堤防の10倍の津波がこれから来る

10月末に、起業の9月期決算と2009年3月期予想が発表された。輸出関連企業の状況は「惨憺たるありさま」としか言いようがない。多くの企業で、08年4月からの通期では、利益が半減する。

株価はすでにこれを読み込んでいると考えることができる。日経平均株価は、昨年夏頃に比べて半分以下の水準にまで落ち込んでいる。「株価が低過ぎる」という企業経営者が多いが、今後の利益の状況を見れば、むしろ正確に反映していると言うべきだろう。

実体経済への影響は、これから生じる。生産調整、売り上げの減少などだ。新卒者の内定取り消しはすでに始まっているが、雇用も厳しい状況になってゆくだろう。

02年からの日本の景気拡大は戦後最長のものであったが、これは、異常なほど外需に依存して実現したものであった。実質GDPに占める純輸出の比率は、それまでの1%程度から、2%、3%へと上昇した。ことに顕著なのは03年頃からである。これは、株価が上昇し始めた時期と一致する。07年度には、5%を超える水準にまで達した。「外需依存度」(GDPの増加分における外需の増加分の比率)で見ると、50%を超えた年もある。

ここで、国民総生産(GNP)=国内支出+純輸出=国内支出+純海外投資という関係に注意し、「需要が生産を決定する」という考えに立てば、式の右辺が縮小することになるので、日本のGNPは今後縮小することになる。つまり、日本は景気後退に直面せざるをえない。その規模は、きわめて大きい。財務省が10月30日に発表した9月の貿易統計によると、貿易黒字額は、予想を大幅に下回って、前年比94.5%の減少となっている。経済成長に関連するのは、名目値である貿易収支に価格の調整を行なった「実質純輸出」なので、貿易統計の数字だけから影響を正確には評価できないが、仮に07年に記録した純輸出がゼロになれば、GDPの5%程度の影響が及ぶことになる。

アメリカの投資銀行モデルは崩壊したが、同時に日本の輸出立国モデルも崩壊した。この2つは、別のことではなく、じつは相互に深い関係があることだったのである。

アメリカの経常赤字の正常化が必要

先の式を見れば、これまで、日本は国内の支出以上の生産を行なって海外に投資してきたことがわかる。その半面でアメリカは、海外からの投資を受け入れることによって国内の支出を賄ってきた。

この連載で、グリーンスパンやクーパー、バーナンキの議論を紹介したことがある。彼らの主張を簡単に言えば、「日本や中国などのアジア諸国は、国内支出の機会を見出せないので、アメリカに投資するしかないだろう。つまり、アメリカの消費がアジア諸国の成長を支えた」ということだ。こうした意見は傲慢なものだとは思うが、正しいと認めざるをえない。

グリーンスパンは、次のようにも言う。「国内に貯蓄過剰セクターと投資過剰セクターがあるのと同じく、国際的に見てもそのような差異がある。これは、ある種の分業である」。これもそのとおりだ。ただし、重要な点を見逃している。それは、為替レートの問題だ。

物々交換の世界、あるいは世界に1つの通貨しかない世界では、この議論はそのまま成り立つ。しかし、実際には、さまざまな通貨があり、それらの交換比率すなわち為替レートは、変動する。ドルが減価してしまえば、投資の価値は減る。そうなれば、アメリカへの投資は減少する。あるいは、アメリカから引揚げられる。これが「ドルの信認の問題」であり、現在の世界経済混乱の中心にある問題なのである。

将来を考える場合の最大の問題は、アメリカの経常収支赤字の縮小可能性である。すなわち、「アメリカの経常収支赤字が現在のような高水準のままで、事態は収束するか?」という問題である。

21世紀初めの01年、アメリカの年間経常収支赤字は3847億ドルだった(1991年には黒字だった)。それが、06年には7881億ドルにまで増加した。GDPに対する比率は、ほぼ6%になった。これは、どう考えても大き過ぎる額だ。「こうした状態を長期に維持することはできず、GDP比3%程度にまで減少しないとドルに対する動揺は収まらない」と考えるのは、自然なことだ。

実際の動きを見ると、07年代2四半期の経常収支赤字は1941億ドルであった。これが08年第2四半期には、1831億ドルにまで縮小した。これをもたらしたのは、財サービス収支の赤字減少と所得収支の黒字増だ。つまり、この1年間で縮小はしている。

しかし、現在の数字はまだ高水準だ。アメリカの経常収支赤字問題は、解決にはほど遠い状態にあると考えざるをえない。だから、問題は短期間では収束しないことになる。金融機関の安全性が確保されたとしても、それで終わりではないわけだ。

今後アメリカの経常収支赤字が縮小してゆく過程で、産油国に対する赤字が簡単に縮小するとは思えない。したがって、しわ寄せは日本と中国に集中するだろう。こう考えれば、日本の純輸出がGDP比で5%程度縮小するのは、決してありえないことではない。

コントロール不可能な需要減

政府が10月30日に決定した「追加経済対策」では、総額2兆円の定額給付金を全世帯に支給することが目玉になっている。しかし、これはGDPの0.4%程度にすぎず、すでに述べた需要収縮の10分の1にもならない。つまり、今後予想される景気後退圧力には、ほとんど効果がない。

仮に輸出減少の効果をオフセットしようとすれば、現在の国債発行額を2倍にするほどの財政支出が必要であるが、それは現実にはほぼ不可能なことであろう。また、円安誘導のために金利の引き下げを行なおうとしても、すでに引下げ余地はほとんどない。

問題はそれだけではない。仮に国内支出が増えても、それが輸入の増加をもたらせば、先の式の右辺第2項が減少してしまう。したがって、GNPは増加しない。円高によって製品輸入や海外旅行支出などが増える可能性があるので、こうなる可能性は高い。

これに対して、アメリカの場合、消費などの国内支出が減少することは景気を後退させる要因だ。しかし、経常収支赤字が縮小すれば、右辺の第2項が増加するので、需要減退は弱められる。もちろん、金融混乱によるさまざまな問題が需要を減退させ、景気を後退させることは避けられないだろう。しかし、日本の場合よりは需要減退が弱い可能性も、十分あるのだ。

「金融危機が実体経済に波及する」ということが、しばしば言われる。しかし、日本の場合とアメリカの場合では、右のような差がある。こうして見ると、中長期的により大きな問題を抱えているのは、アメリカよりはむしろ日本だということになる。

これからの日本は、制御不可能な事態に直面することになる。たとえていえば、次のようなことだ。

海の向こうで大地震があった。これから津波が来る。大慌てで堤防(2兆円給付金)を造ったが、津波の高さはその10倍を超える(GDPの5%)。堤防ではとても防ぎ切れない!

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