円安による費用増の約7割は企業が負担

円安による輸入価格の上昇分はどう負担されてきただろうか? 消費者物価の上昇で、消費者の負担が増えたことは、広く認識されている。しかし、実際にはもう少し複雑である。以下では、これについての分析を行おう。

2012年10月から13年9月までの輸入額は77.0兆円、輸出額は67.1兆円だ。円ドルレートは、この間に18.7%減価した。したがって、円安による増加分は、輸入が14.4兆円、輸出が12.6兆円と評価される。

輸入増加額のうち、最終財に転嫁された分を計算しよう。13年7~9月期までの1年間の各需要項目額は、民間最終消費支出が290.9兆円、民間住宅が14.8兆円、民間企業設備が64.3兆円、公的固定資本形成が22.4兆円だ。民間最終消費支出については、消費者物価指数で評価する。全国の総合指数は、12年10月から13年9月までに1.0%ポイント上昇した。これによる民間最終消費支出の増加額は、2.92兆円だ。投資支出については、企業物価指数のうちの資本財価格指数で評価する。この指数は、同期間に1.5%ポイント上昇した。これによる投資支出の増加額は、1.52兆円だ。

したがって、輸入増加額のうち最終財に転嫁されたのは、以上の合計である4.44兆円と評価される(原理的には輸出への転嫁もあり得るが、ここではないものとする)。

これを輸入増加額14.4兆円から差し引いた10兆円か、企業負担になっているはずだ。そして、円安による企業利益増は、これを輸出増加額12.6兆円から引いた2.6兆円だ。

法人企業統計の数字では、全産業(金融保険業を除く)の営業利益は、12年7~9月期の9.1兆円から13年7~9月期の11.4兆円に、2.3兆円増加した。これを4倍して年間ベースにすれば、9.2兆円だ。これは、上記2.6兆円に比べてかなり大きい。

それは、利益は円安以外の要因でも増えたからだ。電機産業でのリストラによる利益増(2820億円。数字は四半期、以下同)、電力の燃料費調整に時間遅れがあったことによる利益増(3690億円)、住宅の駆け込み需要による不動産業の利益増(748億円)、公共事業増加による建設業の利益増(2710億円)などがそれで、この合計は約1兆円だ。年間ベースでは約4兆円になる。

ただ、それにしても円安が企業利益に与えた影響は大きい。全産業の利益は年間ベースでは約40兆円だが、右で算出した円安による利益増や企業負担は、これと比較し得る大きさだ。円安の進展度や転嫁度は、企業利益に大きな影響を与えるのである。

エネルギー関連では転嫁が進んだ

円安による輸入増加額14.4兆円のうち企業が10兆円を負担しているのだから、あまり転嫁が進んでいないとも言える。

転嫁が進んでいないことは、企業物価指数を見てもわかる。12年9月と13年9月を比較すると、国内企業物価指数の総平均は、2.19%しか上昇していない。工業製品は、1.41%の上昇にとどまっている。

どの程度の転嫁が可能かは、制度と価格弾力性に依存する。電力の場合、燃料価格の上昇は、燃料費調整制度で自動的に電気料金に転嫁される。しかも、電気は必需財であって価格弾力性が低いため、需要は減少せず、売り上げが増える。

法人企業統計で電気業の状況を見ると、(原価-人件費)の増加率は4.8%だが、売上増加率は9.5%だ(原価から人件費を控除した額を見ているのは、これが原材料費に対応すると考えられるからである)。したがって、100%の転嫁以上に売り上げが増加している。これは、燃料費調整が時間遅れを伴って行われたためと考えられる。

ガス・熱供給・水道業についても、類似の状況がある。すなわち、(原価-人件費)の増加率は、円安率にほぼ等しい19.6%だが、売上高の増加額と(原価-人件費)の増加額がほぼ等しい。したがって、コストアップは、ほぼ転嫁したとみられる。

石油製品・石炭製品製造業でもそうだ。(原価-人件費)の増加率は、円安率にほぼ等しい18.0%だ。しかし、売り上げ増と(原価-人件費)の増がほぼ等しい。したがって、原価増加をほとんど転嫁していることがわかる。これがガソリン価格を高め、消費者物価を上昇させたのだ。

円安による利益増が最も顕著に見られるのは、輸送用機械器具製造業である。輸入原材料がほとんどないため、(原価-人件費)が1%しか増加していない。売上高増加率は約5%とそれほど高くはないのだが、原価が増えないため、利益が92%も増えている。製造業の利益増加額1兆1609億円の39.6%がこの部門で生じている(以上の詳細は、『ダイヤモンドーオンライン』連載の「期待バブルが幻滅に変わるとき」を参照)。

企業物価指数を見ても、電力・都市ガス・水道(9.89%上昇)、石油・石炭製品(11.90%上昇)などは、高い上昇率だ。転嫁の進展を示している。

これに対して、食品加工業や外食産業のように原料が輸入で需要が国内の増合、転嫁は難しい。原材料価格上昇分は、素材産業などの川上産業の負担になっている分か多いと思われる。企業物価指数の鉄鋼は、±0にすぎない。したがって、鉄鉱石や石炭の輸入価格の上昇分は、ほとんどすべて鉄鋼産業で負担されていると考えられる。

2%インフレ率は実現するか?

消費者物価の今後を推計するために、まず消費者物価とエネルギー産業売り上げ増との関連づけを行っておこう。

法人企業統計によると、12年7~9月期から13年7~9月期にかけてのエネルギー産業の売上増加額は、次の通りだ。電気業4861億円、ガス等1411億円、石油製品等8119億円。これらの合計は、1兆4391億円だ。この半分が消費者分であると考え、それを4倍して年ベースにすると、約2.8兆円となる。これは、前に消費者物価から推計した結果(2.92兆円)とほとんど一致する。これから、次のことが言える。①円安による輸入価格上昇の消費者への転嫁は、主としてエネルギー価格の上昇を通じて行われている。②需要の約半分が消費者分であると考えてよい(電気については、販売額のほぼ半分が家庭用であることが、電力会社のデータからも確かめられる)。

なお、12年における鉱物性燃料の輸入額は24.1兆円だ。これに円安率を掛けた4.5兆円か円安による増加分だとすると、電気業の年期売上高増加は、この43%になる。

消費者への転嫁はエネルギー価格の上昇を通じるものであり、すでに転嫁が行われた。具体的には、約2割の円安によって、消費者物価指数が約1%ポイント上がった。他方で、企業が現在負担している10兆円か今後消費者に転嫁される可能性は低いと考えられる。

これから、次の二つが結論される。第1に、今後の消費者物価の上昇は、今後さらに円安が進んだ場合に限られるだろう。第2に、消費者物価指数がさらに1%ポイント上がるためには、さらに2割程度円安が進む必要がある。

結局のところ、日本銀行が掲げている「インフレ率2%」が実現できるかどうかは、為替レートの今後の変化に懸かっている。

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