世界経済の調整はまだまだ続く

フランスのBNPパリバ銀行が、サブプライムローン関連商品の値下がりに対処するため参加ファンドを凍結した「パリバ・ショック」から、1年がたった。この間に世界経済は様変わりした。

さまざまな経済指標が、そのことを明確に示している。ダウ平均株価は約1万3200ドルから1万1800ドルへと約89%の水準に、日経平均株価は約1万7000円から1万3400円へと約79%の水準に、それぞれ低下した。日米為替レートは、1ドル118円から110円へと円高になった。原油価格や食料品価格も高騰した。

ところで、株価と為替レートの動きにおいて、今年の3月頃までとそれ以降では、変化が見られる。すなわち、昨年の夏から今年の3月頃までは、株安と円高がほぼ連動して進行した。株価はその後若干持ち直したものの、6月頃から再び下落している。

これに対して、為替レートは、3月以降はほぼ傾向的に円安方向に動いている。したがって、6月以降の株価と為替レートの相関関係は、3月までのものとは逆になった。株価の動向自体は日本とアメリカでほぼ同一であるものの、日本の株価下落のメカニズムは、6月以降は今年の3月頃までのものからは変化したと考えられるのである。

株価下落の原因が輸出産業の収益減にあることは変わりないが、収益減をもたらす要因が変化しているのだ。すなわち、3月頃までは、円高に伴う価格競争力の低下と円ベースで見た販売額の減少が主たる原因だった。

それに対して3月以降は(主としてアメリカにおける)輸入製品に対する需要減少が主因になっていると思われる(自動車の場合で言えば、販売台数の減少)。

国際収支はどうなっているだろうか。日本の季節調整済み国際収支の推移を見ると、昨年夏に比べて経常収支には大きな変化は見られない。貿易黒字は減少しているものの、輸出はほとんど変化していない。貿易黒字の減少は、主として輸入価格の高騰による輸入の増加で引起こされている。

アメリカの経常収支赤字は解決にはほど遠い

アメリカの四半期経常収支赤字(季節調整済み)は、2005年から06年頃にかけては、2000億ドル程度というこれまでにない高い水準に達していた。07年の第2四半期は1941億ドルであった。これが08年第1四半期には、1764億ドルにまで縮小している。これをもたらしたのは、財サービス収支の赤字減少と所得収支の黒字増だ。

21世紀の初め頃、アメリカの四半期経常収支赤字は1000億ドル程度だった。1990年代の初めには、200億ドル程度でしかなかった。だから、この1年間で縮小したとはいえ、現在の数字はまだ高水準にあることが分かる。アメリカの経常収支赤字問題は、解決にはほど遠い状態にあると考えざるをえない。

この連載で述べてきたように、今生じている国際経済の混乱は、アメリカの巨額の経常収支赤字が持続可能でないことに基本的な原因がある。それが持続可能なレベルまで減少しない限り、現在の世界経済の混乱は収まらない。それがまだ遠い先だとすると、混乱の収束までにはまだかなりの時間がかかると考えなければならない。

ここで、アメリカの経常収支赤字縮小は、対日赤字の縮小を意味することに注意しなければならない。つまり、日本側から見れば、今後対米黒字が縮小することは、避けられない。これは、日本経済に本質的な影響を与えざるをえない。

経済に痛みを与えずに現在の混乱を克服できないかと議論されることがある。そうした手段があれば望ましいことは明らかだが、経済現象にはできることとできないことがある。少なくとも、長期的に持続できないことがあるとの認識は重要だ。日米両国にとって、大きな経済調整は、避けることができない。

このことを正しく認識するのは重要なことだ。不可能なことを望んで現実を悪化させるのではなく、厳しい状況を見据え、それへの対処策を考えることが重要である。

3月以降の円安の動きは不可解

ところで、3月以降の円安の動きは、不可解である。日米政策金利の差は、昨年夏までと比べるとだいぶ縮小しており、現在年1.5%しかない。これは、円キャリートレードを引起こすほど大きな金利差とは思えない。それにもかかわらず、3月以降、円はドルに対して傾向的に弱くなっている。

他方、ECB(欧州中央銀行)は7月に市場調節金利を0.25%上げ、年4.25%とした。その結果、日本との政策金利差は3.75%に拡大した。それにもかかわらず、7月以降、円はユーロに対して強くなっている(3月から7月までは対ユーロで円安になっていたが)。また、円はユーロ以外の通貨に対しても増価している。このような動きが生じている理由は、よくわからない。

アメリカで「強いドル」が言われ、金融政策が転換するとの予測があったためかもしれない。しかし、現実には、FRB(米連邦準備制度理事会)は動いていない。8月5日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、フェデラルファンド・レートの誘導目標は2%に据え置かれた。9月のFOMCでも、据え置かれるとの見方を持つ人が多い。

アメリカの金融政策に変更はないとの認識が一般化すれば、再び円高に転じる可能性は強い。実際、購買力平価という長期的な観点から見ても、為替レートの調整は遅れているように見える。「持続可能なレート」という観点から見れば、もっと円高になって然るべきだ。

しかし、そうなると、日本の輸出は二重の意味で打撃を受ける。特に、自動車産業への影響は大きいだろう。まず、ガソリン価格の上昇によってアメリカ人の自動車離れが進む(これは、すでにアメリカでの日本車販売の落ち込みとなって顕在化している)。他方で円高が進み、日本製品の価格競争力が減退する。このように、日本の基礎を支えている産業が、現在のビジネスモデルでは存続できないと宣告されているわけである。

02年以来の日本の景気拡大は、バランスを失するほど輸出に依存したものであった。内閣府が5月に発表した08年1~3月期の国内総生産(GDP)では、前期比0.8%の成長のうち、0.5%分は外需によるものだった。

このような景気回復は、今後はありえない。これはほぼ確実に言えることだ。だから、現在の経済政策で最も重要な課題は、これへの対処だ。具体的には、輸出に依存しない経済構造をいかに築くかである。

世界経済はきわめて困難な課題に直面しているが、そのなかで最も困難な課題を抱えているのが、日本なのである。それにもかかわらず、そうした自覚を持っている人は、きわめて少ないように見える。

それを如実に示しているのが、先般その骨格が示された「総合経済対策」だ(8月末に取りまとめの予定)。漁業や農業事業者への燃料費補填、中小企業の資金繰り支援など、相も変わらぬ選挙目当ての補正予算対処のほか、定額減税、株式配当の非課税化、高速道路料金の引下げなどが議論されている。

しかし、こうした思いつきレベルの対症療法が、日本経済の抱える深刻な問題の答えになるとまじめに考えている人は、皆無だろう。

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