ビットコインは理想通貨か徒花か?

ビツトコインとは、インターネット上で用い得る仮想通貨である。誰でも簡単に利用することができる。ウェブにいくつかの両替所があるので、そこで入手する。ビットコインを受け入れる店舗(大部分はネットショップ)で買い物をして、対価をビットコインで支払う。全世界での現在の残高は、約1兆円。利用者も店舗もアメリカに多い。

この数力月、ニュースに頻繁に登場した。ただし、ネガティブなものが多かった。ビットコインを受け入れる薬物販売サイトの運営者逮捕、中国が使用を禁止、交換価値が乱高下、等々。

こうしたニュースは、「いかがわしいもの。危険なもの」との印象を与える。「得体の知れない贋金もどきがばらまかれ、誰かが利益を得ているのでは?」と疑っている人も多いだろう。

しかし、これは、極めて重要な発明なのである。決済制度や通貨制度、ひいては国家の存立基盤にまで重大な影響を与え得る。送金コストが極めて低いため、これまで不可能だった経済活動が可能となる。同時に、犯罪者やテロ集団に用いられ、国家が統御できなくなる可能性もある。

ただし、2009年に登場したばかりのまったく新しい通貨であり、しかも、「公開鍵による非対称セキュア認証」とか、「ハッシュ関数」などといった専門概念が登場するので、なかなか正確には理解できない。

ビットコインの詳細は、『ダイヤモンド・オンライン』での新連載『通貨革命か、それとも虚構か?『ビツトコイン』を正しく理解する」で説明する。以下では、仕組みの概要と、それがもたらし得る影響について述べる。

ビットコインの中心は「正しい」取引記録

これまでの通貨は中央銀行や国が発行・管理してきたし、電子マネーは特定の企業が発行・管理する。しかし、ビットコインには、発行者も管理者も一切存在しない。

では、どのように維持しているのか? その中心は、「ブロックチェーン」と呼ばれる取引の記録だ。「ブロック」とは一定期間の取引記録のこと。それが時系列的につながっているので「チェーン」と呼ばれる。記載されているデータは、どこかのサーバーが一元的に管理しているのではない。公開されていて、多数のコンピュータで形成するネットワークが、全体として維持している。つまり、ビットコインを支えているのは、「人々」だ(こうした仕組みを、P to Pという)。

ブロックチェーンには、ビットコインの過去の取引すべてが記帳されている。しかもそれは、偽造貨幣や二重取引を排除した「正しい」取引の記録であり、改竄を事実上できない。これをいかに実現するかが、ビットコインの中核的なアイディアだ。

それは、「ある種の演算は、極めて大量の計算を要求する」という数学的事実に基礎を置いた、極めて巧妙な方法だ。人類が「貨幣」を使用してきた歴史は長いが、その長い歴史で初めての革命的なアイディアである。ここでは、その仕組みを説明する余裕がないので、「そのような取引記録を作成できる」と仮定していただきたい。

ブロックチェーンはほぼ10分ごとに更新される。公開されているので、コインを受け取った人(商品の売り手)は、その取引記録がブロックチェーンに記載されているかどうかをチェックできる。記載されていれば、自分が正当な保有者と認められたことになるので、商品を引き渡す。

ブロックチェーンを維持する行為は、ボランティア活動ではない。ビットコインの形で報酬を受け取れる可能性がある。それを金鉱採掘に見立てて、「マイニング」と呼ぶ。それによってビットコインの総量が決まる。2041年ごろまで増え続け、それ以降は一定になるように設計されている。なお、少額のビットコイン取引には(通常はごくわずかの)手数料が課され、それもマイナー(採掘者)の報酬になる。したがって、ビットコイン総量が限度に達した後も、ブロックチェーンは更新され続ける。

ビットコインを信じるか否かは、以上で述べた仕組みを信じるかどうかにかかっている。あまりに斬新なので、多くの人は戸惑うだろう。

しかも、ビットコインには、金など実物資産の裏づけがない。しかし、「だからビットコインは危ない」とは言えない。なぜなら、国の通貨や銀行の預金も同じだからだ。貨幣当局が乱発せず、銀行が倒産しない(倒産しても、預金保険がカバーしてくれる)との信頼がそれらを支えている。しかし、不良債権や金融緩和政策で、信頼は近来とみに失われている。これに比べれば、ビットコインのほうが確実とも言える。

社会の基本的な仕組みに本質的な影響を与えるか?

ビットコインの潜在力は、計り知れないほど大きい。「安全なシステムとは、信頼ある主体が責任を持って運営するもの」と考える人には、狂気のアナーキズム(無政府主義)と見えるだろう。他方で、いかなる権力の恣意的な決定も否定し排除したいと願う人にとっては、究極の理想社会を実現する手段だ。

ビットコインを用いる送金は、コストが非常に低額なので、受け入れ者が増えれば、銀行の送金システムは不要になってしまう。広く使われるようになれば、中央銀行の独占的地位は維持できない(または不要になる)。

取引は追跡できるが、それを現実の個人や企業に結びつけることができない。報酬をビットコインで受け取れば、課税当局は把握できない。違法取引に使われたり、マネーロングリングに使われたりしても、追跡できない。もっとも、これは、ビットコイン固有の問題ではない。日本銀行券でも同じことだ(「親切な人からの個人的借り入れ」を日銀券で受け取り、かばんに入れて運んだ某氏の例を引くまでもなく)。それよりはるかに効率的というだけのことである。

ただし、効率的なことが大問題なのだ。究極的には、国家の存在も脅かされる。実際、中国が禁止したのは、富裕層がビットコインで資産を海外に移すのを阻止しようとしたためだと考えられている。

これは中国だから可能なことだ。両替所や受け入れ店舗を規制することはできるが、インターネット通信を禁止しない限り、ビットコインそのものを規制することはできない。そもそも、禁止したり規制したりしようとするのが無意味だと考えられる。

ビットコインの理解に必要なのは、コンピュータサイエンスや暗号理論と、経済学や貨幣論である。最も根底にあるのは、数論(整数論)だ。これまでのところ、システム維持の技術的な面では、何の欠陥も見いだされていない。もっとも、素因数分解に関するある種の問題の効率的解法のアルゴリズムが発見されるか、量子コンピュータが実用化されれば、存立の基盤は大きく揺らぐ。しかし、そうしたことが近い将来に起こるとは考えられない。

だが、経済的な側面では、すでに問題が発生している。投機の対象となって価値が乱高下していることだ。コインの供給を需要に関連づける何らかのメカニズムを導入する必要があるのかもしれない。電子コインは、ビットコインが唯一のものではない。実際、類似の通貨がすでに多数誕生している。この問題に解答を与えたコインが成長していくことになるだろう。

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