法人税の軽減で経済は活性化しない

法人税の負担を軽減して日本経済の活性化を図ろうとする議論が有力になっている。しかし、この議論に対しては、強い違和感を覚えざるをえない。

まず第一に、「日本において法人税の負担が重い」という事実認識は、肯定しがたい。

最高の所得区分における法人税の表面税率を見ると、日本は30%でイギリスと同じであり、アメリカの35%よりは低くなっている。

ただし、法人に対する課税としては、国税のほかに地方税もある。そこで、地方税も含め、また地方税が国税で費用になる場合を調整したあとの税率を見ると、最高の所得区分において、日本40.87%、アメリカ40.75%、イギリス30.0%、ドイツ39.9%、フランス33.3%などとなっている。

日本では地方税である事業税の税率が高いために、調整後の税率で見れば他国より高くなるのは事実である。ただし、アメリカ、ドイツとの差は、誤差の範囲と言ってよい。

重要な点は、アメリカにおける法人課税がこのように高率であるにもかかわらず、アメリカ経済は1990年代以降繁栄を続けているという事実だ。つまり、法人税率の税率が経済パフォーマンスに明白にネガティブな影響を与えているとはとても言えないのである。

日本の租税負担率は主要国中では最低レベル

それに、「法人の負担」という面から見ると、重要なのは税率ではない。なぜなら、税率がいくら高くとも、利益が出なければ法人税を負担することにならないからである。そして、日本において法人税を負担する企業の比率は、顕著に低下している。全法人に対する欠損法人の比率を見ると、80年に56.4%であったものが、90年63.1%、2000年80.3%と、一貫して上昇した。03年では78.2%である。つまり、法人税を負担しているのは、全法人中のわずか2割程度でしかないのだ。90年代に欠損法人の比率が上昇したのは、経済停滞によって法人の利益が減少したからである。

このため、国税中に占める法人税収の比率は、90年度には29.3%であったが、2000年度には21.2%と、顕著に低下した。この比率は最近の年度では回復しているが、それでも06年度当初予算で25.6%である。税収の絶対額で見ても、90年度の約18兆円から2000年度の11.7兆円に減少した(06年度で約13兆円)。

所得税や間接税も含めた租税負担率を国際比較してみると、日本の負担率はきわめて低い。06年における租税負担率(国税、地方税の国民所得に対する比率)は、日本23.0%に対して、アメリカ23.1%、イギリス36.9%、ドイツ28.6%、フランス36.4%、スウェーデン49.9%などとなっている(諸外国は03年)。

このように、日本の租税負担率は主要国中では最低のレベルにある。イギリスに比べると6割程度でしかなく、スウェーデンに比べると半分よりかなり低い水準だ。それにもかかわらず、イギリスやスウェーデンの最近の経済パフォーマンスは目覚ましい。現実の経済では、「税負担が重いと経済パフォーマンスが悪化する」という議論とはまったく逆の現象が生じているのである。

以上で述べたのは、税率や租税負担に関する実態であるが、理論的に見ても、法人税の税率が企業活動に影響することはない(あるいはきわめて少ない)と考えられている。特に重要なのは投資に対する影響であるが、「法人税率は投資活動に中立的」というのが、経済学の標準的な結論だ。その理由は次のとおりである。

法人税率を引き下げれば、税引き後の投資収益率は上昇する。このことをもって「法人税率の引き下げは投資を促進する」と考えがちであるが、そうはならない。なぜなら、支払い利子は法人税において全額損金算入されるため、法人税額を減少させる効果を持つからである。したがって、投資が借り入れで賄われる場合を考えると、法人税率の引き下げによって、資本コストも上昇する。投資資金の全額が借り入れで調達される場合には、税引き後投資収益率の上昇をちょうど打ち消すだけ資本コストが上昇する。したがって、法人税率の引き下げは投資を促進することにはならない。

