異次元金融緩和後に企業利益は減少した

法人企業統計は、日本経済が陥りつつある困難な状況をヽ明確に示している。

売り上げがあまり伸びず、設備投資も伸びない。それだけでなく、企業利益も減少し始めたのである。2013年7~9月期の季節調整済み経常利益の対前期比増加率は、全産業では▲1.6%、製造業では▲5.2%となった。

利益が減っているという事実は、多くの人にとっては意外なニュースであろう。そう受け止められる理由は二つある。

第1の理由は、この1年ほど、「企業利益が改善」というニュースが喧伝されてきたからだ。

13年3月期の決算に関しては、「大幅増益」と報じられた。円安によって利益が著しく増加した企業があるのは事実である。しかし他方で、利益が減少した企業もあるのだ。

上場企業だけを取ってもそうである。東京証券取引所がまとめている決算短信の連結で営業利益を見ると、12年度は、全産業で対前年度比3.1%の増。製造業が6.22%増。非製造業は0.42%減だ。これは、一般の印象よりだいぶ低い。

こうなるのは、減少した産業もあったからだ。輸送用機器は、62.3%増と著しい伸びを示したが、その他の多くの業種で営業利益が減少した。繊維製品、石油・石炭製品、ガラス・土石製品、鉄鋼などは、2桁の減益となった。仮に輸送用機器の増益がなかったとすれば、製造業全体の営業利益は、対前年度比で減益になっていたはずである。

ところが、報道は、増益を強調する一方で、減益についてはあまり報道しなかった。このため、人々は、全体像を把握できず、ゆがんだイメージを持つこととなったのだ。

第2の理由は、比較する時点に関するものだ。企業利益は、13年1~3月期と4~6月期に円安の影響で売り上げが伸びたため、大きぐ伸びた。しかし、その後、利益が圧迫されてきた。

企業利益に限らず、さまざまな増加が異次元金融緩和以前に生じているのである。安倍内閣の経済政策に対する期待が強く、そのために指標が上昇したのだ。

しかし、5月末以降、期待がはげ落ちた。まさに期待が先行し、そして期待だけで終わってしまったのである。

だから、対前年度比で見るか対前期比で見るかによって、印象が大きく異なる。実際、法人企業統計でも、7~9月期の経常利益の対前年同期比を見ると、全産業では、24.1%(前期24.0%)という高い値となっている。特に製造業は、46.9%という極めて高い伸び率だ。

なお、中期的に見ると、企業利益は10年ごろのほうが大きかった時期があった。そして、リーマンショック前に比べると、日本企業の収益力は大きく落ちている。自動車は12年の落ち込みが大きかったため、伸びが大きく見えている面がある。

円安は円建て輸出額を増やすが輸入原材料費を高める

なぜ利益が増えないのか? 大きな理由は、円安が原材料価格を高めるからである。

円安の利益増加効果が大きいと喧伝され、株価の上昇があまりに顕著であったため、円安で未曾有の利益が出たような錯覚に陥る。しかし、実態は違う。

発電用燃料の輸入額が増え、部品や完成品の輸入額も増える。日本産業の輸入依存度は高まっている。だから、円安で輸入価格が上昇するのは、企業にとって、必ずしも望ましいことではないのだ。

円高期であった10年ごろに現在より経常利益が多い時期があったことは、円安が利益を増やすとは限らないことを示している。また、貿易収支が巨額の赤字になっていることは、総需要の大きなマイナス要因だ。7~9月期のGDP(国内総生産)統計でも、外需は大きなマイナス寄与度になっている。

実際、前記決算短信の数字で見ると、製造業は全体として伸びたが、すでに述べたように、業種によって著しい差がある。自動車産業のように輸入原材料の比率が低いと、円安は利益を大きく増加させる。

しかし、輸入原材料の比率が大きいと、円安で利益は減少するのだ。以上についての詳細なデータは、『ダイヤモンド・オンライン』に連載中の「期待バブルが幻滅に変わるとき」を参照されたい。

これ以上の円安の阻止は企業利益の観点からも緊急

設備投資も減っている。ソフトウェアを除く設備投資額の季節調整値で見ると、7~9月期には前期比▲0.5%と4四半期ぶりの減少となった。業種別に見ると、製造業は前期比▲0.7%と、6四半期連続の減少となっている。またこれまでは堅調な推移が続いていた非製造業が、同▲0.4%と4四半期ぶりの減少となった。4~6月期には4.6%増だったので、かなり落ち込んだことになる。

この結果を受けて、7~9月期GDP統計2次速報は、1次速報から大幅に下方修正された(民間企業設備の季節調整済み対前期比が0.2%から0.0%に。実質GDPが0.5%から0.3%に)。

右の事実は、金融緩和政策の評価に関して重要な意味を持っている。金融緩和に本来期待されるのは、実質金利が引き下げられて、設備投資が増加することだ。それこそが、「経済の好循環」である。しかし、そうしたことは起こっておらず、設備投資額は金融緩和後、逆に減少しているみである。

言うまでもないことだが、株価は企業の利益を反映している。正確に言えば、将来にわたる利益の割引現在値が株価だ。では、日本の株価は、企業の期待利益を正しく反映しているのだろうか?

日経平均株価は、12年秋ごろの9000円程度から、現在の1万5000円台まで大きく上昇した。そして、最近再び上昇しようとしている。しかし、企業の利益は、以上で見た通りの状況なのだ。両者を比較すれば、株価はバブルを起こしているとしか言いようがない。

人々が「日本経済は回復しつつある」という印象を持つ最大の原因は株価の急上昇にある。しかし、7~9月期の法人企業統計は、そうしたイメージとは全く異なる日本企業の姿を示している。この警告を正しく受け止め、それに対処することが必要だ。

今後はどうなるだろうか? 仮に13年10~12月期、14年1~3月期の利益が、13年7~9月期と同じなら、13年度の経常利益は、対前年度比で全産業では8.29%増、製造業では18.9%増となるだろう。これは、株価上昇率に比べると、かなり低い値だ。しかも、利益がこの仮定通りになるかどうかも確かではない。

まず円レートがどうなるかわからない。さらに、為替が変わらなくとも、原材料費が上昇して利益を圧迫するだろう。

これまで、円安は、消費者物価を引き上げて家計にマイナスに働くことはあっても、企業利益にはプラスだと考えられてきた。いまでも、株式市場では、円安が進むとほぼ自動的に株高が進む場合が多い。しかし、これが正しい反応かどうかは、大いに疑問がある。右に見たように、円安が多くの企業の利益を圧迫し始めているのである。

為替レートの行方は、前回見たように不確実性に覆われている。しかし、日本政府が円安を抑止することは不可能ではない。現状では、口先介入だけでも、為替レートには多大の影響が及ぶだろう。円安を抑止する必要性は、緊急のものとなった。

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