住宅貸し出しで高まったマネーストック伸び

2013年4月の異次元金融緩和導入時点において、日本銀行はマネタリーベースの目標値は示したが、マネーストックの目標値は示さなかった。金融政策の効果はマネーストックがどの程度増えるかにかかっているのだから、これについての目標値がなかったのは不思議なことだ。

その半面で、消費者物価上昇率についての目標値は、「2年程度の期間において年率2%に引き上げる」という形で、具体的に示した。しかし、消費者物価は、為替レートによって強く影響される。そして、為替レートは主として海外の事情によって動く。したがって、国内金融政策の影響を取り出すことは困難だ。

このように、異次元金融緩和措置は、目標の示し方について適正さを欠くものであった。つまり、日本銀行が直接に動かせるマネタリーベースと、さまざまな要因によって動かされる物価上昇率だけを示し、中間目標たるマネーストックには言及していなかったのだ。

前回述べたように、13年の経済成長率が高まったのは、公共事業の増加や住宅の駆け込み需要によるものだ。また、円安で株価が上昇したのは事実だが、円安も主として海外の事情によって生じた。金融緩和策によって日本経済を活性化したと考えている人が多いが、実態はまったく違う。以下で述べるように、マネーストックはほとんど増えていないのである。金融緩和策は、「偽薬」(プラシーボ)以外の何物でもない。

マネーストックは期待通りには増えず

マネタリーベースは、異次元金融緩和措置によって著しく増加した。平均残高は、3月の134.7兆円から12月の193.5兆円まで58.7兆円増加した。12月末残高は201兆8472億円となり、目標とされていた200兆円を上回った。平残の対前年同月比は、13年8月以降継続して40%を超えており、11月には52.5%という異常な高さとなった。

他方で、マネーストックの対前年増加率も、M2で見ると3月から3%を超えており、10月からは4%を超えている。M3で見ても、6月から3%を超えている。このようなマネーストックの伸び率は、「現行統計としてさかのぼれる05年以降で過去最大」と報道された。

こうした状況を見て、「異次元金融緩和の効果が出てきた」との印象を持った人が多いだろう。しかし、これは、一種の錯覚にすぎないのである。

第1に、マネーストックの増加額は、マネタリーベースの増加額にはるかに及ばない。13年3月から12月までのマネーストックの増加額は、M2で見ると、28.7兆円である(3月の834.1兆円から12月の862.8兆円へ)。これは、右に見たマネタリーベース平残の増加額58.7兆円の48.9%にすぎない。M3で見ると、同期間中の平残増加額は32.9兆円である。

対前月増加額で見ても、同様の傾向だ。マネタリーベースの対前月増加額は、異次元金融緩和措置導入以降、著しく増加したが、マネーストックの対前月増加額は、M2で見てもM3で見ても、4月と6月を除けば微々たるものだった。

実際、マネーストックの平残は、4月から10月までほとんど一定で、増加しなかったのである。そして、10月までは、マネーストックの対前月増加額は、マネタリーベースの増加額を下回った。

ところで、13年6月以降ほとんど増加していなかったマネーストックは、12月には増えた。しかし、12月に増えるのは毎年のことである。そこで、季節調整値で対前月増加額の推移を見ると、異次元金融緩和措置によって増加額が格別増えたわけではないことがわかる。季調済み対則月増加額は10月から継続的に減少しており、12月は10月の73.0%まで低下した。この傾向は、M3で見てもほとんど変わらない。

マネーストックが増えなかったのは、銀行の貸し出しが増えなかったからだ。銀行・信用金庫計の総貸出平残の推移を見ると、異次元金融緩和の導入後、11月まではほとんど増えなかった。11月の平残は、3月の平残から0.6%増えたにすぎない。5月、6月の平残は、4月の平残に比べて減少したほどである。13年12月には平残が増加した。しかし、これも季節変動の影響と考えられる『以上についての詳細は、アイヤモンド・オンライン』連載中の「期待バブルが幻滅に変わるとき」を参照)。

増加しているのは住宅関連 駆け込みが終われば伸びも低下

貸し出しの中身を見ると、本来であれば金融緩和措置によって増加すべき設備資金の貸出残高が、あまり伸びていない。特に製造業に対する設備資金貸し出しがそうだ。

増加を続けているのは、個人に対する住宅ローンだ。消費税増税前の駆け込みで増えているのである。長期金利が歴史的低水準になったために、住宅ローン金利水準が低く、先行き上昇が予測されたことも影響しただろう。そして、住宅需要に応じるために、不動産業での投資資金借り入れも増えた。

つまり貸し出しは、金融緩和の結果として一般的に増加したのではなく、特殊要因によって対不動産業と対個人で増えたのである。

住宅ローンの増加は、11年ごろから見られる現象である。消費税増税後に年間住宅建設額が10年ごろのレベルに戻るとすれば、不動産業や個人に対する貸し付けもそのころのレベルに戻るだろう。具体的には、次のように推定される。

13年7~9月期における不動産業向け貸出残高(国内銀行、銀行勘定)は、60.7兆円。個人向けは、122.1兆円だ。これらの合計は、182.8兆円だ。他方、10年の平均値は、不動産業が59.7兆円、個人が113.4兆円、合計で173.1兆円だった。

これが182.8兆円まで増加したのは、住宅駆け込み需要のためであったとすれば、駆け込み需要がなかった場合の貸出残高の総額は、現在より9.7兆円だけ少ない値になっていたはずである。これは、13年7~9月期における総貸出残高の2.26%に当たる。

駆け込み需要がなかった場合にマネーストックも同率だけ少なくなっていたとすれば、現実の値より2%ほど少ない値になっていただろう。M2で言えば、13年12月の値は、845.6兆円になっていただろう。

10年12月の残高782.3兆円からここまで、3年間同一率で増加したとすれば、年平均増加率は2.63%だ。一方、この間の現実のM2の対前年増加率は、3%程度であった。したがって、このうち0.4%程度は住宅関連だったということになる。

住宅駆け込み需要による貸し出しがなくなれば、今後のM2の伸び率は2.6%程度に低下するだろう。

なお、前回、住宅建設が10%程度減少する可能性があると述べた。これは、フロー量である。ここで考えているのは貸出残高というストック量なので、変化率はそれより小さい。しかし、これまでよりも伸び率が低下するといケ変化は起きるわけだ。

しかも、これで済む保証はない。需要の先食いをしているのだから、落ち込みはもっと激しくなる可能性がある。また、アメリカ金融緩和策の縮小(または終了)に伴い、アメリカの長斯金利が上昇する可能性が高いが、それによって日本の金利が上昇する可能性もある。それらを考えれば、影響がもっと大きくなる可能性を否定できない。

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