日本経済は6年前に逆戻りする

目を疑うような経済指標の悪化が、次々に発表されている。いわく、11月の国内新車販売台数が前年同月比27%減、10月の鉱工業生産指数が前月比3.1%減、経済産業省による11月の製造工業生産予測指数が前月比6.4%減、パナソニックの2009年3月期営業利益見通しが前期比35%減、等々。

これらのデータは、日本経済が未曾有の経済危機に直面しつつあることを示している。これから生じるのは、02年からの景気回復が崩れて経済がそれ以前の状態に戻る過程と考えることができる。そう考える理由は、第一に、景気回復が異常と言えるほど外需に依存していたこと、そして第二に、輸出の増加をもたらしたものがバブルだったことである。したがって、「経済が元の状態(つまり、02年から03年頃の状態)に戻る」というのは、十分ありうることである。

実質GDPは、02年の初めから08年の間にほぼ10%ほど増加した。仮に一挙に後戻りして02年に戻れば、GDPは10%の減少となる。たぶんそれほど急激な調整は起こらないだろうが、仮に3年かけて元に戻るとすれば、3%程度のマイナス成長が3年間続くことになる。調整期間が長くなれば年間の落ち込み率は低くなるが、その代わりに不況が長引く。

これほど大きな不況を、これまで日本経済は経験したことがない。だから、「02年に戻る」というのは、非現実的と思われるかもしれない。しかし、株価を見れば、ほぼ03年頃の水準に戻っている。株価は、実体経済の状況を先取りしていると解釈することができる。そうだとすれば、実体経済が景気回復以前の状態に戻るというのも、決して荒唐無稽なことではない。

こうした考えを支持できるかどうかを確かめるために、今回の景気回復がいかなるメカニズムで実現したかを振り返ってみよう。ただし、これは、名目値で貿易統計を見ていても明確にはわからない。実際、02年から06年の間の変化を名目で見ると、輸出がほぼ1.4倍であるのに対して、輸入は1.6倍になっている。だから、国際収支表で見た貿易収支は、ほとんど拡大していない。

重要なポイントは、名目輸入額の増大は、原油価格など資源価格の上昇によってもたらされたことだ。したがって、実質で見れば輸入はあまり増えていないのだ。その半面で、実質の輸出は名目どおりに増えている。このため、実質値で見ると、純輸出は同期間に約3倍になった。そして、そのことが実質経済成長に大きく寄与したのである。

実質輸出の対GDP比は、1990年代には11%程度であった。それが02年の終わり頃から上昇を始め、04年に13%、05年後半に14%を超えた。そして、07年には16%程度の水準にまで上昇したのである。他方、この間の実質輸入の対GDP比は、10~11%程度であまり大きな変化はなかった。このため、それまでは1%程度だった純輸出の対GDP比が、5%を超える水準まで上昇したのである。02年以降の景気回復は、このようにしてもたらされた。

対米自動車輸出と対中国輸出が急増

輸出変動の要因を、貿易統計で見よう。まず輸出総額を見ると、90年代中頃には年間40兆円程度であった。それが、02年には約52兆円となり、07年には約84兆円となった。ところが、08年10月には、約7兆円になった。これは、07年10月に比べると0.6兆円の減少だ。輸出総額の対前年伸び率を見ると、07年の夏頃までは10%を超す伸びを示していたが、08年3月頃から伸びが鈍化し、6月に前年度割れになった。そして、10月には8%の落ち込みを示したのである。

次に、地域別の動向を見よう。対米輸出は、90年代の半ばまでは毎年12兆円程度の規模であった。それが90年代の末から増加し、02年に15兆円、07年には約17兆円にまで増加した。

ところが、08年10月では約1.2兆円で、07年10月に比べると、0.3兆円の減少になっている。対前年伸び率で見ると、06年10月頃まで10%を超える伸びを示していたが、07年3月頃から落ち込み、07年9月から前年割れが続いている。08年3月からは、10~20%の減というかなり大きな落ち込みを示している。

対米輸出で増加が最も著しかったのは、自動車である。90年代の半ばには年間2兆円程度であったが、02年には4兆円を超え、07年には5兆円を超えた。台数で言うと、同期間に140万台から240万台程度に増加している。

中国に対する輸出は、著しい伸びを示した。90年代の半ばまでは毎年2兆円程度であったが、90年代の末から増加し、02年に5兆円、07年には約13兆円になった。08年10月では約1兆円である。これは07年10月とほぼ同額だ。アジア全体では0.1兆円の減少になっている。

以上をまとめれば、次のようになる。02年から07年までの間に輸出総額は30兆円増加したが、このうち対米が約2兆円、対中国が約8兆円であった。ところが、07年から対米輸出が減少を始めたのである。これが世界全体の貿易を減少させる。たとえば、中国の対米輸出減少が日本からの対中国の輸出の減少につながるだろう。

この動きは始まったばかりであるため、今後の動向を読むのは難しいが、対米輸出の減少に見られるような傾向が、輸出総額について今後生じる可能性がある。仮に実質輸出が毎年10%ずつ減少するなら、その対GDP比は、毎年1.6%ポイントずつ低下し、3年程度で5%ポイントほど低下して、02年頃の水準に戻る。これは、前に述べた「日本経済が02年に戻る」というシナリオを輸出面から見たものであり、十分ありうるものである。

バブルに支えられた日本の輸出立国

対米輸出が増加した原因は、1つには実質円レートが円安になったことだ。いま1つは、アメリカで住宅価格が上昇したことである。これは、住宅を担保とした消費者ローン(ホームエクイティローン)を増加させた。金利も低下したので、住宅ローンを借り換えることによって住宅価格の上昇分を現金化することも可能になり、それが自動車などの購入に充てられた(これは、「キャッシュアウト・リファイナンス」と呼ばれた手法である)。

対米貿易黒字は資本取引を通じてアメリカに環流し、住宅価格の上昇をさらに支えた。このような過程が、03年頃から顕著になったのである。つまり、住宅価格上昇が、消費増、貿易赤字増、資本流入増というサイクルで自己増殖したわけだ。これはバブルである。ところが、その結果アメリカの経常収支赤字が持続不可能なレベルまで増大してしまったために、自己増殖過程が突然ストップしてしまった。

住宅価格は06年から下落を始め、それがサブプライムローンの破綻、その証券化商品の評価低下を引き起こし、金融危機を発生させた。

実体経済面では、消費支出、住宅建設、自動車購入が急減速し、それが右で見た貿易面の変化を引き起こしたわけだ。したがって、今生じていることはバブルの崩壊である。03年頃からの膨張過程が逆回転しているのだ。膨張過程がバブルであったために、こうした事態は不可避と思われる。

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