消費税の議論封印は議会民主主義の否定

安倍晋三内閣は、消費税の税率引き上げを来年の参院選前には実行しないと明言している。税率引き上げを未来永劫に行なわないというのなら1つの立派な政策スタンスだが、「来年夏までは議論も行なわない」とは、きわめて奇妙なことだ。なぜなら、税の問題こそは、最大の政治課題であるはずだからだ。

欧米諸国の歴史を見ても、税に関する事項を君主の専決に任せないために議会が設けられた。また、フランス革命もアメリカ独立戦争も、税の問題が1つの大きなきっかけになって勃発している。

民主主義のそのような歴史を踏まえれば、消費税の問題をこそ参院選の争点にすべきである。それにもかかわらず、「選挙が終わったら検討を始めよう」というのでは、議会制度の意義を根本から否定することになりかねない。

「政権を維持するために、税の議論を封印する」ということであれば、本末転倒と言わざるをえない。本来であれば、この問題を争点にして衆議院を解散してもよいくらいである。

基礎年金の財源手当ては緊急の課題

誤解のないように付け加えれば、私は消費税の税率引き上げが望ましいと思っているわけではない。そう考える最大の理由は、現在の消費税の仕組みに欠陥があることだ。特に、インボイス(仕入れに含まれている消費税額を明記した書類。この書類がある場合に限って仕入れに含まれている消費税額の控除を認める)を欠いていることが、大きな問題だ。日本の消費税はヨーロッパの付加価値税をモデルにしたものだが、インボイスを欠くために「似て非なるもの」になってしまっている。

したがって、消費税率の引き上げの前に、インボイス導入についての議論を行なうことが必要だ。つまり、税率引き上げに先立って税の構造について議論するのは、十分に考えられることだ。安倍内閣がそのように方針を転換することを望みたい。

以下では、消費税以前に(あるいはそれと並行して)議論すべきテーマとして、揮発油税(ガソリン税)収入の一般財源化を挙げたい。これは、新内閣が緊急に取り組むべき政治課題である。

揮発油税は、1953年に田中角栄議員(当時)らによる議員立法としてつくられた「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」によって、道路整備財源に充てられる特定財源となった。同法は、58年に「道路整備緊急措置法」となった。この当時、日本の道路状況はきわめて劣悪であったことから、この措置が取られた。しかし、それから約半世紀が経過し、状況は大きく変わった。

現在の道路建設事業は、経済活動や国民生活のためにどうしても必要な道路を整備するというよりは、道路建設費によって建設業者の仕事を生み出し、それによって地域経済を支えるという側面のほうが強くなってしまっている。

したがって、この見直しは緊急の課題だ。特定財源の制約をはずし、揮発油税の税収を一般の歳出に使えるようにすることが最重要の課題である(このほかに、税率引き下げの問題もありうる)。

この重要性は、だいぶ前から意識されていた。小泉純一郎内閣も、この問題を検討する旨を表明していた。しかし、結局のところ、手がつけられず、問題は先送りとなっている。

現在、特に社会保障との関連において、一般財源化の重要性は高い。実際、社会保障に関しては、緊急の財源措置が求められているのである。

すなわち、2004年の通常国会において成立した年金改革関連法により、基礎年金の国庫負担率を、09年度までに現在の3分の1から2分の1へと引き上げることが決まっている。ただし、これに必要な財源を確保してから実行することになっている。

これに関する財務省の戦略は、05年~06年度に数パーセントずつ引き上げ、消費税率を引き上げて50%に上げるということだった。06年度予算では、約35.8%にまで引き上げられている。50%にするには、約2兆3000億円の財源が必要とされる。

つまり、この財源確保は、時間制約のあるきわめて緊急の課題なのである。それにもかかわらず、消費税率の引き上げに関して先のような事情があることを考えると、それに先だって揮発油税収入の一般財源化によって財源措置するのは、十分に考えられることだ。

現在、揮発油税の税収は約2兆2000億円である。これは、基礎年金の引き上げに必要と考えられている財源とほぼ見合う額だ。そして、消費税でいえば、税率を1%引き上げた税収額にほぼ匹敵する。

もちろん、現在の道路整備財源は揮発油税に依存しているので、揮発油税をすべてこの目的に使ってしまえば、道路整備財源はゼロになってしまう。そこで、どちらも一般財源の枠内で処理することとすればよい。

仮に揮発油税収入を一般財源化すれば、一般財源は2兆円増え、それで賄うべき歳出も同額だけ増える。そこで、道路建設費も基礎年金国庫負担も同一の枠内で比較検討する。

揮発油税の一般財源化は安倍改革のリトマス試験紙

これまでは、道路予算と基礎年金国庫負担が比較して検討されることはなかった。なぜなら、道路予算額は特定財源により総額が保証されていたからである。しかし、道路予算が一般財源で賄われることになれば、この比較がなされることになる。

たとえば、「道路予算を5000億円削減して、基礎年金国庫負担を5000億円増額する」といった類いの検討だ。これによって、道路予算を今までよりは圧縮することが可能になる。「一般財源化する」ということの意味は、このようなものである。そして、「歳出の見直しにより財政の合理化を図る」というのは、そのような意味である。

ここで、「消費税の社会保障目的財源化」との関連について、簡単に触れておこう。社会保障費の総額は消費税の税収より大きく、かつその伸び率は(税率一定とした場合の)消費税の税収の伸びより高い。したがって、「目的税」とすることの実質的な意味がない。これに対し揮発油税収入の伸び率は、本来必要とされる道路整備費の伸びより高いので、特定財源化することにより事業の総額が確保される結果となってしまっているのである。

小泉内閣は、道路関係の見直しを意図して、道路公団の民営化を行なった。しかし、高速道路建設計画はそのままだ。事業形態を変更することは、政治的に見てそれほど困難なことではない(民営化したほうが、事業の自由度は確保されるから、事業体の側からいっても民営化が望まれる面さえある)。しかし、財源を持っていかれてしまうことに対しては、強い反対があるだろう。

だから、揮発油税収入の一般財源化は、政治的にきわめて困難な課題である。したがって、改革を本当に実行しようと考えているのか、それとも単なるリップサービスにすぎないかを判別する、最もよいリトマス試験紙となる。

小泉内閣が目的として掲げながら結局できなかったことが、それをよく示している。実際、これは内閣の命運を賭けるほどの重大事になるだろう。しかし、もし実現できなければ、安倍内閣は本当の改革を成し遂げた内閣として歴史に名をとどめることになるだろう。

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