ビットコインは地球通貨の夢を見るか?

ビットコインを用いれば、地球上どこへでも、ほぼゼロのコストで送金できる。このことの意味は極めて大きい。これによってどのような変化が生じるだろうか? 三つの段階に分けて考えてみよう。

第1段階は、貿易決済通貨としての利用である。現在の貿易決済では、信用状決済の場合はその手数料が、銀行送金の場合には送金手数料などがかかる。ビットコインを用いれば、この部分のコストはほぼゼロになる。現実のコストで大きな比重を占めるのは、為替スプレッド(買値と売値の差)だ。ビットコインを使えば外貨に交換する必要はないので、この部分もゼロになる。

ただし、現状では、ビットコインと現実通貨(ドルや円など)との交換比率の変動が大きく、また(ツカー攻撃などの危険もある。このため、ビットコイン形態での保有時間をできるだけ短くするほうがよい。そうするには、現実通貨との両替にコストがかかる。

したがって、総コストがどうなるかは、一概には言えない。しかし、ビットコインの場合のほうがかなり安くなることは、間違いない。現在の海外送金は銀行がほぼ独占しているため、割高になっている可能性が高いからだ。両替所が多数設立されれば、それらの間で競争が起こり、手数料はさらに下がるだろう。

こうして、ビットコイン決済を採用した貿易業者は、競争上有利な立場に立つ。そのため、他の業者も導入せざるを得なくなる。導入しなければ、競争に敗れて退出を余儀なくされるからだ。また、輸出業者から見ると、瞬時に輸出代金を回収できるメリットも大きい。

利用者が広がれば、関連サービスも多数誕生するだろう。相手が個人ではなく多額の資金を動かす企業なので、こうしたサービスはビジネスとして成立するはずだ。貿易向けに特化した両替サービスも登場するかもしれない。そして、手数料体系で巨額の送金を有利に扱うコインも登場するだろう。また、現実通貨との交換比率変動をヘッジするための先物取引もつくられるだろう。

これまで、ビットコインの個人利用が注目されてきた。確かにそれらは重要だ。しかし、個人はコストにそれほど敏感ではない。安いとわかっていても、惰性で従来の方法を変えないことが多い。それに対して企業は、コストの差に敏感だ。明白な利益の機会があり、競争圧力が十分強ければ、必ず採用する。

もちろん、これは、銀行にとっては深刻な事態である。外国為替業務が侵食されることになるからだ。2012年の全世界貿易量は約1500兆円だ。仮に為替スプレッドを含めた銀行の手数料がこの2%であるとすると、30兆円になる。この1割がビットコインに移行するだけで、銀行の収入は3兆円失われる。銀行の経営基盤は大きく揺らぐだろう。

1990年代以降、インターネットによって地球規模での通信コストがゼロになったことの影響は、極めて大きかった。コールセンターやバックオフィス業務をインドに移すなどの大きな変化が起きた。日本は、日本語の壁のために、そうした新しいグローバリゼーションから取り残された。しかし、送金の場合には言葉の壁はない。だから、日本にも大きな影響が及ぶ可能性がある。

移行期は混乱期だがチヤレンジング

第2段階は、資本取引を含む国際決済通貨としての利用だ。国際間には、貿易決済以外に、巨額の投資資金の流れがある。これも原理的にはビットコインに代替し得る。というより、すでにそうしたことが起こった。12年には、キプロスや中国から巨額の資金がビットコインに流れ込み、それがビットコインの交換価値を大きく上昇させた。

ただし、問題は、国際的な資本取引の大部分は、金融機関を通じて行われていることだ。金融機関の業務は厳しい制約を受けており、直接にビットコインを扱うことができない。少なくとも日本の場合には扱えない。今後もたぶんそうだろう。また、ビットコイン建て債券や株式の登場も、すぐには考えにくい。

したがって、国際的な資金の流れのかなりは、少なくとも当分は、現在のような方法で行われるだろう。だから、短期間のうちに地球通貨が誕生することにはならない。

しかし、ヘッジファンドなど規制を受けていない機関がビットコインを扱うことは、十分考えられる。そして、さまざまな金融イノベーションが起こる可能性もある。例えば、ビットコインを原資産としてデリバティブをつくることは、可能だ。年金基金などがこれをポートフォリオに組み込むこともあり得る。ビットコインの貸借も考えられる。

さらに、ビットコイン以外にさまざまなコインが登場し、それらの間で競争が起きるだろう。また、通貨間の両替や関連サービスが成長するだろう。

政府が関与する可能性もある。カナダ政府はMintChipという新しい通貨の開発に乗り出した。伝えられるところでは従来の電子マネーの延長にすぎないが、ビットコインと同じ分散型通貨になる可能性もある。

こうして、この段階は、かなり複雑で混乱したものになるだろう。しかし、同時に金融技術にとって非常にチャレンジングな時代ともなるだろう。

地球通貨の出現は原理的にはあり得る

第3段階は、国内でも支払い手段としてビットコインが広く使われ、円やドルが駆逐された世界である。こうした世界はあり得るか? 現在使われている貨幣のうち日本銀行券や硬貨がビットコインに代替されることは、十分考えられる。なぜなら、送金コスト、安全性、使いやすさ等々の点で、ビットコインのほうが優れているからである(ただし、現在では発足後日が浅いため、周辺サービスが十分に発達しておらず、これらの潜在的利点は完全には顕在化していない)。

問題は、預金通貨である。ビットコインの貸借は可能だし、それを業とするビジネスも登場するだろう(これは、ビットコインシステムの外で起こる現象であることに注意が必要だ)。ただし、それは準備率100%での貸し出しである。

問題は、部分準備制があり得るかどうかだ。つまり信用創造があり得るかどうかである。これについての答えは、たぶん「NO」だろう。常識的な見解によれば、取りつけによるシステム破綻を回避するには、「最後の貸し手」たる中央銀行が必要とされる。したがって、分散通貨システムでの信用創造は考えられない。

しかし、この点は金融イノベーションで解決できるかもしれない。また、そもそも信用創造が必要かという問題もある。多数のコインが登場すれば、経済全体の貨幣供給量は調整できるかもしれない。この問題については、いまは確たることが言えない。

そうではあっても、銀行の決済業務の大半が消滅し、ビットコインの周辺に生まれるサービスに移行した世界は考え得るものだ。

また、国際決済の大半がビットコインに代替されれば、為替レートは意味がなくなる。日本でもアメリカでも同じ車はビットコイン建てで同じ値段だ。だから、円安で利益が急増するようなことは起こらない。過去10年、日本経済は為替レートの変動に振り回されてきた。こうした世界は過去のものとなる。

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