一次産品価格問題は解消したのか?

原油をはじめとする一次産品の価格は、2008年の7月頃までの急激な上昇を示したが、秋以降は急落した。アブダビ・スポット価格で見ると、08年10月末の原油価格は1バレル60.51ドルとなり、140ドルを超えた7月の水準に比べると、42%程度の水準にまで低下した。

日本国内のガソリンの全国平均価格は、11月4日には1リットル141円となり、8月4日に記録した最高値185.1円に比べると76%程度の水準にまで低下した。

このような状況を見て、一次産品価格問題は解決したような錯覚に陥った人が多いように見受けられる。確かに、今年の夏頃までの異常な状態は収まった。

しかし、下がったといっても、原油価格の10月末の水準は、06年1月頃と同水準である。中期的に見れば、現在の価格水準はまだ著しく高い。それ以前を見ると、05年1月は39ドル、04年1月は30ドル、02年1月は20ドルだった。

このように02年から現在までの7年間で約3倍になったのだから、年率に直せば17%程度の上昇だ。つまり、07年以降の異常な高騰がなかったとしても、原油価格はかなり高い伸びを示したことになるのである。

国内ガソリン価格も、11月4日の水準は、07年7月初めと同じである。異常であったこの1年間の高騰が元に戻って1年半前の水準に戻ったのであり、中期的見れば、一次産品価格の問題は、決して解消したわけではない。それ以前を見ると、02年から03年にかけては100円程度であった。したがって、約6年間で1.4倍になったわけであるから、年率でいえば平均6%程度の上昇があったことになる。

このことは、企業物価指数や輸入物価指数を見ても明らかである。08年9月の輸入物価指数は、対前年比20%の上昇を示している(石油・石炭・天然ガスは61.5%の上昇、食料品・飼料は8.8%の上昇)。このため、企業物価総平均は、対前年比6.8%の上昇となっている。

企業物価指数は、1990年代の初めからほぼ継続して対前年比1~2%程度ずつ低下を続けていた。消費者物価も、その影響で低下した。

企業物価指数の動向が変わったのは、04年の初めからだ。これは消費者物価に波及し、消費者物価指数も上昇に転じた。全国総合指数の対前年比で見ると、07年10月から継続的なプラスに転じ、08年7月からは毎年2%を超える値が続いている。

下落局面では、消費者物価下落率は企業物価下落率の3分の1程度であった。仮に上昇局面が下落局面と対称的であるとすれば、毎年6%程度の輸入物価の上昇は、消費者物価上昇率を2%程度にするだろう。日本国民がインフレの危機に直面しつつあることは、08年以降の一次産品価格の下落にもかかわらず、依然として変わらないのである。

一次産品価格に影響する3つの要因

金価格や農産物価格も、05~06年頃から変調している。金価格は、それまで長期にわたって1オンス300~400ドル程度であったが、05年頃から顕著な上昇を始め、08年3月に最高値で1000ドルを突破した。その後、900ドルを超える水準が9月末頃まで続いたあと急落した。

ただし、07年夏頃の水準に戻ったにすぎず、04年以前よりは2倍程度の水準になっている。つまり、最近時点で下落はしたものの、長期的な水準に比べればかなり高い。

原油以外の一次産品価格(農産物など)も、それまで長期にわたって安定的であったが、06年頃から顕著な上昇を示した。08年の夏頃にピークを記録した後、急落した。ただし、食料品は、08年10月の水準は07年夏頃の水準に戻ったにすぎず、05年以前よりは3割程度高い。

そして、金、原油、穀物などの価格は、ほぼ同一基調で増加した。それが07年夏のサブプライム問題の顕在化につながったといえる。言い換えれば、金融危機とはドルに対する信頼の揺らぎなのであり、それは07年に急に生じたものではなく、04~05年頃から徐々に始まっていたのだ。

ドル表示の一次産品価格は、次の3つの要因によって動かされている。(1)投機的要因、(2)実需の増加、(3)ドルの価格低下。今年の夏までの異常な価格上昇は、(1)の投機要因によって生じた。「アメリカの住宅価格バブルは崩壊したが、原油価格や資源価格のバブルも近い将来に崩壊する可能性がある」と、『週刊ダイヤモンド』誌の連載(08年1月26日号)で述べたが、08年の秋以降、事実そのとおりになった。

一次産品の価格を考えるには、この3つの要因を区別して考える必要がある。実際のデータで実需要因と投機要因がどの程度の影響を与えているかを判別するのは難しい。ただし、金価格で表示した価格の長期的動向が実需の影響を表すと考えてよい。これは、90年代に比べると2倍程度の水準に上昇している。

金融政策の再検討が必要

ところで、金融政策は、金融混乱を背景として緩和が継続されている。日本銀行は、10月31日の政策会議において、政策金利を0.2%引下げて、年0.3%とした。この政策に対する批判はほとんど聞かれないが、次のような問題を含んでいる。

第一に、一次産品価格の影響が国内物価に波及するのを防ぐためには、円高が必要であり、そのためには金利の引上げが必要だ。先に述べた3つの要因のうち、第3要因による部分は、日本の金融政策によって対処ができるのである。

第二に、消費者物価が上昇すると、名目金融資産の実質価値が減少する。インフレ率が年率2~3%程度にとどまる限りそれほど深刻ではないが、長期間続ければ無視できなくなる。目減りを防止するには金利の引上げが必要だ。

日本銀行はこれまで、物価上昇率がゼロまたはマイナスであることを理由にして超金融緩和を正当化してきた。しかし、いまやその条件は失われた。したがって、金融政策の基本的な方向づけについて再検討がなされなければなるまい。

ただし、右で述べた2点のいずれについても注釈が必要である。

第1点について、鉄鋼産業は、原材料価格の高騰のため、むしろ円高で収益が増えるような構造になった。これまで輸出関連産業はおしなべて円安を喜んでいたが、いまや資源価格の高騰により、一枚岩的構造は崩れたわけである。

第2点についていうと、すでに対外資産にコミットした投資家の資産は、円高によって減価する。たとえば、外国の債券に投資する投資信託グローバル・ソリブン・ファンドの基準価格は、11月4日には6256円まで下落している。これまで分配金はあったものの、元本は6割近くまで減価してしまったわけだ。

したがって、金利引上げ、円高を望まない。これまでは、資産保有者は金利が高いことを望んでいた。しかし、ここでも一枚岩的構造は崩れたのである。

このように、利害関係は、数年前の単純な輸出(輸出産業は円安を望み、消費者=資産保有者は利上げ、円高を望む)から、大きく変化している。金融政策や為替レート政策をめぐる政治経済学的構造は、かなり複雑化している。

金融政策のかじ取りは難しい選択となっている。

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