重要なのは基本構造ビットコイン改善提案

ゴールドマン・サックスは、3月11日に発表したビットコインに関する報告書の中で、「ビットコインは通貨ではない。その信奉者は頭を冷やして出直すべきだ」と述べた。この報告が問題視しているのは、ビットコインの価格変動が激しく、価値保存手段として適切でないことだ。

ノーベル経済学賞受賞者のロバート・シラーも、ビットコインの価格変動を問題にしている。今年1月のダボス会議で、ビットコインは典型的なバブルであると論じた。3月1日の「二ユーヨーク・タイムズ」への寄稿で、バブルだとの認識を繰り返し述べ、代替案を示した。それは、商品価値にリンクしたデジタルマネーだ。


最近1年間のビットコインの価格変動が極めて大きく、価値保存手段として危険であることは、誰もが認める。以上で紹介した否定論は、「ビットコインの市場価値は適切か?」という観点からなされている。

こうした観点は、ビットコインを「幻影」としたウォーレン・バフェットに典型的に見られる。彼は、「投資してもうかるか?」という観点からビットコインを見ているのである。

しかし、「投資対象として危険だ」ということは、ビットコインの本質的な欠陥ではない。ビットコインの本質は、管理主体のない送金を可能としたことだ。マーク・アンドリーセンがバフェットを「技術の分からない人」と批判したのは、このためだ。

ゴールドマン・サックスのレポートもシラーも、ブロックチェーン(ビットコインの取引記録)を用いる仕組みが将来性のあるものであることは認めている。また、送金コストが低いために、従来の支払い手段が対応を迫られることも認めている。

モルガン・スタンレーは組織としてのレポートは出していないが、トップは否定的な見解を述べている。しかし、同社の専門家は、ビットコインとマイクロファイナンスに関するシンポジウムを開いた。

誰もがブロックチェーンのアイディアの革新性と発展可能性は、否定できないのである。

銀行の積極的関与を提案するUBSレポート

このような見方をもっと積極的に述べているのが、3月28日に公表されたUBSのレポートだ(同行は、スイスに本拠を置く世界有数の規模の銀行)。それは、「現在のビットコインにはさまざまの問題があるから、銀行を脅かすものにはならない。しかし、銀行はその技術を利用することができる」というものだ。

同報告は、次のように言う。ブロックチェーンを用いる方式は新しい支払い手段としての潜在力を持ち、特に国際送金の分野で、安くて安全で速い送金を可能とする。従って、世界的な支払いシステムを大きく変える。また、クレジットカードと電信送金サービスの手数料に影響がある。ただし、商店にとってのコストをどの程度減らせるかは、疑問だ。

同報告はさらに、ビットコイン独自の新しい送金システムを作るよりは、既存の銀行がビットコインの技術革新を取り入れる方が良いとする。そして、具体的な仕組みを提案している。

それは、全世界の銀行が、ビットコインのブロックチェーンに似た取引記録を維持することとし、これを利用するというものだ。ここでの取引は、ビットコインでなく、現実の通貨単位を用いる。

預金や貸し出しなどの銀行のサービスは、これまで通り。預金者は自分の秘密鍵を持つ。場合によっては、それを銀行に預ける。

送金システムの管理者どして銀行が入ることによって、ビットコインが目指している「管理者なしの送金システム」という性格は、だいぶ薄れる。しかし、個人が秘密鍵を完全に保存するのは難しいので、信頼できる主体が扱うことのメリットも大きい。

また、このシステムでは、公開鍵保有者が誰かを完全に特定できているので、脱税や非合法的利用を防ぐことができる。

ETF(上場投資信託)のような投資サービスにも使える。また、規制上の制約がなければ、ビットコインのデリバティブを扱うこともできる。これによってビットコインの価格変動を減らすことができるし、銀行には手数料収入が入る。

供給スケジュール設計は経済学者の仕事

経済学者は、ビットコインの供給が一定のスケジュールに従って機械的に行われており、最終的には一定の値になることを批判している。ポール・クルーグマンの批判も、そうした観点からのものだ。シラーの反対を含めて、経済学者の反対は、ほぼ供給スケジュールの問題に集中している。

アンドリーセンなどのコンピュータ・サイェンテイストは、ブロックチェーンのプルーフオブワークに関心があるので、供給スケジュールはあまり重視していない「¬プルーフオブワーク」とは、記録改ざん防止のために課す計算作業。詳しくは、「ダイヤモンド・オンライン」連載の解説記事を参照)。だが、この問題は、真剣な検討が必要なものだ。これは経済学者が担当すべき分野である。

マネーの供給スケジュールは、昔から経済学者が議論してきたものだ。これは、金融政策や財政政策をどう運営すべきかという問題の中核にあるものだ。

一方の極には、金本位制が最も望ましいという意見がある。ビットコインの現在の仕組みは、これに近い。シラーがビットコインを「中世への逆戻り」と批判したのは、このためだろう。他方の極には、経済情勢に合わせて、裁量的な調整を行うべきだとの意見がある。多くの経済学者の意見は、これだ。

ミルトン・フリードマンの「kパーセントールール」は、その中間と考えることができる。中央銀行による管理通貨制度を認めるが、裁量的な政策は認めず、貨幣供給を一定のルールによって縛ろうというものだ。

シラーが提案するのも、これに近い。また、1920年代にトーマス・エジソンが提案した方式(農民が政府の倉庫に持ち込む農産物にリンクして通貨を発行する)にも近い。これをコンピュータで運営するのだから、ビットコインの思想と同じだと言ってもよい。

ただし、ここで注意すべきことは、ブロックチェーンを用いる仕組みとして、ビットコインは唯一のものではないことだ。すでに類似物が200近く登場している。従って、ビットコインの供給量が一定限度に抑えられているといっても、全体のコインの供給量が一定になるわけではない。また、インターネット上の通貨が直ちに従来の貨幣をすべて代替してしまうわけでもない。

多数のコインが出てきたときに、均衡がどうなるか。政府は介入すべきか。するなら、どのようにすべきか。これらは、経済学のテーマとして極めて興味深いものである。そうしたテーマについて、これから大量の論文が出てくるだろう。

重要なのは、ブロックチェーンを用いる送金方法に大きな将来性があることを認識し、運営主体や供給スケジュールについて現在の仕組みを改善することである。日本の多くの論者が言うように、「こんなものは、放っておけばすぐ駄目になってしまう」として無視すれば良いというものではないのだ。通貨の世界にまったく新しい技術が登場し、従来の仕組みが基本的な見直しを迫られていることは、間違いない事実なのである。

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