助けた揚げ句に踏み倒されるお人よし

三菱UFJフィナンシャル・グループがモルガン・スタンレーに約9000億円の出資をした。この出資がなければ、モルガンは深刻な危機に陥ったと言われているので、きわどいところを救われたわけだ。

これでアメリカ金融経済の破綻がひとまず回避されたわけだから、三菱UFJは世界経済に多大の寄与をしたことになる。本来なら、アメリカ大統領から感謝状が来てしかるべきだ。

三菱UFJの首脳にはすでに来ているのかもしれないが、預金者にも来てしかるべきだ。なぜなら、この出資で、三菱UFJの預金者は大きなリスクにさらされることになったからだ。これまで、日本の金融機関はサブプライム関連の資産が少ないので安全と言われていたが、資本参加したからには、そう言ってはいられない。モルガンが保有するサブプライム関連資産が値下がりすれば、同社の株価は下落し、三菱UFJは含み損を抱える。アメリカの住宅価格はまだ下落すると思われるので、そうなる可能性は高い。三菱UFJの預金者は、これからは、モルガンが負っているリスクに無関係ではなくなる。

事実、発行価格25ドルで合意していた出資払い込みの直前に、モルガンの株価は急落し、10ドルを割った。三菱UFJはあわてて優先株での出資に切り替えたが、これで三菱UFJの安全性が確保されたわけではない。金融危機はこれからどのように進展するのかわからないから、出資した9000億円の価値の行方もわからない。モルガンが業績を回復して株価が上昇する可能性もあるが、ゼロになってしまう可能性も皆無ではない。それに、投資銀行のビジネスモデルは終焉したと言われているので、長期的に見てモルガンがこれまでのような高収益を上げることはできないだろう。いずれにせよ、アメリカを助けるために三菱UFJがきわめて大きなリスクを負ったことだけは間違いない。

ところで、資金を出してアメリカを助けてきたのは、三菱UFJだけではない。日本はこれまで全体としてそうしてきた。アメリカが抱える経常収支の赤字をファイナンスするために、輸出で稼いだカネを投資というかたちでアメリカに環流させた。アメリカ人が目もくらむばかりの豪華な住宅に住むことができたのは、日本からのこうした資金供給があったからだ(「サブプライムローンは低所得者向けというのに、差し押さえられた担保物件があまりに豪華なので驚いた」という日本人は多い)。その構造と顛末がどうであったかを、以下に見よう。

史上最大のデフォールト

日本がアメリカに供与した資金は、贈与でなく投資だ。つまり、利息を付けて確実に帰してもらうべきものだ。投資対象は主としてTB(アメリカ財務省証券)だから、デフォールトということはない。しかし、ドル安が進めば、円での評価額は減価する。資産購入時の為替レートがわからないので、損失額も正確には評価できないが、過去の為替レートの推移を参照すれば、ドル建て資産の4分の1程度は円高によって失われたと思われる。

日本の対外資産は2007年末で610兆円あり、そのうちドル建てのものが証券投資と同じ比率(41%)あるとすると、損失は63兆円程度だ。IMFが先般公表した推計によると、サブプライム関連の金融機関損失の総額は今後数年間で約143兆円と予測される。日本がすでに被った損失は、ドル建て資産だけでこの半分近くになる。

今後ドル安がさらに進めば、さらに減価する。外貨準備だけをとっても、20兆円に近い額の損失が発生していると思われる。為替レートの先行きを予測することは不可能だが、125円に戻るとは考えられない。だから、この損失を取り戻すことは不可能だろう。

これは、「史上最大のデフォールト」と呼ばれることがある。つまり、「踏み倒し」である。ただし、合法的なものだ。アメリカが違法行為を行なったわけではなく、ドル資産に集中して投資していた日本が愚かだっただけである。

これまでは、円高になると困るのは輸出産業だった。そのことは今でも少しも変わらないが、今は資産も困る。金融機関、年金などにこれから影響が及ぶだろう。

日本の海外投資が愚かだったのは、ドルに集中していただけでなく、低利で貸していたことだ。株を買ってもよかったのだが、TBを買った。アメリカにとって必要なのは資金の「量」だから、高い金利を要求することもできた。しかし、それを要求するだけの才覚を持っていなかったので、こうなった。

このため、アメリカは債務国でありながら、国際収支の所得勘定が黒字になっていた。つまり、「負の元本で正の収益を上げる」という魔法のようなことが実現していたのである(この点は、イギリスも同じである)。

知恵に対抗するには知恵が必要

つまり、こういうことだ。日本人は額に汗して働き、物を作ってアメリカに売った(円安のため安く売った)。相手は、代金を貸してくれと言った。それを安い金利で貸した。返ってくればいいのだが、踏み倒された。助けてやって踏み倒されそうだ。それなのに、感謝状も詫び状も来ない。どうやら国際経済では、お人よしのカネ持ちは、尊敬されたり感謝されたりすることはなく、馬鹿にされるだけのようだ。

なお、アメリカに資金的援助をしてきたのは、日本だけではない。中国も産油国もそうである。産油国は、資産運用をイギリスなどの金融機関に任せている。そのため、ポートフォリオの構成も収益も、よくわからない。これまでは中国も日本と同じようにアメリカのTBで運用していた。したがって、ドル安で資産が減るのは、中国も同じだ。しかし、SWF(政府系ファンド)の設立で変わってゆくかもしれない。そうなると、お人よしのカネ持ちは日本だけになる。

「金融取引で高収入を得るのは、ずる賢い。しかし、日本人は勤勉なので、物づくりに励んだ。そして、リスク資産にも手を出さなかった。だからキズが浅くすんだ。ずる賢いアングロサクソンの投資銀行が行き詰まったのは自業自得だ」と考えている人が日本には多い。しかし、すでに述べたように、日本人は巨額の損失を被ったのである(それこそが、「ずる賢い」ということの意味である)。

金融批判はよい。しかし、知恵がある人に対抗するには、こちらも知恵を持つ必要がある。そうでないと、いいように利用されてしまう。生産現場が強いのもよい。しかし、財務部門も強くなくては困るのである。そうでないと、工場が稼いだカネを、知らない間に取られてしまう。

第1次湾岸戦争のときも、日本は多額の拠出をしたにもかかわらず、なんの感謝状ももらえなかった。冷戦時代には核の傘が必要だったし、湾岸戦争のときは派兵できない理由があったから、やむをえないとも言える。しかし今回は、単に愚かだっただけだ。知恵の不足がいかなる結果をもたらすかを、日本人は肝に銘じて知るべきだ。

資本不足に陥ったアメリカを助ける点で、三菱UFJは日本の縮図だ。日本全体としては、以上で述べたように、「助けて、そして踏み倒された」という結果になりつつある。三菱UFJがそうならなければよいのだが。

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