輸出立国に執着せず所得収支に目を向けよ

2013年の貿易収支は11兆4803億円の赤字となり、年ベースで過去最大となった。貿易赤字が拡大した原因は、二つある。第1は、鉱物性燃料の輸入を中心として輸入が増えていること、第2は、円安が進行したにもかかわらず、輸出数量が伸びないことだ。いずれも一時的な要因ではなく、構造的な要因である。したがって、貿易赤字は、今後も継続するだろう。貿易立国、輸出立国の基盤はすでに崩壊していると考えざるを得ない。

ただし、注意すべきは、貿易赤字拡大のかなりの部分は、円安の効果であることだ。これは、(必ずしも正確な表現ではないが)「計算上のもの」「見かけ上のもの」と言える。それがどの程度かを示しておこう。

貿易統計によれば、税関長公示レートの平均値は、12年が79.55円/であり、13年が96.91円/である。

ここで仮に、13年の為替レートが12年のままであったとしよう。それ以外の要因は変わらないとすれば、13年の輸禍は57.3兆円になっていたはずである(実際の値は69.8兆円)。また、輸入は、66.7兆円になっていたはずである(実際の値は81.3兆円)。したがって、貿易収支赤字は9.4兆円にとどまっていたはずだ。そして、12年の赤字6.9兆円からの増加額は、2.5兆円だったはずだ。これは、実際の赤字増加額4.6兆円の54.3%に当たる。

残り2.1兆円(4.6兆円の45.7%)は、円安によるものだということになる。つまり、赤字増加の半分近くは、円安によるものなのである。

輸出が増えないのは現地価格が低下しないから

教科書的な説明では、円安になれば輸出が増加し輸入が減少して、貿易収支の黒字が拡大する。12年秋からの円安は極めて顕著なものであったから、貿易収支が目覚ましく改善して然るべきだ。しかし、現在の日本ではまったく逆のことが起こっている。

こうなる一つの原因は、輸入面にある。最近数年間の輸入増大の大きな原因は、発電用燃料の輸入が増加していることだ。ところが、電気は価格弾力性が低い財であるため、電気料金が上がっても需要があまり減少しないのである。したがって、発電用燃料の輸入量も減少しない(実際には、増えている)。

もう一つの原因は、輸出数量が伸びないことだ。なぜ伸びないのか? 一つの大きな原因は、輸出企業が現地通貨建ての輸出価格を低下させていないことだ(それに加えて輸入国の景気が思わしくないために、日本からの輸出が伸びないのである)。

過去1年間の現地通貨建て輸出物価の推移を見ると、下落はしているものの、下落率はわずか1.8%にすぎない。この間に円ドルレートは18.1%も下落したことを考えると、極めて低い下落率だ。近似的に言えば、「円安にもかかわらず、現地通貨建て価格は変わらなかった」と言ってよい。「円安になれば輸出量が増える」とされる大前提は、現地通貨建て価格が低下し、日本製品の価格競争力が高まることだ。しかし、現実にはその大前提が満たされていないのである。

これに関連して、「Jカーブ効果」について述べておこう。これは、通貨が減価したとき、最初は貿易収支が悪化するが、時間がたてば赤字が減少して黒字になるとする考えだ。円安にもかかわらず輸出数量が伸びないことの説明として、この概念が持ち出されることがある。しかし、この考えは誤りだ。

Jカーブ理論の大前提は、「輸出の現地通貨建て価格が低下する」ということだ。ただ、それが販売量を増やすのに時間がかかるために、すぐには輸出が増えないということなのである。

しかし、現在の日本の輸出については、そもそも現地通貨建て価格が低下していないのである。だから、時間がたっても、価格効果で輸出数量が増えると期待することはできない。

貿易収支の赤字拡大にどう対処すべきか?

東日本大震災以降の発電用燃料の輸入増大が、貿易収支赤字化の大きな原因になっていることは否定できない。このことを理由として、原子刀発電の本格的再稼働を進めるべきだという意見があるかもしれない。

確かに、原発依存度を高めれば燃料輸入は減少し、貿易収支赤字はそれだけ縮小するだろう。しかし、それによって赤字が解消するわけではない。そのことは、次のように確かめられる。

13年におけるLNG(液化天然ガス)の輸入額は、約7.1兆円に上った。大震災前の10年には約3.5兆円であったので、約3.6兆円ほど増えたことになる。したがって、仮にLNGの輸入額が10年当時と同じ水準であれば、輸入総額は約3.6兆円減少しただろう。しかし、それでも約8兆円の赤字は生じたはずである。

しかも、原子刀発電には、これまで重視されてこなかったコストがある。使用済み核燃料の処理費用は、その一つだ。こうした要素を考えると、長期的な観点から見て、原子刀発電が本当に経済的に有利なものかどうかは、大いに疑問だと考えざるを得ない。

他方で、貿易収支の赤字に対処する方法はいくらもある。

まず、所得収支の収益率を引き上げる努力をすべきだ。これは、いくっかの方法で実現することができる。

例えば、これまでは国内で生産活動をしていた企業が生産拠点を海外に移したとしよう。それまで国内生産で賄われていた国内需要は、輸入に頼ることになる。したがって、貿易収支は赤字化する。しかし、海外生産の利益が配当として国内に還流すれば、所得収支の黒字は拡大する。それによって経常収支の赤字化を抑えることができる。

いま一つの方法は、対外資産の運用を効率化して、運用利回りの上昇を図ることだ。日本の対外資産は、世界最大であるにもかかわらず、運用利回りは低い。現在の運用利回りを1%ポイント程度引き上げることは、決して不可能ではない。それが可能であれば、所得収支の黒字が拡大し、経常収支の黒字拡大に寄与する。

さらに、仮に経常収支の赤字が継続することになったとしても、それ自体が問題であるわけではない。

第1に、対外資産を売却することで対処することができる。経常収支の赤字が年間数兆円の水準である限りは、これによって数十年間持ちこたえることができるだろう。もっとも、これは、「時間稼ぎ」にすぎないとも言える。

しかし、資本収支の黒字で経常収支の赤字を継続的にファイナンスすることは不可能ではない。

事実、アメリカの経常収支赤字は、リーマンショック前よりは減少したとはいえ、いまだに巨額だ。しかし、それがアメリカ経済に問題をもたらしているわけではない。長期金利も日本よりは高いものの、南欧諸国などに比べれば低い。

それは、アメリカに資金が流入するからである。アメリカ経済が将来も健全であると人々が信じる限り、流入は続く。しかも、信じ難いことに、アメリカの所得収支は黒字である。これと同様のことがイギリスにっいても言える。

つまり、重要なのは、経常収支が黒字か赤字かではなく、資本収支の黒字を継続できるような信頼を獲得しているか否かである。その信頼を得られるかどうかは、世界経済の構造変化に適応した産業構造を持っているかどうかで決まる。

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