「投資立国」とは言えぬ対外資産の運用実態

財務省が11月13日に発表した2006年度上半期(4~9月)の国際収支統計によると、所得収支黒字額が貿易収支黒字額を上回った。原油価格が落ち着いたので、今後貿易収支の黒字は拡大するだろう。しかし、所得収支の黒字が縮小する事態は考えにくい。したがって、「貿易大国から投資立国へ」という傾向は、定着したと言える。

ところが、こうした大きな構造変化にもかかわらず、日本の対外資産運用の実態は、とても「投資立国」とは言えない段階にある。それは、アメリカが債務国であるにもかかわらず所得収支が黒字であることと比較してみると、明らかだ。これは前々回も述べたことであるが、重要な点なので、背景を詳しく調べてみよう。

 

04年末における日本の対外資産残高は、434兆円である。負債は248兆円で、差し引き186兆円の純資産がある。他方、04年度の所得収支では、投資収益の受け取りが12.8兆円、支払いが3.2兆円であり、9.6兆円の黒字となっている。利回りを計算すると、投資が3.0%、負債が1.3%となる。

これに対して、同時点のアメリカの対外資産残高は9.97兆ドルである。負債は12.52兆ドルで、差し引き2.54兆ドルの純負債がある。アメリカは世界一の債務国である。

ところが、アメリカの04年度の所得収支では、投資収益の受け取りが3795億ドル、支払いが3491億ドルであり、304億ドルの黒字となっている。利回りは、投資が3.8%、負債が2.7%だ。

このように、「安く借りて高く運用」しているために、所得収支が黒字になるのである。

アメリカに安く貸す日本の愚かさ

日本の対外資産収益率とアメリカのそれとのあいだには、かなりの差がある。もし日本の対外資産がアメリカ並みの収益率を実現できるなら、受け取りは16.5兆円に増加するだろう。支払いが変わらなければ、所得収支の黒字は13兆円程度になる。日本人1人当たり1万円を超える額であり、決してバカにできる数字ではない。

日米の対外資産の収益率が異なる第一の理由は、資産構造が異なることである。日本の場合、民間部門の対外資産は、直接投資が39兆円、株式投資が38兆円、債券投資が171兆円であり、圧倒的に債券に偏った構成になっている。

これに対してアメリカでは、直接投資が3.29兆ドル、株式が2.5兆ドルとなっており、債券は9000億ドル程度でしかない。つまり、債券の比率が日本では40%になっているのに対し、アメリカでは1割未満でしかない。その半面で、直接投資の比率が日本では8.9%でしかないのに対し、アメリカではほぼ3分の1に達している。つまり、日本の対外投資は、リスクの低い安全な投資に偏っているのだ。

それだけではなく、同じタイプの資産の収益率にも差がある。直接投資からの受け取りは、アメリカでは2330億ドルだ。つまり、投資残高に対する収益率は8%程度を実現している。これに対して日本の直接投資からの受け取りは約2.3兆円であるから、収益率は6%未満である。

ところで、右に示したように、日本の負債の利回りはアメリカのそれよりも低い。これを一見すると、日本はアメリカより巧みに資産調達をしたように思えるかもしれない。しかし、じつはそうではない。負債の利回りは、投資者から見ればその国への投資の収益率である。そして、日本とアメリカでは国内の利回りがまったく違っている。だから、日本の調達金利が低いのは当然なのである。

04年の10年国債の利回りを見ると、日本は1.5%程度で、アメリカは5%程度である。したがって、日本の外国からの資金調達金利は、長期金利とあまり変わらなかったわけだ。ところが、アメリカは長期金利よりかなり低い金利で調達したことになる。

このような資金供給を行なっているのが、ほかならぬ日本なのだ。日本は、アメリカの財務省証券の海外保有分のほぼ3分の1を占めているのである(05年頃から中国の保有が増加し、日本の半分程度になっている)。

アメリカの長期金利の水準を考えると、日本は、リスクなしで5%程度の投資利回りを実現してもよかったのだ。すでに述べた3.0%という数字は、「リスク回避」という事情を考えに入れても、低過ぎると考えざるをえない。

もっとも、日本国内で運用することと比べれば、3%でも上々の成績といえるのかもしれない。右の日米利回り格差は、円が3.4%増価したとしても、アメリカへの投資を正当化できるものだ。実際には円は04年と比べて5%程度減価しているから、運用担当者が運用成績で問題にされることはまったくなかったのだろう。

日本の運用担当者はサラリーマンである。収益を最大化しなくとも、他の運用者との横並びを実現していれば、マイナス評価をされることはない。かつてバブルの時代に、日本の機関投資家、金融機関、不動産会社などは、海外の不動産を高値で買いまくった。そして、投資のほとんどは膨大な損失を出し、撤退を余儀なくされた。それでも担当者が職を失ったという話は聞いたことがない。「皆と同じことをしていればよい」という投資態度は、今に至るまでほとんど変わっていない。

「成長促進」のための唯一の策は“人材育成”だが……

さて、以上の議論は、「アメリカの経常収支のサステイナビリティ」という問題と関連している。これは、「アメリカが経常収支の赤字をいつまでも続けられるのか?」という問題である。これまでの議論から明らかなように、日本が従来通りに安いコストの資金をノホホンと供給し続ける限り、アメリカの対外収支の赤字はいつまでも継続できるのである。

ところで、日本の対外資産総額434兆円は、国内総生産(GDP:03年度で501兆円)と同じオーダーだ。したがって、そのネット収益率が3%上がれば、GDPの成長率が(一時的に)3%上昇するのと同じことになる。これこそが、最も簡単に実現できる「成長促進策」だ。

そのためには、どうすればよいか? 投資促進効果が期待できない法人税減税をする必要はない。また、「イノベーション支援」と称して研究活動にカネをばらまく必要もない。こうした政策を展開しても、ムダ遣いが加速されるか、あるいは研究費をくすねて投資信託に回すといった事態が増えるだけだ。それに、研究活動の経済効果はきわめて不確実である。

しかし、対外資産の利回り向上は、人材を育成すれば可能である。たとえば、金融機関で働く中堅を1000人ほど集めて、1年間、アメリカのビジネススクールで使われているファイナンスの教科書を教え込めばよい。

それに必要な費用は、1人当たり300万円としても30億円だ。これは「安い買い物」だ。政府がその気になれば、すぐにでも実行できる。

ただし、ファイナンス理論習得のためには、数学と統計学のごく初歩的な知識が必要である。ゆとり教育を経験してきた人が多いことを考えると、これが最大の問題だ。人材育成は、金目の問題ではない。過去の教育の欠陥をどう取り戻すかという問題である。

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