企業利益は増加するが正規雇用は増えない

2013年9月期の中間決算で、上場企業の利益増発表が相次いだ。

問題は、利益増が経済全体の好循環を引き起こすかどうかだ。ここで「好循環」とは、次のようなプロセスを指す。

企業が雇用を増やし、賃金が上昇する。労働者の所得が増えて消費が増える。また、企業が設備投資を増やす。こうしたことによって、経済全体の需要が増え、それが国内生産を増やす。そして、自律的な内需中心の成長が始まる。

しかし、現実の日本経済では、こうしたプロセスは生じていない。

設備投資が減少過程から脱却したのは事実だが、それは、住宅駆け込み需要の影響で不動産業の設備投資が増えたためだ。利益増は製造業を中心に生じたにもかかわらず、製造業の設備投資は減少を続けている。

前回述べたように、賃金は増えない。物価が上昇しているので、実質賃金が低下している。そして、以下に見るように、雇用も増えない。

このため、経済全体の需要が増えない。増えているのは、公共投資を中心とした官需だけである。

なぜこうしたことになるのだろうか?

その原因は、利益を増加させているメカニズムに見いだされる。需要増で生産量や売上量が増えたために利益が増加しているのではなく、単に円安で円建ての輸出価格が上昇し、円建ての売上額が増加したために、利益が増えたにすぎないのである。

設備投資が増えるには、将来の生産量が増加するという見通しが必要だ。また、消費が増えるには、将来の所得を反映する恒常所得が増加することが必要だ。しかし、それらがないのである。このために、好循環が始動しないのだ。

雇用増のほとんどはパートタイムの増

設備投資や賃金については、この連載ですでに見た。ここでは雇用を見ることとしよう。

経済全体としての雇用は増えており、失業率は低下している。しかし、雇用増の大部分は、パートタイム労働者の増加だ。一般労働者(フルタイム労働者)はほとんど不変だ。

パートタイム労働者の収入水準は低く、かつ将来が不安定だ。こうした形態の雇用が増えても、消費は増えず、したがって、経済が回復に向かうことはない。

製造業は円安によって利益が増えたが、それは雇用総量には影響を与えていない。パートタイム労働者が増える半面で、一般労働者はかなり減少した。つまり、一般労働者からパートタイム労働者へのシフトが顕著に進んでいる。これは、すでに述べたように、利益の増加が、売り上げの量的な増加を伴うものではなく、円安によって円表示の売り上げが増加しただけのものであるためだ。

現在の日本の雇用増は、介護・福祉部門で支えられている。これは、円安や企業の利益増とはまったく無関係な分野だ。ここでは、一般労働者も増えているが、パートタイム労働者の増加のほうが圧倒的に多い。この分野の賃金は低いので、全体の賃金が下がる。

生産についてはどうか。鉱工業生産指数の推移を見ると、東日本大震災で落ち込んだが回復し、12年1月にピークになった。しかし、その後は下落した。ボトムが12年11月ごろで、現在はそれからの回復過程にある。

しかし、13年9月の指数98.3は、12年1月101.5に比べると、3%ほど低い。12年1月は円高期であったことに注意が必要だ。これから見ても、12年11月ごろ以降の回復は、円安の効果とは考えられない。現在の生産増は、単にボトムからの回復にすぎず、利益増によるものではない。

円安の利益を最を享受している自動車について見ると、国内生産は増加していない。エコカー補助金が12年4月に再開されたことにより、国内販売が急増し、生産も増加した。しかし、その後販売も生産も減少し、12年11月ごろにボトムとなった。現在は、この落ち込みからの回復過程にあるが、現在の生産水準は、リーマンショック後のピークであった12年4月ごろに比べて12%程度低い。

重要なのは、円安が乗用車の輸出を増やしているとは言えないことだ。13年1月にボトムになり、その後はやや回復している。しかし、リーマンショック後のピークであった11年秋から12年春ごろの水準には戻っていない。最近の円レートは、そのときに比べればかなり円安になっているにもかかわらず、輸出台数は減っているのだ。

なお、一部企業の利益がリーマン前に戻ったことから、日本の製造業がリーマン前に戻ったように考えている人が多い。しかし、実際には、リーマン前よりかなり低い。それどころか、右に述べたように、リーマン後のピークさえ取り戻していないのである。以上についての詳細なデータは、『ダイヤモンドーオンライン』に連載中の「日銀が引き金を引く日本崩壊」を参照されたい。

株価が利益増に反応しない理由

利益増の主因が円安であることの証拠は、いくつかある。

第1に、13年9月期の自動車大手8社の合計の営業利益を見ると、対前年同期比で8460億円増加した。他方で、13年4~9月の自動車輸出額は、前年同期から6633億円増加した。つまり、営業利益増の8割近くが輸出額の増加によるものである。

また、4~9月の自動車輸出台数を見ると、12年と13年では、ほとんど変わらない。したがって、輸出額増の大部分は、円安によって円表示の輸出額が増加したために生じたものである。

第2に、13年9月期の中間決算において、生産の海外展開が遅れている富士重工業やマツダの利益増が顕著である半面で、海外展開が進んだ日産自動車の営業利益が減少し、ホンダの営業利益増が比較的少ない。円安の利益増大効果は、輸出については強ぐ働くが、海外生産についてはあまり働かないのである。

第3に、中間決算の利益増に対して株価が目立った反応を示さなかった。この情報はすでに織り込み済みになっており、格別新しいニュースではなかったのである。

日経平均株価は、今年の4月ごろにおいて、1ドル=100円程度のレートが将来も続くことを株価に織り込んだと考えられる(これについての詳細は、拙著『虚構のアベノミクス』、第4章の5を参照)。

他方で、為替レートは、今年の夏以降、1ドル=97~100円程度の水準で、大きな変動はない。

13年3月期決算の段階では、企業の利益は円安をごく一部しか反映していなかった。今回の中間決算で、円安を反映した期間が長くなったため、利益が拡大した。しかし、それは、4月時点で予測されることだったので、株価を引き上げることにはならないのである。

14年3月期には、円安を反映した期間がさらに長くなるため、利益はさらに拡大する。しかし、それも4月時点で予測されていたことなので、株価には影響しない。日経平均株価は11月15日に1万5000円を超えたが、それは、円安が進んだからだ。

現在の状況を変えるものがあるとすれば、それは、実物的要因ではなく、金融的要因だろう。とりわけ、アメリカの金融緩和の行方と、ユーロ情勢の行方である。しかし、こうした金融的要因について将来を予測するのは、極めて難しい。

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