新年合併号の予測が現実化してしまった

11月の貿易統計速報が公表された。その内容は、驚愕すべきものだ。すなわち、輸出総額は前年同月比26.7%減(約1.9兆円の減)の5兆3266億円となり、月次統計が比較可能な1980年以来、最大の減少率になった。対米輸出は同34.0%の減、対中国は24.5%の減となった。

特に問題なのは、対中国の輸出が大きく減り始めたことだ。なぜなら、これは輸出減少の第2フェイズの始まりだからである。

第1フェイズは対米輸出の減少であり、自動車が中心だった。これは、アメリカ金融危機の直接の影響である(住宅価格下落によって住宅担保の消費者ローンが急激に縮小し、自動車の購入が急減した)。

第2フェイズは、中国の対米輸出減少によって中国の生産が減少し、その影響で日本の対中国輸出が減少する過程だ。つまり、アメリカの消費減少が中国を経由して日本の輸出に影響を与えるというルートだ。品目としては、機械や部品が中心である。

対米輸出の減は、2007年の秋から生じていた現象である。対中国の輸出減は08年10月から始まったものであり、前回の本欄で書いたものだ。ただし、10月の数字は、0.9%減でしかなかった。11月の数字は、対中国の輸出減が、ついに本格的なものになったことを示すものだ。これまでの伸びが年率20%を超える高率のものであったため、それが減少に転じることの影響はきわめて大きい。ある意味では、対米輸出の減少より深刻な問題だ。

仮に毎月の輸出総額が11月のように対前年比で1.9兆円程度の減少を続けるとすれば、年間では22.8兆円程度の需要減少となる。これは、GDPの4.47%程度になる。本誌新年合併特大号の特集(36~39ページ)で、「輸出が前年比25%減、対GDP比で4%ポイント低下」と予測したのだが、それを超える事態が早くも生じてしまったことになる。このような大きな需要の落ち込みは、かつて日本経済が経験したことがない(なお、原油価格低下のため、名目値では輸入額も減る。しかし、実質値で見れば輸入はほぼ不変だ。他方で名目輸出と実質輸出はほぼパラレルに動く。したがって、実質GDPに負の影響を与えることになる)。

問題は、こうした減少傾向が、いつまで続くかだ。変化が急なだけで、すぐに落ち着くのか。それとも、今のような減少がある期間は継続するのか?

これを正確に予測するのは大変難しいが、重要な手がかりは、アメリカの経常赤字だ。なぜなら、世界的な貿易縮小の原因は、アメリカの輸入減だからである。

アメリカの経常収支赤字の対GDP比は、この1年間でほぼ1%低下した。その結果が、今貿易統計に表れている。経済危機が解消するためには、経常赤字の対GDP比が3%ほど低下する必要があると考えられる。そうだとすれば、この現象過程はあと数年間は続く。つまり、今起きていることは「始まりにすぎない」ということになる。

中国の緊急経済対策は輸出産業を助けない

前回述べたように中国は貿易依存度がきわめて高い国であるため、世界経済危機によって最も強い影響を受ける。これは、30年前から始まった改革開放路線が初めて遭遇した本格的な危機だ。

中国政府は、11月9日、国内需要拡大のため10年末までに総額4兆元(約57兆円)規模の投資を実施する緊急経済対策を発表した。農村の基盤整備や鉄道・高速道路の建設、港湾整備などの財政投資の前倒しのほか、銀行に対する融資規制の撤廃を盛り込んでいる。中国のGDPは07年で3兆2800億ドルだから、経済対策の規模はその16%程度に当たる。これだけ巨額の対策を考えなければならないほど、事態が深刻なのだ。

これによってアジア諸国の株価は一時上昇した。しかし、その本当の効果は大いに疑問である。そう考えられる理由は、次のようにいくつかある。

第一は、このなかには、四川大地震の復旧費など、すでに計画されていた公共事業をはじめとして、種々雑多なものが含まれていることだ。だから、総額が大きくても、実質的な中身がどれだけあるかは疑問である。つまり、内需拡大として真面目に受け取ってよい数字なのかどうか、わからない。

また、対策の財源がはっきりしないが、先進国のような国債市場がない状況では、ケインズ的な意味での有効需要創出になるかどうかも、疑問だ。税を財源として支出を増加しても、均衡財政常数の効果しかない。

最大の問題は、中国の経済構造にある。以下に内需を喚起したところで、輸出産業を助けることにはならないのだ。日本の場合でも基本的には同じことだが、中国ではそれが極端なかたちで表れる。なぜなら、中国の輸出産業は、その他の産業や国内経済とは、ほぼ切り離された存在だからである。

日本の場合、製造業は、輸出するのと同じ製品を国内市場向けにも販売している。だから、仮に内需を喚起できて国内消費者の所得が上昇すれば、製品に対する国内需要が増える。つまり、仮に輸出が回復しなくても、輸出産業の救済にはある程度の効果はある。

しかし、中国の輸出産業は、単に経済全体の中での比率が高いだけでなく、国内経済と切り離された存在であるため、内需喚起が成功しても、それによって助けられることはない。

日本の対中国輸出の減少は不可避

日本の高度成長期の初期に、「二重構造論」という考えが唱えられた。これは、経済学者の有沢広巳氏による、「日本の経済構造は欧米先進諸国のような単一な同質のものではなく、階層的な構造になっており、近代化した分野と近代化していない分野のあいだに大きな断層がある」というものだ。

確かに、そうした格差があったことは事実だ。しかし、日本の中小零細企業のなかには、大企業の下請けや孫請けとなって生産性を向上させ、高度成長の恩恵にあずかった企業も多い。また、政策金融や税制、補助金などによる政府の保護策も手厚く受けてきた。したがって、大企業とのあいだに差が存在するとはいえ、隔絶的・断絶的なものではなく、連続的な差であった。

また、自動車や電化製品など大企業の製品は、社会の広い階層を需要者としていた。そして、90年代までは、日本の産業は主として内需に依存する構造だったのである。極端に外需に依存する構造になったのは、03年頃以降のことだ。

しかし、中国の場合には、輸出産業とその他の産業(国営企業によって運営されている産業、および農業)は、ほとんど切り離されてしまっている。これは、極端な二重構造経済である。

ところで、日本の対中国輸出は、機械、部品などの中間財や資本財が中心である。つまり、それは、中国の輸出産業を相手にしたものであり、中国のその他の産業や中国国民を直接の相手にしたものではない。前回も述べたように、日本の対中国輸出とは、じつは間接的な対米輸出にほかならないのである。だから、前記の経済対策の恩恵を受けることはない。

したがって、仮に経済対策が効果を発揮するとしても、日本の対中国輸出の減少を食い止めることにはならない。日本経済が対中国輸出の減少から甚大な影響を受けることは、必至だ。

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