財政ファイナンスを仮想通貨が阻止する

異次元金融緩和政策が導入されてからほぼ1年がたった。

この間に、マネタリーベースは著しく増えた。しかし、マネーストックはほとんど増えなかった。

長期的な傾向からすると伸び率は若干高まっているが、それは、消費税増税前の住宅駆け込み需要によって住宅ローンが増えたためであって、マネタリーベースが増加した結果ではない。消費税が増税されれば、反動で減少するだろう。

物価上昇率は高まったが、それは主として円安のためだ。そして、円安は金融緩和によって生じたのではなく、国際的な投機資金の流れが変化したために生じたものだ。

実質GDP成長率は、安倍内閣の成立直後の2013年1~3月期が最も高く、その後は次第に低下している。これは、物価上昇率が高まったために、実質消費の伸び率が低下しているからだ。物価が上昇する半面で賃金は上がらないので、人々の生活は貧しくなっている。

このように、異次元金融緩和政策は空回りを続けている。追加緩和措置が必要との意見が多いのだが、追加とは国債購入量を増やすことだ。それをやっても、過去1年間と同じことが繰叭返されるだけである。

政府と日本銀行は、「物価上昇率引き上げ」という誤つた目標を立て、国債購入を激増させた。しかし、結局のところ、実体経済には何の影響も与えられなかったのである。

現在の日本経済で金融緩和が経済拡大効果を持ち得ないのは、あらかじめ予想されたことである。

企業が巨額の内部留保を待ち、しかも設備投資意欲がないため、借り入れ需要は弱い。しかも、日銀当座預金残高位過剰準備状態にあり、貸し出し増の制約にはなっていない。こうした状況下で国債を購入して当座預金を増やしたところで、貸し出しが増えるはずはない。だから、マネーストックが従来の趨勢から離れて増えるはずはないのである。

国債貨幣化によって長期金利を抑えた

では、何のために金融緩和政策が行われるのであろうか?

その真の目的は、「財政ファイナンス」、つまり、「国債の貨幣化」だと考えられる。それによって金利の高騰を抑え、財政の資金調達を円滑にするのだ。日銀による国債の購入そのものが重要なのであって、教科書的な意味での金融緩和効果(マネーストックの増加を通じる経済拡大)は、初めから政策当局者の頭にはないと思われる。

財政ファイナンスは以前から行われてきたが、異次元金融緩和政策によって、日銀の国債購入額は飛躍的に増加した。

このため、巨額の公共投資増加を行ったにもかかわらず、また、12年秋以降ユーロ圏からの資金流入が止まったにもかかわらず、国債利回りは高騰しなかった。

日本の財政事情を考えると、本来はいまのような低い金利で財政が資金調達できるはずはない。これは、明らかに「国債バブル」だ。

長期的に見ると、社会保障費はさらに増大する。したがって、社会保障制度を大改革するか、大増税を行わないと、日本の財政は破綻する。だから、本来なら、金利が高騰(国債価格が暴落)して、支出削減や増税をせざるを得ない状況に追い込まれているはずなのである。

しかし、現実には、国債金利が高騰しない。つまり、危険信号が働かない。だから、財政改革が進まない。

この状態は、次の二つの意味で異常である。

第1は、物価上昇率が名目金利を上回り、その結果、実質金利がマイナスになっていることだ。この状況下では、借り入れをして財を購入し、一定期間保有して売却すれば、借り入れの金利を払ってもなお利益が生じる。したがって、裁定取引によって金利が上昇して、解消されるはずのものである(その結果実現するのが、「フィッシャー方程式」に表されている関係だ)。こうした状態は異常なものであり、長続きはしない。

第2は、負担なしの支出増が継続していることだ。社会保障費が増大すれば、受給者の消費支出が増える。したがって、経済全体で見れば、誰かの支出が減らなければならないはずだ。保険料負担が増えるのなら負担者の消費が、増税がなされるなら納税者の消費が、金利が上がるなら投資支出が、それぞれ減らされるはずだ。

しかし、そのどれも起こらない。誰の負担も増えず、増発された国債は日銀に購入されるので、金利も上昇しない。だから、他の支出は何も削減されないで社会保障給付が増大する。こんなうまい話が、いつまでも続くだろうか?

もちろん、永続できるはずはない。経済の供給能力に余裕がある間は持つが、いずれ限界に突き当たって、誰かの負担が明示的な形で増えざるを得なくなる。

ただし、ここまで赤字が膨張してしまうと、増税や歳出削減で対処するのは不可能だ。政治的に最も容易なのは、インフレによって国債残高の実質価値を減らすことである。これが、歴史が示すどころだ。終戦直後の日本財政も、巨額の赤字の実質価値をインフレで減らした。

ビットコインがあるとゆがんだ状態は実現できない

以上で述べた二つのこと(国債バブルと、負担なしの財政拡張)は、正常な経済ではあり得ないゆがんだ状態である。日銀による強引な大量国債購入によって、初めて実現しているものだ。

しかし、こうしたことは、ビットコインが普及した経済では生じ得ない。その理由は、次の二つだ。

第1に、ビットコインの「発行」は、マイニングによって行われるのであって、日銀券のように、国債を購入することによって行われるのではない。日銀は、自らの債務である日銀券を印刷することで国債を購入でき、しかも、その規模を恣意的に決められる。だから財政ファイナンスができるのである(なお、実際には、日銀の国債購入の大部分は、日銀当座預金という負債を増やすことによって行われている。日銀券も日銀当座預金もマネタリーベースなので、経済的な意味は同じである)。

ミルトン・フリードマンはかつて「kパーセント・ルール」という考えを提唱した。これは、中央銀行の裁量的な政策を排除しようとするものだ。ただし、ここで問題にされたのは、マネーストックの伸びだ。財政ファイナンス阻止の立場からすると、マネタリーベIスの恣意的な拡張を阻止する必要がある。

第2の理由は、インフレが予想されると、ビットコインが資産逃避手段として用いられることだ。13年におけるキプロスと中国の経験が示したのは、為替管理を強化しても、資金がビットコインに逃げられてしまうということである。

このように、ビットコインが広ぐ使われるようになった経済では、国や中央銀行が勝手な経済政策をしようとしても、それに強い制約がかかるのである。

そもそも、中央銀行の役割は、信用秩序を維持し、預金通貨を守ることである。恣意的な金融政策を行うことではない。ましてや、国債を貨幣化して財政放漫化を放置することではない。

これを担保するため法律で日銀の独立性が保障され、また日銀引き受けによる国債発行が禁じられている。しかし現実には、それらが空文化してしまったのだ。

ビットコインは、経済政策や金融政策の本質を、原点に立ち返って見つめ直すことを迫っている。

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