ビットコインに関する深刻な誤報と誤解

「私が死亡したとの報道は、誇張された誤報だ」

これは、マーク・トウェインの有名な言葉である(原文は、The report of my death was anexaggeration.少し意訳してある)。死にかかっていたのは、彼ではなく、彼のいとこだった。

2月26日、ビットコインの私設両替所であるマウント・ゴックスが取引を停止した。多くのマスメディアは、これを、ビットコインの取引そのものが停止されたかのように報じた。

人々は、ビットコインが崩壊したと誤解したことだろう。「似非電子マネー円天と同じだ」と誤解した人もいる。報道によれば、麻生太郎財務大臣は、「いつかは崩壊すると思っていた。あんなものが長続きするはずはないと思っていた」と語った。

しかし、崩壊したのは、ビットコインと通貨を交換する両替所の一つにすぎず、ビットコインそのものではなかった。これは、マーク・トウェインといとこの場合よりひどい取り違えだ。麻生大臣の言う「あんなもの」が、ビットコインなのかマウント・ゴックスなのかは明らかでないが、文脈からすれば前者だ。つまり、「ひどい取り違え」である。日本のマスメディアは、ビットコインそのものと、その外にある両替所を混同させるよすな誤解を広げたのである。

たとえて言えば、次のようなことだ。アメリカ旅行から帰ってきて、ドルの使い残しがあった。成田空港の両替所で円にしようとしたら、事故で閉鎖されていた。このことをもって、「ドルは崩壊した」と言うようなものである。

P2Pによるブロックチェーン更新作業は、なんら支障なく続いている。したがって、ビットコインの取引そのものは、もちろん継続している。「ブロックチェーン」というサイトを見ると、全世界のビットコイン取引が円滑に継続している様を、リアルタイムで見ることができる。

ドルとの交換価値は、2月23日ごろまでIBTC(ビットコイン)=600ドル程度だったが、一時400ドル近くまで下落した。しかし、26日には600ドル近くまで戻っている。「マウント・ゴックス事故による影響はほとんどなかった」と言ってよい。

事故の詳細はまだ明らかでないが、(ツカー攻撃に遭って、サイト内にあったビットコインが盗まれたようである。そうであれば、これから明らかになったのは、次の二つだ。

第1は、同サイトが(ツカー攻撃に十分な備えをしていなかったことだ。「ウォールストリート・ジャーナル」は、「マウント・ゴックスがまだ成熟し切れていない、あるいはデジタル通貨の成長に追いつけていなかったことを示唆している」とした。これが、今回の事故に対する最も適切な評価である。

第2は、ハッカーがビットコインの価値を認めていたことである。誰も、価値がないものを盗もうとはしない。ハッカーは、マウント・ゴックスを攻撃し、それを破壊した。一両替所を破壊してもビットコインの価値はなんら損なわれないと知っていたからこそ、攻撃したのである。

正確な情報が利用者を守る

マウント・ゴックスの閉鎖で、顧客が預けていたビットコインを引き出せなくなった。千万円単位の被害に遭った人もいたようだ。これらの方々には、まことにお気の毒なことだった。

しかし、私は、これだけの額をビットコインで保有していたことが信じられない。ビットコインは、支払いの手段として用いるものだ。ドルや円を両替してビットコインを得たら、ただちに支払いに使ってしまうべきだ。なぜビットコインの形で保有していたのか?

投機目的としか考えられない。しかし、ビットコインは発足後まもない通貨で発行総額が少ないので、ドルなどとの交換価値は安定していない。

12月初めに1000ドルを超えたのが、18日には500ドル程度になった。これは、中国が金融機関によるビットコインと人民元の交換を禁じたからだ。日本人であれアメリカ人であれ、マウント・ゴックスという一両替所が閉鎖されたところで、他の両替所を使えば問題は生じない。しかし、中国の人々は、人民元とビットコインの交換が事実上できなくなったのだ。これは、マウント・ゴックス閉鎖などとは比べものにならない影響を与えたのだ。

顧客被害の問題に戻れば、数千万円相当のコインを同社に預けていたのは、さらに信じられないことだ。なぜなら、同社は、信頼性について従来から疑惑が持たれていたからである。「ウォールストリート・ジャーナル」は、「(同社は、これまでも)たびたび不正侵入や不具合、機能停止に見舞われた≒マウント・ゴックスの事業は1カ月間から崩壊し始めていた」としている。

ビットコイン報道に関して、マスメディアが果たすべき責任は、二つある。

第1は、現在のビットコインは、資産保有手段として用いるにはあまりにリスクが大きいことを、人々に教育することである。そして同時に、ビットコインは、送金手段としては優れた特性を持っていること、それによってマイクロペイメントや海外への送金が飛躍的に容易になること、それは新しい経済活動を可能にし、新しい社会を拓くことを人々に教育することである。

マスメディアの第2の責任は、両替所のようにビットコインシステムの外にある関連諸組織について、問題があれば警告を発することである。正確な報道こそが利用者を守るのだ。

問題が起これば「おカミに取り締まってもらおう。規制と監視を強化しよう」というのが、日本人に染みついた思考法である。ビットコインについてもそうした意見が一般的だ。しかし、インターネット通貨は、そもそも「いかにすれば取り締まれるのか?」という技術的な問題を含んでいる。情報の提供は、「おカミの取り締まり」以上に、消費者・利用者を守るのである。

ビットコインの匿名性をいかに放棄できるか

私は、ビットコインに問題がないと言っているのではない。ビットコインのシステムは極めて強固だが、それ故に社会機構との間で問題を起こす。

問題の多くは、匿名性から生じる。匿名性故に、税務上や公安上の問題が発生するのだ。しかし、合法的な経済活動において、匿名性を守る必要はない。だから、匿名性を放棄するのは、十分考えられることだ。

現在のビットコインでは、取引は追跡できるし、公表されている。しかし、取引主体は公開鍵の形でしかわからず、現実の個人や組織に結びつけられていない。それらを関連づければ、匿名性は消えることになる。ただし、問題は、その関連づけをどのような方法で行うかである。これは、極めて難しい問題だ(次回に詳しく述べる)。

ビットコインの運営システムに何の問題が生じなくとも、受け入れ店舗がなくなれば、価値はなくなる。そうした事態は生じ得る。ただし、それは、両替所の破綻によって生じるのではなく、より優れた他の電子コインとの競争にビットコインが敗れることによって生じる。

なお、この文章で表われた「P2P」「ブロックチェーン」「公開鍵」などについては、『ダイヤモンドーオンライン』連載『通貨革命か、それとも虚構か?『ビットコイン』を正しく理解する」を参照されたい。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments