事業は4分の1にすぎず、残りはすでに発表済みの支出や地方の予算を当てにした数字だとしている)。

問題はそれだけではない。中国の輸出産業が国内経済と切り離されていることを考えると、仮に内需が増加したとしても、それが輸出産業を助けることにはならないと考えられるのである。

実際、輸出関連企業の倒産は、すでにかなりのレベルにまで進行していると見られる。「世界の工場」と言われた広東省東莞市では、外資系も含めた企業の倒産、撤退が相次いでおり、玩具工場の「門前町」だった地区は、ゴーストタウン化していると言われる。

京都大学経済学研究科上海センターの「ニュースレター」(08年11月24日)は、東莞全体が空洞化し、低級ホテルにも倒産・廃業が多発していること、香港企業が経営する東莞市最大の玩具工場が閉鎖され、すでに国内玩具工場の半数が倒産していること、などを伝えている。また、「日経ビジネス」(オンライン版)によれば、昨年後半から工場の撤退や倒産が相次いでおり、中小企業の工場が多い深圳市や隣接する東莞市では、廃墟のような空き工場が目立つようになった。そして、台湾系、香港系、韓国系の企業が経営する服飾、靴、玩具などの工場の状態が急激に悪化し、未払い給与や借金を踏み倒しての「夜逃げ」が社会問題化しているという。

合理的な不満処理制度を持たない中国

われわれが中国社会について危惧するのは、国民の不満をポジティブに処理する装置が存在しないからである。民主主義国家では、政府に対する不満は、選挙を通じて表明できる。それがすべての問題を即座に解決するほど現実は簡単ではないが、少なくとも長期的に見れば、それが状況を解決の方向に誘導しうることは事実だ。しかし、共産党一党独裁国家である中国に、そのチャネルはない。だから、意見表明は暴力的なかたちで爆発する。そして、内外のメディアは、中国の暴動事件がすでに増加していることを伝えている。

もっとも、「暴動」という言葉には注意が必要かもしれない。前記「上海センターニュースレター」のなかで、小島正憲氏は中国における最近の暴動事件を検証した結果、一般商店への略奪暴行や偶発的殺人事件を伴う破壊活動はきわめて少なく、「暴動」という表現が情報の受け手に誤解を与えることが多いと指摘している。

確かに、中国の「暴動」は、われわれが「暴動」という言葉から想像するものとは異質なのかもしれない。だから、暴動が頻発したとしても、それがただちに中国の崩壊や分裂という事態には結び付かないのかもしれない。ただし、経済成長が失速して失業が激増する現状は、かなり危険だ。

特に、次の2点が重要である。第1に、コントロールされているとはいえ、インターネットを介する情報交換が可能になっている。崩壊以前の共産主義国家は、国民のあいだの政治的な情報の流通にきわめて高い関心を払い、文書形態での反国家的政治情報の流通を禁止した。このためファクスなどの新しい情報機器を個人が保有することは禁止せざるをえず、それが社会主義経済の停滞と崩壊につながったのである。インターネットが利用できる中国は、きわめて危険な状態にある。

第2は、大学卒業生など高学歴者のあいだで失業が増加することだ。彼らがインターネットを介して表明する政府への不満は、著しい勢いで増加するだろう。いかに政府が統制を強化したところで、それを抑え込むことは不可能と考えられる。それは、第2の天安門事件を招来しかねない。

だから、中国社会が大混乱に陥る可能性は、かなり高まっていると考えざるをえない。これによって特に大きな影響を受けるのは、日本である。

それは、すでに、日本の対中国輸出の激減というかたちで現実化している。12月の貿易統計によれば、日本の対中国輸出は、対前年比35.5%の減少である。これまで2ケタの伸び率であったものがこれほどの減少に転じることの影響は、きわめて大きい。日本は、中国の混乱からアメリカの金融危機以上に大きな影響を受ける可能性があるのだ。

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