ビットコインが持つ経済価値はどの程度か

昨年12月に、バンク・オブ・アメリカ=メリルリンチは、ビットコインに関するレポート(以下、「BAレポート」)を公表した。大手金融機関による最初のレポートであり、しかも、ビットコインの経済価値についての定量的な分析なので、興味深い。

ビットコインをめぐる日本での議論は、「怪しげなもの」「そもそもこのようなものが機能するのか?」という段階にとどまっている。しかし、アメリカ金融業界での議論は、すでに、役割の大きさに関する定量的な検討にまで至っているのだ。こうしたレポートが出されるのは、金融機関がビットコインの存在を無視し得なくなったことの反映と考えることができるだろう。

BAレポートは、ビットコインがeコマースで約1割の比重の決済手段になり、また送金産業において主要な役割を果たすようになるだろうとしている。そして、1BTC=1300ドル程度が「フェアバリュー」(適切な価格)であろうとしている(BTCはビットコインの単位。最近時点での価格は600ドル程度)。

この分析の主要な関心は、ビットコインの価値の評価であるが、これは中国人民銀行が金融機関の関与を禁止する前に出た報告だ。したがって、いま見直せば、価値保存機能についての評価は変わるかもしれない。しかし、この分析では送金手段としての価値を主として評価しており、その部分についての考え方は、現時点においても有効だ。

以下に述べるように、具体的な数字は、かなり大胆な仮定に基づいて導かれており、仮定を変えれば結論は大きく変わる。また、どの時点を考えるかでも結論は異なる。ただ、考え方の筋道を見ることは重要だ。

eコマース決済と国際送金が主要な役割

BAレポートは、次の三つの分野について分析を行っている。eコマースにおける決済、国際送金、そして価値保存だ。

第1のeコマースについては、50億ドルのビットコインが必要と推計する。その根拠は次の通りだ。

2012年のアメリカのB2C(個人向け)eコマース売上高は2240億ドルであった。これにどれだけの現金が必要か? 12年の個人消費総額は11兆ドルであり、世帯の預金および現金の合計は0.7兆ドルであった。後者を前者で割った値は、0.07だ(BAレポートは、これを「貨幣の流通速度」と言っているが、この値は流通速度の逆数であり、「マーシャルのk」と呼ばれる)。過去10年間の平均値は、0.04だ。つまり、1ドルの年間個人消費のために4セントのマネーを保有していることになる。

eコマースでの流通速度が通常取引と同じだとすると、100億ドルのマネーが必要になる。このうち10%がビットコインになれば、10億ドル相当のビットコインが必要だ。世界経済におけるアメリカ経済のシェアが約2割であることを考慮すれば、全世界での必要額は50億ドルと推計される。

第2は、国際送金におけるビットコイン価値だ。現在、国際送金業務を行っている企業としては、ウエスタンユニオン、マネーグラム、ユーロネットが大手で、20%のシェアを占めている。これら3社の時価総額の平均は45億ドルだ。ビットコインがこれら3社の平均と同程度の役割を果たすようになると考えれば、その価値は45億ドル程度になると考えられる。

第3は、価値保存手段としての価値だ。ビットコインが、銀と同様の評価を得られるとすると、その市場価値は、50億ドルに達する可能性がある。

これらを合わせると、約150億ドルになる。発行総額と比較すると、1BTCの市場価格は1300ドル程度と評価される(昨年12月初めの価格は1200ドルを超えた。その後、中国が金融機関の関与を禁止したため、12月中旬には600ドル程度に暴落した)。

以上の推計に関しては、いくつかの技術的な点を指摘し得る。

第1に、eコマースのための必要額について。ここで用いられている値を流通速度に換算すれば25程度になるが、この値は高過ぎるのではないだろうか? 流通速度は、分子と分母にどのような変数を持ってくるかで、値はかなり変わる。日本の場合、経済全体の貨幣残高としてM2、売上高として法人企業の総売上高を取ると、最近時点での流通速度は1.6程度である。仮に流通速度が2であるとすれば、必要額は上記推計の約10倍となり、500億ドル程度となる。

また、eコマースの10%がビットコインで決済されるとしているが、この仮定に格別の根拠はない。別の値を相沢疋すれば、結果は大きく変わる。

第2に、国際送金業務の価値について。「ビットコインの価値が3社の時価総額の平均になる」というのも、確たる根拠はない。ウエスタンユニオンの時価総額は90億ドルだから、それと同じになるとすれば90億ドルになる。また、現在の国際送金業者の扱いをすべて代替してしまえば、ビットコインの価値はずっと大きくなる。

銀行業務が代替されると影響は大きい

以上のように、仮定を変えれば、結果は10倍にも20倍にもなる。そして、仮定について誰もが認める値を設定するのは、現状では困難だ。したがって、現段階では、ビットコインの「フェアバリュー」を定量的に評価するのは無理と考えられる。それより重要なのは、「どの程度まで既存の支払い手段を代替し得るか」に関する大まかなイメージであろう。

BAレポートのイメージは、「eコマース決済の1割がビットコインで行われ、また国際送金においてウエスタンユニオンの半分くらいの役割を担う」というものだ。

しかし、このイメージは、保守的ではないだろうか? とりわけ、ビットコインの利用主体として個人しか考えていないこと、銀行が現在果たしている決済業務をビットコインが代替する可能性を考慮していないことの点で、かなり控えめと考えられる。

このことは、特に国際送金に関して言える。ウエスタンユニオンなどの送金業者は、銀行外の送金主体であり、利用者は主として個人である。しかし、前回述べたように、企業による輸出入業務で、はるかに巨額の国際送金がなされている。そして、この分野は、銀行がほぼ独占している。

それがビットコインに代替されれば、その影響は極めて大きい。12年におけるウエスタンユニオンの収入は57億ドルである。これは、前回推計した貿易に関わる国際送金の収入30兆円の2%程度でしかない。つまり、貿易関連送金業務をビットコインがすべて担うとすればBAレポートの100倍程度のコインが必要になるわけだ。

BAレポートの結論は、「価格はファンダメンタルズに比べて割高」というものだ。しかし、「現実の価格は、控えめな価値の推計より低い」とも言える(ただし、電子コインはビットコインだけでないことにも注意が必要である。さまざまなコインで役割を分け合えば、個々のコインの価格は安くなる)。

日本株は、13年に約6割上昇したが、それは円安によるのであり、生産性の向上やビジネスモデルの改善によるものではなかった。それに対して、ビットコインは、コンピュータ技術の新しいイノベーションに裏づけられている。どちらの価格がファンダメンタルズに近いと言えるだろうか?

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