「トヨタショック」が意味する驚愕の事実

トヨタ自動車が11月6日に公表した決算予測によると、同社の2009年3月期の営業利益は、6000億円となる。08年3月期の利益2兆2704億円に比べると、1兆6703億円の減(73.6%の減)だ。

これは、信じられないような大きな額である。実際、これは、政府が経済対策の目玉としている定額給付金2兆円の84%に当たる。つまり、トヨタ1社の利益減だけで、定額給付金の84%が消えてしまうわけだ。トヨタ以外の自動車会社も大幅な減益を予想しているので、それらだけで2兆円の定額給付金は吹き飛んでしまうことになる。

このようにあまりに大きな数字なので、実感がつかめない。そこで、次のような計算をしてみると、これから日本経済を襲う大不況の目安がつかめる。

トヨタの従業員数は、連結ベースで31.6万人である。1.7兆円を31.6万人で割ると、529万円になる。これは同社の平均給与829万円の64%に当たる。つまり、仮に従業員の給与削減によって利益源を回避しようとすれば、1人当たりの給与をほぼ3分の1にまで減額する必要があるのだ(実際にはそのようなことは行なわれず、営業利益は減額するだろう。その負担の大部分は、同社の株主が負うことになる)。

06年度における国民所得(要素費用表示)は373兆円なので、トヨタの営業利益減額だけで、この0.45%になる。国民経済計算での法人所得(営業余剰)と企業会計の営業利益は正確に言えば同じものではないとはいえ、トヨタだけでこれだけの影響が生じるというのは、信じられないようなことだ。

バブル崩壊の当然の帰結

なぜこのような現象が生じるのか? 1つは販売量の減少。もう1つは円高だ。最初に第1の要因を見よう。

アメリカにおける自動車購入では、ほとんどの場合にローンが用いられる。住宅を担保に自動車ローンを組む消費者も多い。だから、07年までの時点では、住宅の価格上昇が自動車購入を増やした面が強かったのである。全体の自動車需要が伸びるなかでトヨタ車が人気を集めたのは、言うまでもなく、トヨタ車が優秀だからである。しかし、仮にアメリカの住宅バブルがなかったとしたら、トヨタの躍進がなかったであろうことも事実なのである。

したがって、これまで起こったことを、次のように理解することができる。日本の自動車産業は、円安に乗ってアメリカでの自動車販売を増加させ、そこで得たドルをアメリカに投資し、(結果的には)住宅ローンを支援し、住宅価格バブルの増殖に手を貸した。それがさらに自動車の販売を増加させた。その意味では、トヨタのここ数年の業績の著しい伸びは、世界的なバブルの一側面だったということになる。

ところが、住宅価格が下落を始めると、この条件が一変する。自動車ローン審査が厳しくなって、自動車ローンの信用収縮が生じる。そして、これまで自動車を購入できた人が買えなくなる(これまでの対象者の40%がローンの対象外となると言われる)。したがって、アメリカでの自動車購入が急激に落ちる。自動車販売額の急減は、こうしたメカニズムで生じた。

こう考えると、日本の自動車産業の利益減は、これまで歪んでいたマクロ経済の構造が正常なものに戻ってゆく帰結として、必然的に生じるものだと考えることができる。

利益が減少する第2の要因は、円高だ。

トヨタ自動車の場合、対ドル為替レート1円の円高・ドル安で、約400億円の営業減益要因になると言われている(ホンダでは年間200億円、日産自動車で145億円、ソニーは40億円)。

トヨタの想定レートは、これまで1ドル105円だった。それが下記見通しで、1ドル100円に改訂された(今回の利益下方修正は、これによるところが大きい)。しかし、今後1ドル100円で推移する保証はまったくない。実際、11月12日ですでに1ドル95円となっている。したがって、11月12日のレートでも、すでに約2000億円の減収となるわけだ。

問題はこれで終わりではない。対ユーロの想定為替レートは1ユーロ130円だが、11月12日のレートは1ユーロ119円だ。トヨタの場合、1円の円高・ユーロ安は60億円の減収要因になると言われる。従って、11月12日のレートでもすでに減収は約660億円拡大するわけだ。これらを合わせると、予想されている6000億円の利益のかなりが吹き飛んでしまう。

円高がさらに進む可能性も否定できない。したがって、下方修正された6000億円さえ、確保できる保証はない。むしろ、これより大幅に減少する可能性のほうが強いのである。為替レートの動向いかんでは、トヨタが赤字に転落する危険すら、皆無とはいえない。

無論、トヨタはお家芸の「コスト削減」を強化させて、収益減を回避しようとするだろう。しかし、そうなれば、負担のかなりの部分が、下請け、孫請けにかかってくる。

自動車の大幅減産は経済に甚大な影響

以上で述べたのはトヨタ1社だけのことであるが、日本企業全体で見ると、利益減はどの程度の規模になるだろうか? 日本経済新聞社の調べによると、上場企業の08年4~9月期連結経常利益は、前年同期比20.5%の減となる。ところで、06年度の営業余剰は95兆円だ。したがって、仮に08年度の営業余剰全体が通年で20.5%減少するなら、国民所得は約5%も減少してしまう。

実際には、企業全体の利益減少率は上場企業の利益減少率よりはかなり低いと思われるので、20%も減少することはないだろう。しかし、08年4~9月期の法人税収が前年同期比40.9%の減になったことを考えると、かなりの減少になることは避けられまい。『日本経済新聞』(11月16日付朝刊)によると、自動車大手8社は、当初前年度比3%増1040万台の国内生産を計画していたが、計画比で約7%減に当たる70万台強の減産に踏み切る。したがって、生産は前年比4%の減産となる。

雇用者の給与等はほぼ生産に比例して減少すると考えられるので、自動車関係の雇用者の給与等も4%程度減少するだろう。これは、給与水準の低下と失業の増加をもたらす。

自動車は、「1割産業」と呼ばれている(正確に言うと、自動車産業の直接または間接の従事者は501万人で、全就業者6382万人の7.9%。自動車生産額約54兆円は、製造業の約17.2%でGDPの約11%だ)。したがって、自動車の減産だけで、雇用者所得やGDPを0.3~0.4%減少させる。

以上は国民市経済計算の所得面と生産面からのアプローチである。前々回(11月22日号)で見たのは、有効需要の面からのアプローチであった。どちらから見ても、日本経済が今年度か半期から急激な減速過程に入ることが予測される。

IMFによる予測(11月6日)では、09年度の日本の経済成長率はマイナス0.2%とされているが、とてもこんな程度ですむとは思えない。これまで日本が経験した実質経済成長率低下の最悪は、1998年のマイナス2.1%だ。これを上回る事態がこれから生じる可能性は、決して否定できない。

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