欠損法人の配当がもたらすゆがみ

法人税論議において、課税ベースを広げることによって法人税率を下げるべきだとの議論がある。その一環として、配当の益金不算入措置の見直しが問題になっている。私は見直しに賛成だ。

この措置は、特別措置ではなく、法人税制の本来の措置である。それが必要とされる理由として、次のような説明がなされる。

配当は、法人税を払った後の税引き後利益から支払われる。従って、それを受け取った法人において益金に含まれると、そこでも課税されることとなり、二重課税になってしまう。こうした状況を避けることが必要であり、そのために、受取配当を益金に算入しない措置が必要である。

しかし、この考えは、配当を支払う法人が法人税を負担していることを前提としている。つまり、配当を支払っているのは、税法上の利益企業だけであるとの前提が置かれているのだ。

ところが、日本の現状では、この前提は必ずしも満たされていない。課税されていない企業からの配当があり得るのだ。そうした配当を益金不算入にすれば、当該配当分については、どこでも課税されないことになってしまう。

赤字企業が配当を払うとは奇妙だが、税務上の利益と会計上の利益は同一ではないから、こうしたことはあり得る。高度成長期の日本では、大部分の企業が法人税を課税されていたので、仮にこうしたことがあったとしても、大きな問題とはならなかっただろう。しかし、現在の日本では、課税されない法人は7割を超える。従って、これが無視し得ない問題になっている。

欠損法人からの配当が2.6兆円もある

実際の数字はどうなっているだろうか。国税庁の「平成24年度会社標本調査結果」によると、欠損法人の支払った配当が、約2.6兆円もある。

これには、法人税が掛かっていない。そして、これを受け取った法人の側で益金不算入措置が取られているので、この2.6兆円に対しては、どこでも課税されない。

利益計上法人による配当の支払いは約12.6兆円あるから、支払配当総額のうち欠損法人によるものの比率は約17%もある。これは、決して無視できない大きさである。

この分を益金不算入にすることは、法人税収にどの程度の影響を与えているだろうか? それを知るには、2.6兆円のうち、どれだけが法人によって受け取られているかを知る必要がある。しかし、欠損法人からの配当の受け取り手が法人と個人でどのような比率になっているかは分からない。

配当全体について見ると、2012年における法人の受取配当は8.5兆円であるが、これは支払配当総額の56.3%に当たる。この比率が欠損法人からの配当にも当てはまるとすれば、2.6兆円のうち1.4兆円は法人が受け取り、残りは個人が受け取っていることになる。12年における法人の申告所得は40.8兆円であった。仮に1.4兆円がこれに加わるとすれば、申告所得は約3.4%増える。従って、法人税収も約3.4%増えるだろう。

ただし、実際には、欠損法人の株主は、個人でなく法人である場合が多いと思われる。仮に受け取り手が全て法人であるとすれば、12年における法人の申告所得は、40.8兆円に2.6兆円が加わり、申告所得は約6.3%増える。従って、法人税収は約6.3%増えるだろう。

このように、欠損法人からの配当が益金算入されていないことは、法人税収にも無視し得ぬ影響を与える。従って、仮に配当の益金不算入を存続させるのであれば、課税企業からの配当であることが証明されたものに対してのみ認めるべきだ。

なお、配当所得は所得税制でも特別に扱われている。ここでの前提も、法人段階で課税されているということだ。しかし、右のようにそれが満たされないことになれば、この課税も強化する必要がある。

税制のゆがみが効率化を阻害する

欠損法人からの配当を益金不算入とすることの影響は、決して無視し得ぬとはいえ、額的にはさほど大きくないともいえる。しかし、問題は以上で述べたことにとどまらないのだ。税制に不目然な箇所があれば、節税に利用されるからである。

いまの場合、赤字法人からの配当が課税されないことを利用して節税ができる。赤字法人に経済的な恩恵を与えて自らの課税所得を圧縮し、その見返りとして配当を得れば、法人税を節税することができるのだ。

このことを、以下の仮想数値例で示そう。いま、親会社と子会社があり、これらの間には出資関係と取引関係があるものとしよう(ただし、連結納税はしていないものとする)。子会社は、収益の上がらない事業に従事しているものとする。すなわち、10の価値がある原材料を用い、15の賃金を支払って、価値が20である生産物を生産している(単位は何でもよい。例えば億円であるとしてもよい)。従って、損失が5(=20-10-15)だけ発生する。他方、親会社は、収益性の高い事業に従事しており、原材料を20で子会社から購入し、15の賃金を支払って、50の価値がある生産物を生産する。従って、利益は、15(=50-20-15)だ。

ここで、親会社は、子会社からの購入額を22に引き上げる。そして、見返りに2だけの配当増加を求めるとしよう。

子会社が関心を持っているのは、内部留保と役員報酬に充て得る額だろう。従って、売り上げが2増えて損失が2減ることと引き換えに、配当を2増やすことを受け入れるだろう。

他方で、親会社の課税所得は、受取配当は益金に算入されないことを考慮すれば、購入額を2だけ引き上げた結果、2だけ減って13になる。従って、法人税を節税できる。

もちろん、このような取引を自由にできるわけではない。売買価格を市場価格から著しく乖離した価格に設定すれば、税務署に否認される可能性がある。しかし、取引対象が特殊な部品などであれば、公正な市場価格がいくらであるかを客観的に確定するのは難しい。従って、右のような操作は可能なはずである。

会社標本調査によれば、受取配当の益金不算入額は、資本金1億円未満の法人では3769億円だが、1億円以上では3兆6108億円になる。これは、大企業が中小企業を支配する構造を示唆している。従って、右のことが現実にも行われている可能性が高い。

実は、さらに問題がある。この例の子会社は、本来は淘汰されるべき存在だ。なぜなら、利益を上げることができないからである。存続するためには、例えばより少額の賃金で同一の生産物が生産できるように、事業を効率化する必要がある。しかし、この例で示したように節税に利用できるために、生き延びてしまうのである。

つまり、税制のゆがみのために、赤字であることが経済的に意味を持つことになってしまうわけだ。赤字であることは事業の効率が悪いことを意味するのだから、本来であれば、それを矯正するためのメカニズムが働かなければならない。しかし、それが働かないのである。

法人税の問題が議論される際、税収についての議論はなされるが、経済の効率性に関するこのような議論が行われることはあまりない。しかし、本来はそうしたことが論じられなければならないのである。

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