物価が上昇したため実質成長率が下がった

2013年7~9月期のGDP(国内総生産)速報値の内容で最も重要なのは、実質消費の伸びが、物価上昇のために鈍化したことだ。これは、デフレ脱却を経済政策の目標に置く政府・日本銀行の考えが、基本的に誤っていることを意味している。そして、円安に起因する物価上昇を、早急に抑える必要があることを示している。

GDPの最大の需要項目である民間最終消費支出は、リーマンショック後の日本の実質GDPの成長を支えてきた。今年に入ってからの実質の対前期比は、―~3月期には0.8%(寄与度は0.5%)、4~6月期には0.6%(同0.4%)であった(季節調整済み。以下同)。

ところで、実質消費の伸びは、名目消費の伸びに起因する部分もあるが、デフレーターの下落に起因する部分もある。09年1~3月期から13年7~9月期までを見ると、実質消費は9.2%増加したが、名目消費は4.8%増加したにすぎない。つまり、実質消費増の約半分は、物価下落の効果であったわけだ。この項目のデフレーターは、12年10~12月期までの間に、大きく下落した。このため、実質消費の伸びが名目消費の伸びより高い状態が続いたのである。

ところが、13年7~9月期には、デフレーターが上昇した。これは、円安によって消費者物価上昇率が上昇したためだ。この結果、実質伸び率と名目伸び率の大小関係が逆転した。すなわち、名目民間最終消費支出が前期比0.4%増加したにもかかわらず、実質民間最終消費支出は0.1%しか増加しなかったのだ(寄与度は0.1%)。これは、4~6月期までの伸びに比べると、かなりの低下だ。実質GDPの伸び率が低下した大きな原因がここにある。

国内需要全体についても、同様のことが言える。すなわち、09年1~3月期から13年7~9月期の間に、実質国内需要は8.7%増加したが、名目値は5.2%増加したにすぎない。そして、実質伸び(0.9%)が名目伸び(1.1%)より低くなった。

なお、7~9月期においては、民間需要全体の寄与度が0.5%であるが、そのほとんどは在庫品増加である。これは、消費税増税前の「買いだめ」である。GDP速報についての詳細な分析は、『ダイヤモンドーオンライン』の新連載「期待バブルが幻滅に変わるとき」を参照されたい。

デフレ脱却を目標にするのは誤り

政府・日銀は、物価上昇率の引き上げを政策目標にしている。これは、「物価上昇率が高まれば、買い控えが減って、需要が増える」という考えに基づく。

しかし、この考えは間違いだ。物価が上昇すれば、実質国内需要は減少するのである。これが、右で見たことである。「デフレ脱却」は、経済政策の目標としては、受け入れられない。

ところで、教科書的な経済理論では、経済的決定は実質値に関してなされるとされる。この考えでは、物価はヴェールにすぎず、経済活動に影響を与えない。名目値での決定は、「マネーイルージョン」に基づくものとされる。

しかし、これは仮定にすぎず、実際の経済的決定が名目値と実質値のどちらでなされるかは、議論の余地がある問題だ。現実の世界では、多くの決定が名目値でなされている可能性がある。少なくとも、家計の消費決定についてはそうだ。

この見方が正しいとすれば、物価上昇が実質値を引き下げることになる。つまり、生産量、売上量などを抑制する。インフレ率上昇は、政府・日銀が言うように経済を活性化するのでなく、逆に沈滞させるのだ。7~9月期GDP速報値は、このプロセスがすでに生じていることを示している。

なお、「物価上昇率の高まりが実質需要を減らす」ということと、「消費税率の引き上げを予期した買い急ぎ需要がある」というのは、矛盾していると考えられるかもしれない。しかし、そうではない。両者は別のものである。

消費税率の引き上げは、物価水準の1回限りの上昇をもたらすが、継続的な物価上昇をもたらすことはない。また、政府が決定した以上、将来のある時点で確実に生じ、将来引き下げられることはない。したがって、住宅や耐久消費財については「買い急ぎ」が起こるのである。

それに対して、消費者物価上昇率の上昇は、水準ではなく、上昇率に関わるものだ。消費者物価上昇率の上昇が期待される場合には、名目利子率が上昇する。だから、いま買わずに貯金しても、将来の元利合計が多くなるから、いまと同量を将来買うことができる(消費税率引き上げの場合には、こうしたことは起こらない)。したがって、買い急ぎは生じないのである。そして、物価上昇率の変化は、予想し難い。上昇率が上がっても将来また下がるかもしれない。このため、人々の現実の反応は複雑なものとなる。

「好循環」は起こっておらず実力はマイナス成長

7~9月期の実質GDPの対前期比は、0.5%である。これを「4期連続プラス成長」とポジティブに評価した報道が多かった。しかし、実態は逆だ。

成長率がプラスとなったのは、民間住宅(住宅投資)と民間在庫品増加(在庫投資)、そして公的資本形成(公共事業)の伸び率が高かったためだ。しかし、これらのうち、住宅投資と在庫投資は、消費税増税前の駆け込み需要であり、消費税が増税されれば消滅することが明らかなものだ。

住宅投資、在庫投資、公共事業の成長寄与度の和は、0.9%である。言い換えれば、これらがなければ、7~9月期の実質GDPの対前期比は▲0.4%となっていたはずだ。これが現在の日本経済の実力だ。

政府・日銀は、「経済の好循環が始まりつつある」としている。「好循環」とは、公共事業や輸出などの外生的需要が増加しなくとも、消費や投資が自律的に増加を続けることだ。最も重要なのは、「所得増が消費増をもたらし、それが総需要を増やして生産が拡大し、さらに所得が増える」という過程(マクロ経済学で言う乗数過程)である。

しかし、7~9月期のGDP速報で成長を支えているのは、持続しない駆け込み需要と公共事業である。駆け込み需要は、あと数カ月は続いてGDP成長率を引き上げるかもしれない。これは「好循環」とはまったく異なる姿だ。しかも、消費税率の引き上げ後、住宅や消費の伸び率がゼロで止まる保証はない。大きな反動減があるだろうし、需要水準が長期的に低下する可能性もある。したがって、マイナス成長が現実化するのは大いにあり得ることだ。

雇用者報酬は、3四半期ぶりでマイナスになった(実質季節調整済み前期比が、13年1~3月期には0.7%、4~6月期には0.3%であったが、7~9月期には▲0.6%)。「デフレ脱却」でなく、「実質所得減少からの脱却」が必要なのだ。そのためには、これ以上の円安を止めることが必要だ。

輸入物価の上昇は、GDPデフレーターを押し下げる方向に働く(GDPの計算で輸入は控除項目であるため)。しかし、製品価格に転嫁されると、国内需要のデフレーターを引き上げる。すると、これまで述べてきたメカニズムによって、実質成長率はさらに押し下げられる可能性がある。円安を抑制することは、焦眉の急となった。

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