以上から得られる結論は、まったく明白である。「法人税の負担が重いから企業の活動が阻害される」という主張をサポートする理論もなければ、事実も見当たらない。90年代以降の日本で現実に生じたのは、単に「企業業績が悪化して法人税収が減った」というだけのことだ。

そして、企業業績を決めるのは、税ではなく、企業活動の内容そのものである。このことは、最近時点の業種別収益の動向を見れば明らかだ。仮に法人税率が問題なら、日本の産業はどれも同じような影響を受けるはずだ。しかし、最近の収益状況は、産業によって著しい差がある。

たとえば、鉄鋼業の総資本営業利益率は、01年に1.0%だったが、04年には9.1%になった。それに対して、電気機械器具は、-0.1%と2.9%だ。鉄鋼業の収益回復が著しいのは、この欄でかつて述べたように、中国などにおける建設ブームによって鉄材が値上がりしたためである(06年1月28日号)。そして、エレクトロニクス産業が思わしくないのは、ITの進展に日本のエレクトロニクスメーカーが対応できないからである(その典型がソニーである。05年10月29日号)。法人税の負担の差がこうした差をもたらしたわけではないことは、明らかである。

重厚長大産業を助ける税制改革は経済の逆戻り

日本の将来を考えるとき重要なのは、産業構造を根本から改革することだ。そして、新しいリーディングインダストリーを見出すことである。

前回(06年11月4日号)述べたように、イギリスは製造業を復活させて経済を活性化したのではなく、金融業中心とする新しいサービス産業を展開して経済全体を活性化した。これは、イギリスに限らず、ヨーロッパで90年代以降目覚ましい発展を続けている国に共通する傾向である。

そして、このような方向こそが、中国が工業化し、ITが新しい可能性を切り開きつつある21世紀の世界において、先進諸国が進むべき方向である。日本と同じように重厚長大産業から抜け出せないドイツが長期低迷を続けている現状を、われわれは直視すべきだ。

ところが、現在考えられている法人税の改革は、減価償却制度を見直すことによって法人税の実効税率を引き下げようというものだ。これは、巨額の生産設備を保有する産業(その典型が鉄鋼産業である)に有利な減税である。その半面で、サービス産業にはほとんど恩恵が及ばない。最近の業績回復によって法人税負担が増加する可能性があるため、巨額の設備を保有する産業が減税要求をしているというだけのことである。

過去10年間の経済政策は、金融庁緩和政策によって企業の金利負担を軽減し、巨額の債務を抱える重厚長大産業の延命を助ける方向のものだった。これが、小泉純一郎内閣の経済政策の本質であった。

今、税制改革によって、その方向をさらに推し進めようとしている。重厚長大産業の復活を助ける税制改革によって日本経済の産業構造を逆戻りさせるべきではない。

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法人税の軽減で経済は活性化しない” への2件のコメント

  1. 「法人税の負担が重いから企業の活動が阻害される」という主張をサポートする理論もなければ、事実も見当たらない。

    とのご意見は、事実かも知れません。しかし、法人税率が高いから、税収が少なくなるのは、事実ではないかと言う気がします。例えば、中小企業の経営者も税理士も、皆が、無駄に経費を使って税金額を下げる努力をしているからです。とにかく、政府に納めるくらいなら、関係業者や従業員に支払う方が良いと考えているのが実態でしょう。

    企業経営者の不満は、働いて利益を出しても政府が高い税率でもって行き、それを無駄で馬鹿な投資に振り向けてしまっていることではないかと思います。

    神戸空港はなぜ必要だったのか。本四架橋がなぜ3本かとか。地方の山中の使われない舗装道路、多くの地方空港や老人が行けないような高いところの福祉施設、豪華なホテルロビーのようなごみ焼却場とかがその例でしょう。

    おそらく、25%程度まで下げれば、内部留保も適度にできるし、国に収めることも気にならなくなり、税収は、多いに増加すると思います。

  2. ピンバック: ネムノキ(合歓の木)~数値にとらわれること «

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