成長を目指すなら抜本的な年金改革を

安倍晋三内閣が経済面で早急に取り組むべき課題として、前回(10月21日号)、揮発油税収入の一般財源化を挙げた。いま1つの課題は、年金改革である。年金についてなすべきことは多いが、緊急に措置する必要があるのは、国民年金の保険料未納問題だ。

この問題の根底には、基礎年金に関する国民年金と厚生年金の財政調整の仕組みがある。一見して、これは些細で技術的なことに思われるかもしれない。しかし、これを解決しない限り、未納問題は解決しない。

その背景を説明しよう。基礎年金は、国民年金基礎年金勘定から支出される。基礎年金の給付に要する費用は、各年金制度が「基礎年金拠出金」として拠出する。問題は、各制度が負担すべき額の算出方法である。それは、サラリーマンに過大で不公平な負担を強いるかたちになっているのだ。

 常識的に考えれば、各制度の負担額は、必要総額を加入者の比率(本来保険料を支払うべき人の比率)で割り振るべきだろう。しかし、実際には、被用者年金については「保険料を支払うべき人」の数を取るが、国民年金について「実際に支払った人」の数を取ることになっている(つまり、未納者は除かれる)。

だから、国民年金の未納者が増えれば、国民年金が負担すべき額は「減る」(まったく奇妙なことだ!)。そして、そのぶんだけ被用者年金が余計に負担することになるのだ。

自動的補填をやめない限り未納問題は解決しない

もし必要総額を全制度で平等に負担することとすれば、厚生年金の保険料を1人あたり年間3.3万円だけ減らすことができる。他方で、国民年金の負担は、1人あたり年間12.9万円の増となる。

現実にはこうなっていないわけだから、きわめて不公平な制度だ。しかし、サラリーマンの保険料は給与天引きであるため、いかに不合理な制度だと思っても、保険料支払いを拒否するわけにはゆかない。「取りやすいところから取る」というのは、税についても言えることだが、保険料の場合にはあまりにひどい。本来はサラリーマンが怒り心頭に発するべきだ。

サラリーマンが怒らない1つの原因は、どれだけ余計に負担しているかがわからないことだ。基礎年金維持に必要な費用も含めてすべての支出をどんぶり勘定で計算し、それを賄えるように保険料率を定めているため、実際の保険料のうちどれだけが何のために必要とされているかが、わからない。つまり、算定基準はきわめて不透明なのだ。厚生年金の加入者は、何のための保険料かわからないままに保険料を負担しているのである。

そして、厚生労働省や社会保険庁がノンキに構えていられる理由が、以上で述べたことである。国民年金保険料の納付率がいかに低下しても、自営業などからの保険料徴収を強化する必要はまったくない。なぜなら、サラリーマンが必要な額を自動的に補填してくれるからである。彼らが重い腰を上げようとしないのは、当然のことなのだ。

安倍内閣は、社会保険庁の改革を検討している。しかし、保険料徴収機関がどこになるにせよ、「徴収できなくとも、被用者年金加入者が自動的に埋め合わせる」という現在の仕組みがある限り、徴収機関が国民年金保険料徴収に本腰を入れるとは思えない。現在の制度は、「未納率がいくら高くてもビクともしない制度」なのである。

言うまでもないことだが、年金の問題は、これだけではない。これは入り口にすぎない。改革すべき点は山積みである。

「年金一元化が必要」と言われる。その目的は、制度間の格差をなくし、財政力の差を埋めることであろう。しかし、これまで述べたように、「強い制度が弱い制度を助ける」という部分は、すでに実現している。しかも、強い制度である被用者年金は、弱い制度である国民年金を、不公平なまでに助けている。

年金に関して重要なことは、一元化ではなく、制度に対する信頼を確立することである。人口構造を考えたとき、それを実現する根本的な方法は、支給開始年齢を大幅に引き上げることしかない。それをできるだけ早く実現することが必要だ。出生率を高めて解決しようなどという安易な期待は、いい加減に捨て去るべきだ。そして、年金の基本問題を正面から見据えるべきである。

これが問題の本質である。いかに保険料徴収体制を強化したところで、年金制度に対する国民の支持が得られない限り、未納問題の完全な解消は難しい。未納率が高まった最大の要因は、年金不信だ。

現在のままの仕組みでは、勤労世代の負担は堪えられないレベルに上昇する。また、企業にとっても、大きな負担になる。現在すでに、社会保障負担は日本企業の国際競争力に大きなマイナス要因になっている。

2003年度の国民負担率は36.1%であり、その内訳は、租税負担率が20.9%、社会保障負担率が15.2%となっている。このように、社会保障負担の規模は、すでにきわめて大きい。それは、租税負担の7割を超える水準にまで増加しているのだ。

租税負担の内訳は、個人所得税6.1%、法人所得税4.2%、消費税7.0%、資産税3.6%となっている。つまり、社会保障負担は、個別の税負担をはるかに凌いでいる。社会保障負担の半分が雇用主負担であるとすると、それはすでに法人税負担の倍近い水準になっている。

しかも、法人税は利益に対してかかる税であるから、利益が少ないかマイナスであれば、負担は重くない。しかし、年金保険料は、労働者を雇用する以上、利益の有無にかかわりなくかかってくる。

法人税よりはるかに大きい企業の社会保障負担

企業は社会保険料の重い負担に耐えられないので、厚生年金が強制加入制度であるにもかかわらず、脱法行為によって脱退する企業が増えている。また、常時雇用という形態をやめて、短時間雇用に移行する、あるいは業務委託契約に移行している。ある程度以上の規模の企業であれば、企業活動を海外に移転させて、海外の労働者を雇用する。

「日本の法人税率が高いことが、日本企業の海外移転の原因だ」と言われることがある。また、「法人税負担が国際競争力を低下させる」とも言われる。こうした認識に基づいて、法人税負担の引き下げが主張される。しかし、それよりはるかに大きな問題は、年金保険料の負担なのである。

安倍内閣は、「成長」が重要であるとしている。それはそのとおりだが、経済成長を実現するのは、民間企業の役割である。それを直接に手助けするために政府のなしうることは少ない。むしろ、政府が民間企業に援助を与えれば、企業は政府に頼り、事態は悪化する。最も重要なのは、企業活動の制約条件を除去することだ。年金保険料の負担軽減は、間違いなくそうしたものである。

もっと長期を考えれば、高い保険料を嫌って日本人が日本から逃げ出すという事態も考えられる。保険料負担者が逃げ出せば、保険料収入はさらに減少する。企業が逃げ出すだけならまだよい。しかし、有能な人間が逃げ出すようになれば、事態は深刻だ。

現代は国と国とが競争する時代であることを認識する必要がある。国に求められるのは、競争力の条件整備だ。

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